【第92話】クベアVSゴクノハ
こんにちは、ノウミです。
たくさんの小説や素晴らしい作品がある中で、私の作品を手に取っていただきありがとうございます。
これまでに多くの作品を発表してきましたが、皆様に楽しんでいただけるよう、これからも様々な物語をお届けしていきます。
皆様に「読んでよかった」と感じていただけるよう、
一層精進してまいります。
どうぞ、これからもご期待ください。
「ふぅーっ、やるぞーっ」
出発前にナディから渡された無線機と呼ばれるもの、そこから声が飛び出してくる。作戦が始まったと。
「そういえば、ナディなのか魔王なのか…」
接する態度は変わらずにいてくれた、同じラクーンの兄貴から託された存在として勝手に兄弟のように感じていた、それが魔王と呼ばれるようになって変わってしまわないか心配だった。
「よし、皆さん行きましょう!」
「はいっ」
僕の率いる部隊はエルフ族だけだった、全員にナディから貰った魔銃を装備させている。他が城壁を崩して派手に侵入する中で、風で全員を持ち上げながら上から侵入する計画だ。
城壁のそばまで駆け寄っていき、風魔小太刀を手に握り皆を優しく風で包み込んでいく。優しく持ち上げて音を出す事もなく城壁の上に降り立つ。
そのまま飛び越えて街の中へと降りてもよかったが、一旦上から状況を確認しようと考えた。
「皆さん付いてきてください」
今や部隊長に任命された、全員の命を預かりこの戦争を勝利にする為適切な指揮をする必要がある、こんな事は初めてだったが姉御もナディも、惜しみなく時間を割いて特訓してくれた。僕はそれに答えたい。
「クベア隊長、後方より敵兵です!」
「周囲警戒、各個撃破に当たれ!」
城壁の上は大きな通路のようになっていた、攻め込まれるとしても前後のどちらかだけになる。後方から来ていると言う事は、前方から来られたら挟撃される事にはなるが。
「前方にもご注意ってね」
後ろに気を取られていた、前からも敵が来ていた。声のがする方には赤い髪で全身に網のようなものを身にまとい、その上から衣服を着ている身軽そうな女性と、隣にはローブを着た少女が立っていた。
赤い髪の女性が手を振りかざすと、無数の何かが襲いかかってきた。咄嗟に、[風の渦]を唱えてそれらを巻き取っていく。取り漏らしたものは地面に突き刺さって止まっていた。
確認してみると、木の葉の形をした刃の様な物だった。
次に隣にいた少女が手に持った杖をかざすと、土塊を何発も飛ばしてくる。後ろには皆が戦っているので避ける事はできない、全て[風の渦]で防ぐ。
「もしかして…あの杖が……」
話は姉御から聞いていた、ラクーン兄貴の魔心が抜き取られて今もなお、人族の手によって利用されていると。その魔心が今目の前にある。
「あんた、やるねぇ」
「皆さんっ!後ろの敵兵は頼みます、前の二人は僕に任せてください!!」
「おや、無視かい…まぁいいけど」
「お前らだけは許さないよ、本当に」
あの少女が持つ杖だけはこのまま使わせるわけにはいかない、あいつらの思い通りになんかさせない。
深く深呼吸をし風魔小太刀を握り返す、二人を同時に相手しながらにはなるが、やるしかない。
「クベア、参る」
「名乗ってはくれるのかい、私は八獄衆【ゴクノハ】あんたらを斬り刻む者だよ」
「………」
隣のローブを着た少女は言葉を発さない、不気味な雰囲気を纏いながらその場で杖を握りながらたちすくんでいる。
[風の破断]
両の手に握った小太刀を振り切り、風の斬撃を飛ばす。この城壁の上では横に避けることは出来ない、それはこちらも同じだか。
飛ばされた斬撃は、先ほどの木の葉の刃と土の山によって防がれる。分かってはいたがそう簡単にいかないらしい、八獄衆は以前全員で挑んでなんとか勝てたが、今回は一人。
「二体一だしね……」
「何、怖気付いたのさ?」
「そんなわけないだろ、負ける気がしない」
「いうねぇ、それならこれはどう?」
木の葉の刃が集まり、一つの剣へと形を成す。それが何本も出現し一気に数本の剣が襲いかかってくる。その剣は周囲を自由自在に飛び回り、時間差をつけてこちらを切りつけてくる。
一つを弾けばすぐさまに別の剣が襲いかかってくる、そうして絶え間ななく続く剣戟に、一方的な防戦を強いられていた。
「このままでは…[風の渦]!!」
身の回りに竜巻のようなものを発生させ、周囲に飛び回っていた剣を一気に上空へと巻き上げる。その隙に、あいつらに向かって走り出し距離を詰める。
だが、それも虚しく地面から飛び出してきた拳の形をした土の塊によって殴り飛ばされる。
「がっ、ぐあぁっ!」
地面に転がりながらも受け身を取り立ち上がる、隣にいたロープの少女が術式を発動したのだろう。それも兄貴の魔心を使って。
「許せないよ……お前ら…」
殴られた衝撃で竜巻を維持できなくなり消え去る、頭上からは先ほど巻き上げた剣が、こちらに向かって雨のように振り降りてきていた。
足にまでダメージが来ていたのか立ち上がるのもやっとだった、降り注ぐ剣を風魔小太刀で弾き返していくのがやっとだった。
地面に突き刺さった物はそれ以上動かなかったが、弾き飛ばしたものは再び襲いかかってくる。
「ぐっ……くそっ…」
撃ち漏らした剣が体に刺さり始めていた、痛みに歯を食いしばり体に力を込めて弾き続けていく。
もう、この後の事は皆に任せよう……。
そう考えた時には気持ちが楽になった、任される仲間がいることもそうだし、もう我慢しなくて良いと。
[嵐ノ纏・天燐]
嵐のように荒れ狂った風が身体中を駆け巡り纏い始めていく。
「そういえ……ば、初めてだな…この状態は」
完全に纏を自分のものとし、そこに龍の力を乗せたのは初めてだった。次第に竜の力が顔を見せ始める、猛る風を体にまとわりつくように押さえ込んでいく。
手に持つ風魔小太刀からは龍の顔が飛び出していた、
「ははっ、見てるか……なぁ?」
弛んでいた糸を張るように、纏を安定させる。
その時にはもう、先程の剣は体に当たる事なく風に流されるように避けていく。
「なんだお前…急に」
「加減はできない……許せ」
「はっ、これならどうだ?」
周囲に突き刺さっていた剣が元の木の葉の刃に戻り、大量の木の葉が周囲を埋め尽くしていく。さらにその外側をドーム状の土が覆い被さり、囚われる。
「これなら逃げれないでしょう!?」
ドームの中を無数の木の葉の刃が飛び回り僕を斬りつけやようとするが、纏った嵐の前では無力。もうこの刃が届く事はない。
[嵐破]
周囲の木の葉とドームを風の爆発によって、一気に吹き飛ばす。崩れ落ちていく土塊と、木の葉が無駄な攻撃だった事を物語っている。
「なっ、」
「ごめん、終わらせるよ?」
小太刀を天に掲げ風を集めていく。
「ならこれはどうだっ、[炎獄刃]!!」
三日月の形を模した大きな刃が姿を現す、それは熱を帯びているのか真っ赤に色づき周囲の景色がゆらめいていた。
こちらも準備はできている。
「いくよ、[天龍嵐牙]」
龍の形を成した嵐を鞭のようにしならせながら赤い刃に向かって片方の小太刀を振り下ろす、それは大きな口を開けながら噛みついた。
「そのまま噛み砕け!!」
「そのまま斬り裂け!!」
二つの力はせめぎ合っていた、激しい音と衝撃が周囲に影響を及ぼすほどに広がっていく。
その影響か隣にいたローブの少女は倒れ込んでしまった、気にする必要はないがあの杖を壊すわけにはいかない、早々に決着をつけなければ。
さらに剣へと力を送り込み振り切る。
噛み砕く力は強まり赤い刃に亀裂を入れていく。
「なっ、そんな!?」
そのまま刃を噛み砕き消し去る、その衝撃でこちらの龍も消え去ってしまった。
「互角だったようね、これで……っ!」
再び木の葉の刃が舞いながら襲いかかってくる。だか、僕にはもう一本の天龍嵐牙が残されていた、もう一つの小太刀を振り下ろし襲いかかってきた木の葉の刃を飲み込みながら放つ。
「こんな、こんなことって!こんなことって!!」
「言ったろ、加減ができないって」
激しい衝撃と爆風を巻き上げながら喰らいつく、その勢いのままに城壁を消し飛ばしていく。
抉り取られた城壁は嵐の龍に飲み込まれることで、体の中で粉々に粉砕していく、体の中では形を保てなくなるほどの乱気流が吹き荒れ、それらを巻き上げる。
目の前には崖のような光景が広がっていた。
僕は纏を解除し、体を落ち着かせる。
「はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ」
我慢していた傷口から血が流れていく、思ったより深手を負っていたようだった。しゃがみ込むのも厳しくその場に倒れ込む。
「杖、は……」
なんとか杖の元へと這い寄り、それを手に取る。
「やったよ、姉御…兄貴……」
そこで意識が途絶えていた、遠くの方でエルフたちが声をかけながら歩み寄っているような気がしたが、後のことはもう大丈夫だろう。
任せたよ、皆んな……。
ご完読、誠にありがとうございます。
今回の作品が皆様の心に残るものとなったなら幸いです。今後も「読んでよかった」と思っていただける作品をお届けしていきますので、ぜひ次回作もお楽しみに。
これからも応援よろしくお願いいたします。
また次話でお会いしましょう(*´∇`*)