第9話 対魔法装備なんてなかった
今日のAランク任務は魔物集団の討伐。
ある古城に巣食った魔物グループを討伐せよというものだった。
知能も低く、本能のまま生きる魔物が徒党を組むことはめったにない。糸を引いている者がいるはず。マーティたちも心してかかる。
古城に近づくと、さっそく魔物の群れが現れる。
「スライムにゴブリン、キラービー……ゴロゴロいるな」ジェックが舌打ちする。
「そこまで強くはないけどこの数は面倒ね」うなずくエルシー。
「彼らを統率してる知能が高いモンスターがいるはずだ……行こう!」
マーティが突撃し、剣を振るう。
「せやぁっ!」
エルシーの魔法も冴え渡る。
「火球! 氷砲!」
このところめきめきと力を伸ばすジェックは、魔物を寄せ付けない。
「どんどん来やがれぇっ!」
三人は力を合わせ、古城内部を進んでいく。
大きな古びた扉があった。三人は突入する。
かつては城主の部屋だったと思われる広い部屋で、三人は“黒幕”に出会う。
魔物たちのボスは“イビルマージ”という魔物だった。
灰色のローブを着た、人間に近い魔物である。
まだまだ研究の進んでいない魔物だが、魔道具に魂が宿ったものとか、悪しき魔法使いの成れの果てなどと言われる。
人語は話さないが、知能はかなり高い。
こいつが魔物集団を組織し、人間を害していると見て間違いない。
そして名前と見た目通り――魔法を駆使する。
「魔力を高めてる……来るわよ!」
エルシーの言う通り、イビルマージは業火を飛ばしてきた。
さらに風の刃を飛ばす魔法や、周囲を凍らせる魔法も使いこなす。
どれも人間の魔法使いの魔法とは微妙に違う。
「すげえな……見たことない魔法ばかりだ!」
ジェックも思わず褒めてしまう。
「きっと古代魔法の類ね」
「古代……おやっさんもそうだけど、“昔”ってのはナメちゃいけないな!」
ジェックの軽口にマーティは微笑む。
軽口を叩く余裕があるというのはいいことだ。
しかしながらイビルマージの魔法は強烈で、直撃すれば危険である。
「くそ~、魔法耐性のある装備してくりゃよかった!」
「ホント……!」
ジェックとエルシーは攻めあぐねてしまう。
斬撃を飛ばす手もあるが、体力を使うのでできれば温存したい。
「ここは無理せず、一度退散した方がよくないか?」
「そうね……。古城の魔物はほとんど倒してるわけだし……」
一時撤退を検討する二人に、マーティが口を挟む。
「いや……奴は知能が高い。ここで見逃せば、倒すチャンスはなくなってしまうだろう」
マーティの言う通り、ここで逃がすとイビルマージは二度と彼らの前には姿を現さなくなるだろう。
そして、どこか遠くの土地でまた同じことを繰り返すに違いない。それではなんにもならない。
「だけどおやっさん、奴の魔法は強力だ!」
「俺が行こう」
「おやっさん、何か対策があるの?」
「ないよ」
「へ?」
「俺の若い頃、魔法耐性の装備なんてなかった……だから、魔法を相手する時はいつも……」
「いつも?」
「突っ込んでいた!!!」
マーティは全速力で突っ込んだ。
イビルマージは人間には解せぬ言語で呪文を唱え、両手から炎を噴射する。
「無茶だおやっさん!」
「ダメぇっ!」
マーティもその炎に死を予感する。
だが、同時に決意を固める。
――体が熱いと感じるよりも速く、斬り込んでやる!
マーティは雄叫びを上げ、イビルマージに斬りかかった。
炎がマーティを包む。
ジェックとエルシーは「終わった」と思った。
が、マーティは止まらなかった。
「久しくこんなに燃えてなかった俺には……これぐらいでちょうどいい!」
燃えながら振るわれたマーティの剣がイビルマージに炸裂する。紫色の血が噴き出した。
だが、切り裂かれた状態で、イビルマージは呪文を唱える。
イビルマージは焼け焦げたマーティに魔法を叩き込もうとする。
マーティに余力は残っていない。
「させるか!」
そこへすかさずジェックが飛び込む。
体の中心――正中線を叩き斬られ、イビルマージは悲鳴を上げながら消滅した。
イビルマージを仕留めたジェックはマーティに駆け寄る。
「大丈夫か、おやっさん!」
「すぐポーションをかけるわ!」
全身に火傷を負っていたマーティだが、ポーションのおかげでどうにか回復する。
「うう……助かったよ……」
「よかったぁ!」
「もう、無茶するんだから! おじさん……」
「おかげでものすごく燃えたよ。心も体もね」
まだ焦げの残る体で冗談をこぼすマーティ。
「さすがおやっさん!」
「まだまだ若いわね~」
だが――喜ぶ二人を尻目に、マーティは感じていた。
この二人と一緒に戦えるのも、あと一回というところか……。