第4話 冒険者にランクなんてなかった
「今日は冒険者ギルドに行こうと思うんだけど……おやっさんはどうする?」
ジェックが言い出した。
「懐かしいな……」
マーティは目を細める。
「おやっさんも若い頃は冒険者やってたんだろ?」
「ああ、まあね。仲間と一緒にモンスターと戦ったりしたよ」
「じゃあ一緒に行こう! ギルドに行って、仕事をもらうんだ!」
「それじゃお供させてもらおうかな」
マーティ、ジェック、エルシーの三人は最寄りの冒険者ギルドに向かった。
「いい仕事あるといいなぁ」とジェック。
「あたしらBランクだし、大した仕事なんてないわよ」エルシーが笑う。
冒険者ギルドにはEランクからSランクまでの六つのランクがあり、そのランクに応じた依頼を受けることができる。
ただし、Sランク冒険者は国家規模の怪物・災害を相手にするようなランクであり、その数はごく少数。なので実質Aランクが最高位であるといっていい。
二人の会話をきょとんとした表情で聞くマーティ。
「ランク……?」
「あ、そうそう。おじさんは冒険者やってた時、何ランクだったの?」
マーティは答えない。
「俺らと同じBランク?」
「それともAランクだったりして!」
マーティはやはり答えない。
「じらすねえ……まさかSランクだったとか? だとしたらすげえ!」
マーティはようやく口を開く。
「すまない……。ええと、“ランク”ってなんだい?」
まさかの言葉に、ジェックもエルシーも何も言えなくなってしまう。
そうこうしてるうちに冒険者ギルドに到着し、ここで会話は一度打ち切られた。
ジェックが受付と会話をし、仕事をもらってくる。
「ちぇっ、スライム討伐ぐらいしかなかったよ。報酬も知れたもんだ」
「やっぱり? まあいいか、それなりにお金になるし」
「じゃあ俺も付き合わせてもらうよ」
町の郊外に出没するスライム討伐が今回の依頼。
CランクDランク冒険者でも十分こなせる仕事であり、ジェックとエルシーにとっては大した仕事ではない。
マーティは久しぶりに冒険者として活動することになるが、同行者として認められた。
さっそく出発する。歩いている途中、先ほどの会話が再開される。
「ええっと、おやっさん。ランクを知らないってどういうこと?」
「昔の冒険者にはランクというのはなかったんだよ」
エルシーが少し考えてから尋ねる。
「ランクがなかったら……仕事の振り分けはなかったの? 高ランク用の仕事とか、低ランク用の仕事とか」
「なかったよ。誰でも好きなように好きな仕事を受けられた」
ジェックが明るい顔になる。
「へえ、最高じゃんそれ! だったら例えば、いきなりドラゴン退治に挑むことだってできるわけだ!」
しかし、マーティは暗い顔をしている。
「おやっさん?」
ここでエルシーが気づく。
「ちょっと待って。好きな仕事を選べたってことは、初心者同然の冒険者がとんでもないモンスターに挑むこともできたってことよね。そんなことしたら……」
「あ……」
ジェックも答えにたどり着く。
「その通り。大勢が死んだよ。冒険者になる連中は、みんな腕自慢ばかりだったし、自信満々に強敵たちに挑んでいった。俺なんかは臆病者だから、無理な仕事は引き受けず、助かったけどね」
マーティが長い息を吐く。
「俺より若い子もいっぱい死んでいった……」
制度が整備されておらず、冒険者のランクがない時代――
それは誰もが自由にとてつもない怪物に挑める時代だった。実力者たちは大いに名を上げた。
同時に、無謀な挑戦がいくらでも出来てしまう時代でもあった。
多くの屍の山が生まれ、それは社会問題ともなり、ランク分けという制度が生まれることとなる。
マーティが苦笑する。
「暗い話になっちゃったね。さ、今日の任務はスライム討伐だっけ? 行こう!」
町の郊外にある平原にて、五体のスライムと出くわす。
不定形のモンスターであり、粘液で攻撃してくる。動きは鈍く、剣や魔法で簡単に倒せる。
ジェックやエルシーはもちろん、年老いたマーティにとってもそう難しい相手ではない。
「せやぁっ!」
ジェックがスライムを切り裂く。先日新調した剣の切れ味は抜群だ。
「火球!」
エルシーも炎魔法でスライムを焼き払う。
「どりゃあ!」
マーティも唐竹割りで、スライムを叩き斬る。
マーティは一体、ジェックとエルシーはそれぞれ二体ずつスライムを倒し、ギルドから報酬を得ることができた。
報酬を山分けしつつ、ジェックはふとこう漏らす。
「もし俺が冒険者ランクのない時代に生まれてたら、きっといきなりドラゴンだのトロルだのに挑んで、死んでたかもしれないな」
「あたしもそうかも……」
エルシーも同意する。
「こうやって俺たちが身の丈にあった仕事ができるのは、おやっさん世代のおかげなのかもしれない。ありがとう、おやっさん!」
「大げさだよ。だけど……そう言ってもらえると、悪くない気分だ」
マーティは若い頃無謀な戦いに挑み、散っていった彼らが、少し報われたような気がした。