第3話 武器屋では粗悪品をつかまされることも多かった
訓練所での一件から数日、マーティはジェックとエルシーと会っていた。
マーティとエルシーが武器を新調するので、それに付き合って欲しいという。マーティも快く了承した。
町の中心部には、武器屋・道具屋が並ぶ市場がある。
大勢の戦士や冒険者で賑わっており、装備を整えている。
活気を肌で感じながらマーティが尋ねる。
「二人はなんの武器を買うんだい?」
「俺は剣!」
「あたしは杖!」
「おやっさんは何か買わないの?」
「俺はもう、今の剣のままでいいよ」
マーティは自身の愛剣をそっと撫でた。愛着もあり、今更買い替えるつもりはなかった。
さっそく三人はある武器屋に入る。
壁や棚に雑多に並べられた剣を、ジェックが物色する。
「どれにしようかな~」
すると、中年であろう武器屋の主人が――
「今ならミイネ工房の新作が出てるよ!」
「じゃあそれにしようかな!」
人気の工房からの新作武器。
いきなり購入しようとするジェックに、マーティがその肩をつかむ。
「ん? なんだよ、おやっさん」
「実物を吟味もせず、いきなり買っちゃうのかい?」
「吟味って?」
首を傾げるジェック。
「例えば、粗悪品を売ってることもあるだろう? 全然斬れない剣をつかまされたり……」
「まさか! そんなのあり得ないよ!」
ジェックが笑う。エルシーもクスリとする。
マーティはこれに気を悪くするどころか、笑顔を浮かべた。
「良い時代になったなぁ……」
「おじさんが若い頃はそういうことがあったの?」
エルシーの問いにマーティはうなずく。
「ああ、武器の売り買いは騙し合いの世界だった」
「騙し合い!?」
驚く二人に、マーティが昔を想いながら解説する。
「中古品を新品だなんて偽るのは日常茶飯事。新人の冒険者に“サビは名剣の証”だなんて吹聴したり、パンも斬れない完全なナマクラ剣を、“ドラゴンをも倒せる剣”なんて言ってる武器屋もいたね」
「ひええ……」
明らかな詐欺行為に、ジェックは呆れる。
話を聞いていた武器屋の主人も口を挟む。
「俺の親父の頃は、そういう商売がまかり通ってたそうだね。今やったら一発で商売できなくなる」
マーティもうなずく。
これにジェックが――
「でもさ、ダメな武器かなんて試し斬りすればすぐ分かるんじゃ?」
「残念ながらそうはいかない。あくまで目で見て決めるって不文律があったし、目だけで決めなきゃ“自分には見る目がない”って言うようなものだったからね。試し斬りなんてしようとしたら、その日から町を歩けなくなるような時代だった」
「すごい時代ね……」
エルシーも呆れる。
「だけど、冒険者もいい武器を選ぶためにちゃんと裏技を知ってたんだ」
「裏技?」
「こうやって……そっと指を切るんだ」
「あ!」
マーティは親指に剣の刃を当てる真似をする。
「これで切れ味を判断してた。いい剣なら指の皮ぐらい触れるだけで切れるからね」
二人がよく見ると、マーティの親指には無数の小さな傷があった。
「すっげ……」
「痛くないの? おじさん」
「もうすっかり分厚くなってるからね」
「戦いどころか、武器を買う時から油断できない時代だったんだなぁ」
「武器を見る目もだいぶ鍛えられそうね」
「まあね。だけど、お店を信頼して、物を買うことができる今の時代の方が絶対いいに決まっているよ」
その後、ジェックは新しい剣を、エルシーは新しい杖をそれぞれ購入した。
むろん、どちらの武器も性能は保証されている。
マーティは自分の傷だらけの親指を見ながら、いい時代になったものだと改めて思いを噛み締めた。