表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/11

第3話 武器屋では粗悪品をつかまされることも多かった

 訓練所での一件から数日、マーティはジェックとエルシーと会っていた。

 マーティとエルシーが武器を新調するので、それに付き合って欲しいという。マーティも快く了承した。


 町の中心部には、武器屋・道具屋が並ぶ市場がある。

 大勢の戦士や冒険者で賑わっており、装備を整えている。

 活気を肌で感じながらマーティが尋ねる。


「二人はなんの武器を買うんだい?」


「俺は剣!」


「あたしは杖!」


「おやっさんは何か買わないの?」


「俺はもう、今の剣のままでいいよ」


 マーティは自身の愛剣をそっと撫でた。愛着もあり、今更買い替えるつもりはなかった。


 さっそく三人はある武器屋に入る。

 壁や棚に雑多に並べられた剣を、ジェックが物色する。


「どれにしようかな~」


 すると、中年であろう武器屋の主人が――


「今ならミイネ工房の新作が出てるよ!」


「じゃあそれにしようかな!」


 人気の工房からの新作武器。

 いきなり購入しようとするジェックに、マーティがその肩をつかむ。


「ん? なんだよ、おやっさん」


「実物を吟味もせず、いきなり買っちゃうのかい?」


「吟味って?」


 首を傾げるジェック。


「例えば、粗悪品を売ってることもあるだろう? 全然斬れない剣をつかまされたり……」


「まさか! そんなのあり得ないよ!」


 ジェックが笑う。エルシーもクスリとする。

 マーティはこれに気を悪くするどころか、笑顔を浮かべた。


「良い時代になったなぁ……」


「おじさんが若い頃はそういうことがあったの?」


 エルシーの問いにマーティはうなずく。


「ああ、武器の売り買いは騙し合いの世界だった」


「騙し合い!?」


 驚く二人に、マーティが昔を想いながら解説する。


「中古品を新品だなんて偽るのは日常茶飯事。新人の冒険者に“サビは名剣の証”だなんて吹聴したり、パンも斬れない完全なナマクラ剣を、“ドラゴンをも倒せる剣”なんて言ってる武器屋もいたね」


「ひええ……」


 明らかな詐欺行為に、ジェックは呆れる。


 話を聞いていた武器屋の主人も口を挟む。


「俺の親父の頃は、そういう商売がまかり通ってたそうだね。今やったら一発で商売できなくなる」


 マーティもうなずく。

 これにジェックが――


「でもさ、ダメな武器かなんて試し斬りすればすぐ分かるんじゃ?」


「残念ながらそうはいかない。あくまで目で見て決めるって不文律があったし、目だけで決めなきゃ“自分には見る目がない”って言うようなものだったからね。試し斬りなんてしようとしたら、その日から町を歩けなくなるような時代だった」


「すごい時代ね……」


 エルシーも呆れる。


「だけど、冒険者もいい武器を選ぶためにちゃんと裏技を知ってたんだ」


「裏技?」


「こうやって……そっと指を切るんだ」


「あ!」


 マーティは親指に剣の刃を当てる真似をする。


「これで切れ味を判断してた。いい剣なら指の皮ぐらい触れるだけで切れるからね」


 二人がよく見ると、マーティの親指には無数の小さな傷があった。


「すっげ……」


「痛くないの? おじさん」


「もうすっかり分厚くなってるからね」


「戦いどころか、武器を買う時から油断できない時代だったんだなぁ」


「武器を見る目もだいぶ鍛えられそうね」


「まあね。だけど、お店を信頼して、物を買うことができる今の時代の方が絶対いいに決まっているよ」


 その後、ジェックは新しい剣を、エルシーは新しい杖をそれぞれ購入した。

 むろん、どちらの武器も性能は保証されている。


 マーティは自分の傷だらけの親指を見ながら、いい時代になったものだと改めて思いを噛み締めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ