第8話 The ベストナイン大会 -指名会議-
練習試合の翌日、琴葉は彩也と比奈と絵茉を連れて上東館野球部の視察に行った。なぜこれをすることになったのかと言うと昼休みに遡る。
職員室
「高原先生、何かご用でしょうか」
「お来た来た。琴葉に頼みたいことがあってね」
「何でしょう」
「強豪校の野球部の練習風景を見に行ってきて欲しい。今の練習でも十分だが優勝を目指すためには真似も必要だ。3,4人くらいで上東館という所に行ってきてくれない?」
「良いですけど・・・何で私?」
「次期部長候補だから。まだ決まった訳じゃないけどね」
「まぁ分かりました」
上東館。この高校は日本一野球が強いと言っても過言ではないほど選手一人一人が異常に強い。何かを飲んでいるわけでもないらしいためきっと練習設備がしっかりしているのだろう。それに昨年は上東館は日東高校に6戦全勝の他、甲子園も全勝で優勝を果たしたている。
オフのこの日、琴葉らは放課後に上東館に電車で行った。日東高校からの距離は近くも遠くもない丁度良い距離にある学校である。
上東館前駅を降り、改札を出て歩いて6分の所に【砦】はあった。上東館は対戦したことはあるが学校自体は写真以外で見たことなかったためあまりの大きさに驚きを隠しきれない。
「でっか!」
この一言しか出なかった。気を取り直して中に入ろうと思ったが学生ではないため入ったら不法侵入扱いになるため琴葉はあることを思い付く。
「学校見学に来たって言えば良いと思う!私が保護者で彩也たちが学校見学しに来た生徒ってことにしようよ」
「それ・・・大丈夫?」
「多分上手くいくと思う」
琴葉の言った通りに学校見学しに来た生徒を3人は演じることにした。監視員室に行き、監視員さんに話しかける。
「すみません、この子たちの付き添いで来たのですがどうしても学校見学がしたいらしいのですが可能でしょうか?」
「この時期に学校見学とは珍しいね・・・良いよ。これを提げて見に行きな。しっかりどんなところか調べてくるんだよ~」
「ありがとうございます!」
怪しまれたかと思ったが何とか中に入ることに成功した。監視員室で【見学中】のカードを持ち野球部のグラウンドに向かった。上東館は野球以外の部活動も盛んであるため四方八方から練習中の声が聞こえてくる。
「ここが野球部のグラウンドか・・・」
少し迷ったが何とかグラウンドにたどり着いた。何せこの学校の部活数は多種多様な部活があるため面白いなと感じた。また野球関連でも野球部、野球観戦部、野球研究部の3種類が存在している。
「さてさて練習風景は・・・」
グラウンドを見るとまるで軍隊の訓練でもしているかのような声が聞こえてきた。私たちの練習がどれだけ緩すぎるのかを感じた。他の部員たちにも見せてあげたい。
「琴葉先輩!すごいですねこれは!」
「そうだね!」
その時後ろから肩をポンポンと叩かれた。振り向くと野球部員らしい子が立っていた。
「あなたたちはどなた?」
「見学者です」
「そうでしたか!私はこの野球部の監督をしている岡本紫音です。よろしく」
「(えー!元野球選手の岡本さん!?すごいな~)」
上東館野球部の監督の岡本はこの高校出身の元プロ野球選手であった。彼女は現役時代通算500本塁打を放つなど大活躍していた。琴葉は彼女の大ファンであった。
「今日は野球部がどんな練習しているのか気になって来てしまいました」
「そうでしたか。どうぞごゆっくり」
その後、上東館野球部のグラウンドでの練習風景を眺めた。砂まみれになりながらも練習している選手たちを見て私も頑張らなければと思った。また、併設されているトレーニングジムにはランニングマシーンやベンチプレスなどの器具が完備されていた。
「お姉ちゃん、この学校いくらなんでも凄すぎる!」
「だよね~」
トレーニングジム内も一通り見ていった後、琴葉たちはもう一度監視員室に行き借り物を返却した。校舎を出て駅に行き、電車に乗り、高原先生の所に戻ってきた。
「お!お帰り~!上東館どうだった?」
「すごいという一言に尽きます。同じ年とは思えないほどの練習でした」
「そうだよ~あの学校の練習量はどの部活にも劣らないからね~」
高原先生は上東館の練習風景をみたことがあるのだ。
「練習量、徐々に増やしていきます?」
「うーん・・・感じ取って欲しかったのはそこじゃないんだよね。というといくら練習量が多くても内容が多くては試合に出れたとしても活躍できないし怪我に繋がるリスクもあるからね」
「なるほど・・・」
「分かってもらえた?」
「はい。分かりました!」
先生との話が終わり、職員室を出た。高原先生は上東館と日東高校の実力は計り知れない実力があるのは確かだというのは承知の上であり、多くの練習量よりも質の高いトレーニングを心がけなければならないということを先生は伝えたかったのである。
「それと、今週からゴールデンなウィークだから明後日に予定教えるね」
「了解で~す!」
琴葉と彩也は比奈と絵茉と駅で別れた。明日も休みっていうのがとってもありがたい。上東館は私たちが練習している時の今も必死になってやっていることだろう。
翌日、高原先生が野球部員全員を昼休みに急遽全員を呼んだ。
「集まってもらってありがとう。いきなりだけど女子高校野球連盟が明後日の木曜日に選択指名選手会を開いて各校から選ばれた人と一緒に戦うイベントがあるらしいんだけど出る?」
「出たいです!」
満場一致で出場が決まった。今回、女子高校野球連盟はイベントという名目でドラフト大会とそのドラフトで選んだ選手と一緒に試合を5試合するイベントを発表した。つまり上東館の選手を取れたらその子達を打線に入れることが可能であるという夢のようなイベントであった。
「じゃぁ今日までだからイベント参加申請します」
日東高校からは琴葉や彩也、比奈、絵茉などが参加する。
そして、日東高校野球部のイベント参加が決定した。このイベントに参加できる選手の出場人数制限はないが自校選手が5人以上いなければならない決まりがある他、獲得選手も6人までとなっている。
木曜日、イベントに参加する選手の指名をする会場に高原先生と小越部長が行ってきた。第1回イベントではあるものの15校の学校が参加した。注目するべき投手は上東館の上原礼子投手、法央学園の則本歩夢投手、大東国学園の今永芽衣投手。一方の野手は上東館の宮崎花怜三塁手、拓明高校の秋山凜外野手、早應学園の中田恵那一塁手が注目である。こうして指名会が開始された。
「皆さんようこそ!第1回The ベストナイン大会へ!司会の女子高野連の谷野です!今回、このベストナイン大会では指名会で選手を選び、理想のオーダーを作り上げろ!というお題です。指名の順番は50音順で希望選手が重複した場合は抽選で決めます!それでは始め!」
指名会が始まった。日東高校の順番は「な」行であるため15校中ちょい後ろの方であった。全校の指名が終了した。日東高校の獲得した選手は以下の通りである。
日東高校 獲得選手
・秋山凜(拓明 外野手) ・大野琴葉(日東 投手) ・大野彩也(日東 捕手)
・上原礼子(上東館 投手) ・乃木咲希(拓明 一塁手) ・小林彩夏(栄京 投手)
である。一方、絵茉や比奈などの日東メンバーの行き先は以下の通りである。
・京田比奈(日東 遊撃手)→上東館
・高梨絵茉(日東 投手)→拓明
・筑波朱夏(日東 遊撃手)→栄京
・小笠原志帆(日東 投手)→柳栄
注目選手の動きは以下の通りである。
・中田恵那(早應 一塁手)→上東館
・則本歩夢(法央 投手)→拓明
・今永芽衣(大東国 投手)→法央
・宮崎花怜(上東館 三塁手)→名東
という結果になった。
「比奈は上東館で絵茉は拓名か~すごいな~」
「対戦楽しみだね!」
「そうだね~」
このようにして第1回The ベストナイン大会指名会は終了した。GW始まる前の日までに選ばれた高校に移動することになっている。第1回イベントは甲子園大会までに選手のアピールの場にもなるだろう。