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一球入魂 -日東高校女子野球部-  作者: 照山
第1章 ベストナイン大会編
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第2話 過去と未来

彩也が高校に入ってから最初の月曜日の放課後、野球部は早速練習を開始した。日替わりで練習が行われ、月曜日は守備中心の練習、水曜日は打撃練習、金曜日は投手陣のみの練習、土曜日は野手陣のみの練習となっている。


「本日の練習メニューを伝えます。打者がボールを打った際に、いかに素早く捕球態勢に入れるかが重要になってきます。昨年はかなりの失策数を記録しました」


昨年度の日東高校の野球部の失策数は37。多いときには7失策するときもあるため内外野陣の改善が必須となってくる。高原先生は昨年全試合を通して今まで監督を勤めてきた中でも特に遊撃・二塁・一塁手への悪速球が目立っていることを知っている。


「各自ペアとなりダブルプレー成立の練習をしてください!」


この野球部の最大の弱点こそダブルプレーの成立である。昨年はエラーの他に悪速球によって内野安打にされたりダブルプレーが出来ず、次の打者で本塁打や適時打を打たれる始末になってしまうため二遊間の連携と一塁手の捕球が鍵となる。


「まずショートの京田さんとセカンドの吉川さん、ファーストの中島さんは想像してください。場面は3-2で迎えている9回裏1アウト一二塁。相手は二塁打以上が出ればサヨナラの場面。併殺によって試合成立ですがここで失策すると満塁とさらにピンチ拡大です。では行きますよ!」


高原先生が描いたシナリオは投手・野手ともに非常にプレッシャーがかかる場面であることに間違いない。特に野手陣は自分の所に飛んできてエラーしたらどうしようというネガティブな考えにならないようにしなければならない。


高原先生が京田の守備範囲にボールを飛ばした。


「良い送球だよ京田さん!吉川さん、少し送球が雑です!」


京田比奈(以下比奈)の守備は素晴らしい才能がある。プロ野球で言うと元田選手のような選手になること間違いないないかもしれない。さらに守備を鍛えれば「たまらん」守備になるだろう。


「少し送球が乱れましたが良しとしましょう。まだ時間は十分にあります。徐々に改善していきましょう」


「はい!」


比奈は中学時代、打撃はイマイチであったが守備はゴールデングラブ賞受賞レベルの守備であった。彩也は比奈の守備に驚いていた。


「比奈ちゃんすごいよ!ゴロの捕球も素早いしさ」


「まだまだ守備は磨けると思うよ。でもありがとう」


京田の能力をデータ化すると弾道2,ミートF,パワーE,走力C,守備B,捕球C,肩力Dといったところである。ドラフトで選ばれるとしたら4位か5位ぐらいである。


「今日は初日なので体力も考慮した上で今日の練習はこの辺にしときます。まだ17時ですが自主練したい人は私に言った上でしてください。くれぐれも怪我のないようにお願いします」


「はい!」


練習終了後、居残り練習を行おうとしているのは小越部長と戸郷悠香副部長と琴葉の姿であった。


「彩也先帰ってて!少し練習して帰るから」


「分かった~!」


琴葉は居残り練習をするようだ。彩也は捕手の極意を聞こうと阿部さんと一緒に帰った。


「捕手の極意?難しいことを聞くね。あまり難しいことは考えない方が良いかもよ?」


「そうなんですか?」


「そうだよ~。まぁ強いて言うなら捕手は試合の流れを作る重要なポジションだし、投手との意思疏通も必要だからそこに注意してればいいかもね。確か琴葉と姉妹バッテリー組んでるんだっけ?」


「はい!組んでます」


「なら姉妹で更なる高みを目指しなね」


「分かりました!」


阿部さんは正捕手として野球部を牽引してきた。今度は彩也らの番である。阿部は彩也のことが気に入ったのである。琴葉帰宅後、いつもの日課であるゲームや勉強をした。


「水曜の部活は投手は自主練ってなってるけどお姉ちゃん来てくれる?」


「行くよ~ついでにバントの練習もしよう」


「OK~!」


その後、風呂に入り、夕飯を食べ、彩也は吸い込まれるように布団の中に入って行った。




高原は今の部員たちを見ているとたまに思い出す。高校時代の忘れたくても忘れることが出来ない嫌な思い出を。


『さぁ20XX年夏の甲子園決勝。いよいよ7回裏の攻撃に入ります!日東高校ここまで4-2とリードしています!』


「(ここは一つ一つ集中して・・・)」


私が高校時代の時、甲子園決勝まで進出した。私は4番手で登板した。しかし、現役時代の防御率は善しくなかったため高原劇場とも呼ばれていた。


『さぁ高原、ここは3人で抑えられるか!』


「(内角低めに・・・)」


『先頭の6番バッター榑林。ライト前ヒット!』


先頭バッターを出塁させてしまった。


「(落ち着け・・・落ち着け・・・)」


7番バッターの本野はくせ者である。打たないときは打てないが打つときはかなり打つのである。


『ちょっと今日は慌てています高原。さぁ投げた!』


ツーストライクまで追い込んだ。私は緩めのカーブを投げ空振りを取った。


『7番バッター本野、空振り三振!』


残り2人。8番バッターの森宮、9番投手の八百井がこれから打席に立つ。八百井はそこで代打が出されるかもしれない。


「(8番の森宮さん。選球眼の持ち主だからギリギリの所を投げずに!)」


一死一塁の場面でボールが先行してしまい、私は四球で一死一二塁としてしまった。監督が出てくる。


「どうしたの今日は?調子悪い?交代する?」


「大丈夫です!やらせてください!」


高原は投球継続を金野監督に言った。


「分かった。でも大事な体、無理したらダメだよ?」


「はい!」


その後、キレのある投球を披露し、ツーアウトまで追い込んだ。9番バッターの八百井の代打に久瀬が出たがセカンドフライで抑えた。


『さぁ高原、残すは後1人!1番バッター山田さん。今日は4打数3安打と絶好調です。果たして抑えるか!それとも逆転か!』


当時の捕手の石垣はチェンジアップを要求した。ゴロかフライで打ち取る作戦なのだろう。私は要求通りそれを投げた。


「(ヤバい!すっぽ抜け!)」


緊張で失投となってしまった。打者の山田は待ってましたの如くバットを振った。山田のバットに当たった白球は甲子園の空を舞う。


『打った!山田の打球は甲子園のレフトスタンドへ!入った!サヨナラホームラン!9回裏ツーアウト一二塁の場面で山田さん失投を見逃しませんでした!マウンド上の高原呆然としています!』


『これはかなりピッチャーから悔しいでしょうね』


『そうですね』


私はサヨナラスリーランホームランを打たれ、4-5で敗戦。


「監督・・・申し訳」


「高原のせいではない。悪いのは全部私だ。この悔しさをバネにして頑張っていけ!」


「はい!」


試合終了後、私はロッカールームで意気消沈していた。するとロッカールームに入ってきたのは先発・中継ぎをした3年生の黒田原さんと横川さんだった。


「高原さん、あなたは今日いつもの高原さんじゃないよね。どうしちゃったの?」


「ごめんなさい・・・決勝の最後の回のマウンドで力み過ぎてしまった挙げ句・・・私には野球の才能は無いのでしょうか?」


「そんなことはない!私はあなたの投球をずっと見てきた。あなたはまだ2年。後1年残ってる。今日のことは明日に繋いで来年また頑張って!」


「ありがとうございます!」


その後私はすぐに気持ちを入れ替えた。学校が無い日はメンタルトレーニング、さらにはVR ゴーグルを用いて類似している場面での投球練習など可能な限りを尽くした。


「今頃黒田原さんたちはどうしているかな・・・」


黒田原と横川は現在プロで活躍中である。しかし私はあの投球でスカウトたちの目は一気に変わった。私は今の部員たちが二の舞にならぬようしっかり教えていかなければと覚悟を決めている。

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