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一球入魂 -日東高校女子野球部-  作者: 照山
第1章 ベストナイン大会編
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第13話 母との約束

第4戦の拓明戦後、雪峯は足早に帰宅することにした。


「みんな今日は早く帰らなきゃいけないからじゃあね。第6戦目には間に合うようにするから」


「オッケー!気をつけてね~!」


琴葉や彩也らは雪峯を見送った。拓明戦では負けたはしたものの雪峯の満塁ホームランで何とか完封敗けは避けられた。


「(明日は母さんが亡くなってからもう2年か・・・早いもんだな)」


電車に乗り、父さんに帰る連絡をした。


《駅まで迎えに行くよ。何分着?》


《20時くらいかな?》


《オーケー》


迎えに来てくれる父さんとLINEをした後、最寄り駅に着くまで今日の試合を振り返った。危うくノーヒットノーランを食らうという危機的状況であったためチームのために何とか打つことが出来てとても良かった。


最寄り駅到着後、駅前に父さんの乗った車が待っていた。


「お帰り雪峯、今日の満塁ホームラン良かったぞ。お母さんもきっと喜んでくれてるんじゃないかな。負けたのは仕方ないけどね」


雪峯の父は全試合見に来てくれていた。彼女の両親はどちらとも野球経験があり、父は3年間、母は4年間プロ野球の世界にいた。しかし、プロの厳しい世界に痛感し、引退した。


「少し話しは変わるが雪峯は来年3年だけど進学するのか?」


「そうだなぁ・・・プロ志望届け出してプロ行こうかなと思ってる」


「プロか・・・俺は雪峯の進路にいちいち口は出さないが大学には行っといた方が良いぞ。高校生からのプロ入りは大変だからな。大卒から行くのも悪くはない選択肢だな」


雪峯の父はほとんど彼女の意思を尊重する。しかし、高校からのプロ入りを経験している雪峯の父はあまり良い反応はしていなかった。


「まぁまだ1年以上はあるから考えるんだね」


「うん」


自宅に到着後、夕食前にお風呂に入った。連続で出場した雪峯は疲れや汗を取りながらシャワーを浴び、湯船に入った。10分程度湯船に浸かり、夕飯を食べた。父の手作りの夕飯は疲れがたまった体にとても染みる。


「どうだ?上手いか!?」


「超上手い!」


「だろ~今日は上手くできたんだよな~」


今日の父の作ったオムライスはかなり上手くいったらしい。とろける卵に乗ったご飯の融合によりとても美味であった。


「旨かった~ご馳走様~!」


夕飯を食べ自室に戻り、他のブロックの高校の試合を見ながらゆっくりとくつろいだ。


「雪峯、明日母さんの二周忌だが何時に出る?6戦目何時からだっけ?」


「確か5戦目の上東館戦開始時刻が10時だから17時かな」


「了解」


その後、明日に備えて早く眠ることにした。母の命日てこともありなかなか眠れなかったが何とか眠りにつくことが出来た。



12:00丁度、母の命日になった瞬間、私の見ていた夢に母が登場した。私は生まれた頃から母が病気で亡くなるその日までの夢を見ていた。最初に見たのは小学生の私の姿であった。


私は小学生の頃、父さんと母さんから野球を教わった。最初はキャッチボールから始まりボールに対して怖さを覚えていたが段々と慣れ始めた。


「ママ!ボール取れたよ!すごいでしょ!」


「雪峯すごいねぇ~これからも頑張ってね」


「うん!」


雪峯は父と母みたいに野球選手になりたいと思い小4の時に小学校の野球クラブに入部した。当時の部員には琴葉や彩也もいたため雪峯は安心して楽しく野球をすることが出来た。小学生対象の甲子園にも出場し、優勝は出来なかったものの琴葉や彩也と共に活躍することができた。


「母さん~今日の試合見てくれた~?」


「もちろん見たよ~!」


「父さんもビデオカメラにしっかりと雪峯の打席を記録しといたぞ~」


「やったー!後で見よう~!」


小6になると私は外野手から内野手へとポジションをコンバートした。当時途中からクラブに入った穂香との守備位地が被ってしまったため内外野守れるユーティリティープレイヤーを目指したが負担が大きすぎたため一塁と外野のみに絞った。父も母も私に協力してくれて感謝しかない。父はバッティングフォームに無駄が無いかや改善点が無いか教えてくれたり、母はマッサージをしてくれた。


「雪峯~ここ少し凝ってるね~」


「ありがとう母さん、スッキリしたよ」


「それは良かった」


日東中学に上がると彩也はまだ小6だったためまだ入部していなかったが琴葉や穂香と共にたくさん練習した。同じ守備位置でライバルとして争っていた小西玲奈とは時にぶつかり合った。しかし、お互いの気持ちをぶつけ合ったことですぐに仲直りした。中2になると私の打撃に磨きがかかりより多くのヒットを打つことが出来るようになった。私が出場する全試合には両親ともに観戦しに来てくれていた。全国高校野球大会の東東京大会では母の応援もあり全試合必ずホームランを打っていた。


「雪峯~!ナイスホームラン!」


「良いぞ雪峯~!」


しかし、一時期スランプの時期もあったが父と母のアドバイスもありリフレッシュや精神統一などあれこれと考えて何とかスランプを乗り越えた。


「雪峯。スランプというのは誰しもある現象だ。プロ野球選手でも現役のメジャーリーガーでも必ずスランプの時期はある。しかし、何とか乗り越えようという気持ちがあればすぐにでも乗り越えられる。だから頑張れ」


「ありがとう父さん、母さん」


スランプを乗り越え、ホームラン量産しようと意気込んでいたがクリスマスの前日、母が病気で倒れた。私はその時練習試合をしていたためその報告を聞いたとき一気に血の気が引いた。ここまでいろいろなことを教えてくれた母が倒れたのである。監督に許可を取り、玲奈と守備交代後すぐに病院に向かった。


病院に向かうと父さんとすぐに合流した。医師に何があったのかと聞いた。


「先生、母の身に何があったのです?」


「正直に申し上げますとお母様は癌を患っております。すでにかなり転移や浸潤が進行しています」


「癌ですか・・・何の癌ですか?母は助かるんですよね!?」


「残念ながらお母様は膵臓癌のステージ4でかなり手術は厳しいものとなっております。この膵臓癌は5年生存率1.2%から1.6%とされているため仮に除去に成功しても厳しいでしょう。余命半年くらいかと・・・」


私の母は手術が難しい癌を患った。それに母の余命半年という言葉に夢だと信じた。しかし、何度聞いても同じ答えが帰ってくることに涙を抑えられなかった。


「何で・・・どうして直せないんですか!!」


「もう一度言います。膵臓癌は早期発見が難しい上、患うと身体中に転移・浸潤し最初に発生した癌を除去したとしても別の所に発生するため厳しいです。すでにお母様の身体の複数箇所に癌が確認されています」


「そう・・・ですか・・・」


「雪峯」


泣いている私を父は抱き締めてくれた。少しは気持ちが落ち着いたが母が半年以内に亡くなることに悲しみを隠せなかった。その日、帰宅後私は思いっきり泣いた。しばらく野球をするのはよそうと思ったが父が許さなかった。


「雪峯。母さんが大変な時期であろうと雪峯が頑張らなきゃお母さんは頑張れない。さぁ行ってこい!」


「分かった!行ってくる!」


私は母の体調を気のしながら野球部の練習に参加した。監督には事情を説明し、午後からの練習に参加することとなっている。


「(母さんのためにも頑張るぞ!)」


私は母の体調回復を祈り一生懸命練習し、試合に出た。父は母の介護のため忙しかったが母が雪峯の試合を少しでも見たいと言ったため録画してくれた。私の母は笑顔を見せた。



中3に入ると私は一塁手のレギュラーを玲奈とのポジション争いの結果勝ち取った。母はかなりやつれてきてしまってはいるが笑顔を見せてくれた。雪峯はいつまでこの笑顔を見ていけるのかずっと考えていた。


手術も多くしたが母はこれ以上の手術は辞めてくれと言った。私は最初は反対の姿勢を示していたが母さんの意思を尊重する父に説得された。母が亡くなる前日、私は野球部の練習を休み母の病室で最後の話をした。


「雪峯、最後に・・一つだけ聞いて・・くれる?」


「何?母さん」


「母さんが死んでも・・雪峯は野球を楽しみなさい・・。母さんはあなたが野球を楽しむことが・・とても嬉しいの。だから悔しいこと寂しいことあるかもだけど・・母さんはずっと雪峯の味方よ・・。だから頑張ってね?」


「うん!私頑張る。たくさん練習してプロになる!」


「良いわね・・。母さんも雪峯のプロになった姿見たかった・・」


母は雪峯と父さんに言葉を交わし、笑顔を見せて再び眠りについた。


翌日、母の病室に行くと医師は私たちに母が亡くなったことを伝えた。私は今まで育ててくれた母に感謝した。


「ありがとう母さん。これからも頑張るから見てて」


〈雪峯。頑張ってね〉


聞こえはしなかったがそんな声が聞こえたような気がした。父はここまで母を治療してくれた医師に感謝の意を示した。


「母をここまで治療してくれてありがとうございます。どうかこれを・・・」


「そんな!お気持ちだけで十分です。お母様も最後まで頑張っていました。娘さんも野球頑張ってくださいね」


「はい!」


2年前のゴールデンウィーク。私の大好きな母は亡くなった。私は母のためにも自分のためにも野球を頑張り続けようと決意した。父も私のサポートを精一杯すると言ってくれた。


「雪峯、母さんを見送ることは出来たか?」


「うん」


ここで私の夢は終わった。目覚めるとすっかり朝になっていた。私の頬には涙が流れていた。すぐに涙を吹きリビングへと向かう。


「おはよう父さん」


「おうおはよう雪峯、朝ごはん出来てるぞ。よく眠れたか?」


「お母さんとの夢を見たよ」


「そうか、父さんも見たぞ」


その後、朝食を食べ終えた後、私たちは母のお墓に向かった。


「母さん、今も私は頑張ってるよ。これからも頑張るからね」


〈えぇ頑張ってね〉


小さい風が吹いた。背中を押された感じがした。私は母のことを一生忘れないことを誓った。


「来年もまた来るね」


雪峯は父と母の墓に手を合わせた。雪峯は少し泣きそうであったが母に嬉しいとき以外は涙を見せないと誓った。私は母との約束を永遠に守ろうと決意する。

次回7月17日投稿予定です。

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