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その男

「加西、外線三番に電話」

 一日の営業が終わり日報を作っていると、同僚から電話の取次ぎを受けた。

『もしもし、あのね、一言御礼が言いたくて』

 顧客の名前がすぐに思いだせなかったが、声を聞いて、テーピングテープの老婦人だと気づいた。

「御礼ですか?」

『そう。あなたが言ってくれたでしょう。肩こりにって。息子に話してみたら、うちに来てくれたの。テープを貼ってくれたのよ』

 華やいだ声だ。よほど嬉しかったのだろう。順は知らず微笑んでいた。

「それは良かったですね」

『あなたのおかげよ。息子とはなんとなく疎遠になってたのに。それでね』

 老婦人は小さく「ふふふ」と笑った。

『息子も置き薬を使いたいって言うの。息子の家を訪ねてもらえるかしら』

 順は驚きで一瞬、固まった。だがすぐに立ち上がり、深々とお辞儀する。

「ありがとうございます!」

 泣きそうになるのを必死でこらえて、自然と沸き上がってきた笑みだけを口元に残した。




 スマートフォンは画面が割れたが、機能には問題なかった。そのまま使い続けている。ヨミが幻だったとはまだ思えない。家にはヨミに買わされた大量の食べ物の包み紙などがごみ袋の中にまだあるし、スマートフォンにはネコに関するもろもろが残っている。


 動画投稿サイトですっかり馴染んだネコ動画を見ていると、メッセージが届いていることに気付いた。同級生からだ。開いてみると、文章は丁寧語だった。

「新しいチャンネルを作りました。どうか、見てください」

 記載されているチャンネルはアニメの紹介動画だった。来世まで待たずに現世で作ったらしい。現世でどんな戦いをしてこのチャンネルを立ち上げたのか、順にはわからない。だがわかることが一つだけある。

「ヨミさん、俺はこの世界で生きていくよ」

 そう呟くと、期待を込めて新しい動画に目を落とした。

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