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71.分かっていたけど、終わりの呆気なさに脱力

 ベンがマギー嬢をかばって負った傷は、全治二週間と診断された。刺された場所が良かった、いや良かったというのも変なんだけど、出血は少なくて済んだ。不幸中の幸いという奴だと思う。従者は刃物の扱いに長けてなかったのだろうと医者が言っていた。

 クックソン一門は王家の騎士によって捕縛されて、協力してもらった劇団員に怪我はなくて良かった。予想外のことがあったから、トレヴァー家から報酬を多めに渡してもらうように手配してもらったけど。準備をしても、予想もつかないことが起きたら簡単にひっくり返る。


 マギー嬢は、ベンの身の回りの世話をしている。未婚の令嬢がそんなことをしていいのかと思っていたら、オースチン家がマギー嬢を除籍した。どうしようもない家だなぁ。うちの養女にと思ったけど、そうするとベンがかわいそうだし。

 これで二人の距離が縮まるかと思ったのに、そうでもないみたいで。周囲の人間曰く、彼女マギーが頑ならしい。ベンはベンで、そんなつもりで守ったわけじゃないからいいんだと言っている。どちらの気持ちも分かるし、無理にくっつけようとしたら間違いなく失敗すると思う。二人とも素直じゃないから。

 ただ、貴族籍から外されたマギーは平民になってしまう。そうなればふらっと出て行ってしまってもう二度と会えない気がしてならない。何とかしたいけど、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んでしまえと言われるぐらいだから、我慢してるんだけど……。




 クックソン一門の罪を問う裁判が始まった。

 ネヴィルは必要最低限の治療を受けながら、裁判に出廷させられているらしい。どうせ処刑されるんだから、治療の必要なんてないだろうという声もあるらしいけど、そういうことじゃない。クックソン一族が罪人ということは皆が知るところだけど、明確に罪人とすることに意味がある。もう二度と同じようなことを考える奴が現れないようにしないといけない。罪を罪だと明らかにするのは、実は大事。そうすることで被害に遭った者達を助けやすくなるのだと思う。

 クックソンに加担していた貴族の多くは、自分は脅されていたと言ってるらしい。そんな言い訳が通用するわけないのに。往生際が悪いよ。

 

 不思議なことに。いや、何も不思議なことはないんだけど、クックソンを倒したら何か変わるかな、なんて思ってた。なんていうんだろう、毎日気分良く過ごせるんじゃないか、といった程度のものだけど、変化を勝手に期待していた。

 でも、以前と変わらない日常に戻って、それはそれで良いことなのに、なんとなく肩透かしをくらったような気持ちでいる。

 

「喜べレジナルド」

「トーマスに言われた瞬間に悲報になった気がする」

「失礼な奴だな」

「トーマスがね?」

 

 封筒で額を叩かれる。

 

「王家からの召喚だ」

「ぅわぁ……」

「なんだその反応は。謹んで受けろ」


 だって叱られるのが分かってるし、喜べない。

 渋々受け取る。あぁ、本当に王家の封蝋がしてある。

 にやりと笑うトーマスが憎たらしいけど、やったことの責任は取らないとな。

 何かを求めてはいたけど、お叱りは求めていないんですよ。

 

「家が存続して、フィアとの婚約がなくなりませんように」

 

 さっきまでにやにやしていたのに、オレの発言を聞いてトーマスが驚いた顔をする。

 

「何故そうなる」


 何故と言われましても。

 

「叱られに行くのだから、喜べるわけがない」

「叱られる? 多少のお小言はあるだろうが、普通に考えて褒美だろう」

「え? なんで?」

 

 お小言で済むの? 本当に?

 

「むしろ何でおまえが罰を受けるんだ」

「式典を壊したから」

 

 兄弟皆で。準備そのものはとても楽しかったです。言ったらトーマスが怒るから言わないけど。

 

「あれは元々が壊れる前提だった。多少の怪我人も予想していた」

「王室もそう思ってくれるとありがたい」

 

 それもそうか、爆発する予定だったもんな。いやー、爆発させようとか、正気じゃないよね。

 

「褒美をやると言われたら、何を願う?」

 

 少し前なら、兄弟皆に爵位をと言ったんだけど、爵位がなくても貴族であることには変わりないし、デイヴィッドは子爵位は欲しいみたいだけど、伯爵位まではいらなさそうだ。ティムは劇団を続けたいから爵位はいらないといってるし。そうなるとベンなんだけど……。

 

 オレの考えを見透かしたのか、トーマスが言う。

 

「マギー嬢は処罰の対象にはならないから安心しろ。今回の証拠提出の功績が認められた」


 ずっとネヴィルの元にいたから、本来なら関係者として裁かれるわけだけど、ネヴィルを断罪するための多くの証拠を提供してくれたのはマギー嬢だ。彼女が裁かれることになったら助命嘆願をするところだけど、そうでないならまぁ。

 

「マギー嬢が助かるなら、褒美は要らないかな」


 クックソン一門が滅びて、助かるべき人が助かって、商会がこの国でも活躍できるようになればそれで。オレとフィアの邪魔をしないでくれれば十分。というかもう、勘弁して。相思相愛になったのに色んなことに巻き込まれてフィアとの婚約生活を全く楽しめていない。さっき少し物足りないみたいなことを考えたけど、訂正します。もうおなかいっぱい。デザートまでおかわりしましたとも。

 

「おまえが望まなくても、何かしら与えられるだろうな」

「絶対に不要というわけではないから、いただけるならもらうよ」

 

 変なものでなければ、だけど。

 

「そうしておけ」

 

 オレとトーマスは窓の外を見る。


「もう、終わるんだなぁ」

「そうだな」

 

 クックソン一門がいなくなったからといって、物語みたいにみんな幸せになりました、めでたしめでたし、とはいかないのが現実。クックソン一門を断絶した結果、領主不在となる領地、交易を主たる財源としていたから他国との関係性、大きな悪が目立っていて、見落とされていた小さな悪事も出てくるかもしれない。魔法はないんだよね、残念なことに。

 

「レジナルド、弟とマギー嬢の関係を認めるのか?」

 

 トーマスの言いたいことはわかる。

 マギー嬢は平民になってしまったし、五才以上年上だし、ネヴィルの恋人だった──貞節を求められる貴族社会において、長年に渡る恋人がいたということは、恋人と別の人間と婚姻を結ぼうとするととても不利になる。

 貴族籍があったとしても、彼女には修道院で過ごすか、後妻になるかぐらいしか道がない。平民のほうがそのへんは緩いらしいけど、生粋の令嬢が突然平民になって、何不自由なく暮らせるはずがない。まず働き口を見つけなければならないんだから。

 

「二人が想いあっているなら、認めたい」

「ハンプデン領でなら生きていけるのではないか?」

「オレもそう思う」

 

 祖父達はマギー嬢が置かれた状況を分かっているから、受け入れると思う。そのあたり、大らかというか雑だから。

 

「問題は二人の気持ちか」

「こればかりはね、押し付けるものではないから」

「そうだな」

「ところでトーマス、姫にトムって呼ばれているんだって?」

 

 何故おまえが知ってる、といった顔をする。耳もちょっと赤い。おぉ、トーマスが照れている!

 

「仕方ないだろう、愛すべき婚約者がそう呼びたいと言うのだから」

「責めてない責めてない。いいよね、婚約者からの愛称呼び。特別な感じがして」

 

 フィアにレジー様と呼ばれるの嬉しい。もっと呼んでほしい。婚姻後はレジーって呼んでもらうのが夢。

 

「そうだな、レジー」

「そうだぞ、トム」

 

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