66.肌に咲く薔薇
本日2つ目の更新です。
(短いので、他の話と同時にアップしました。)
ネヴィルの侍従視点になります。
王太后の誕生を祝う夜会から戻った主人は、殴られたのか頰が腫れていた。苛立った様子だったので、余計な口をきかず、黙して傍に侍る。
夜会で王太子の婚約者をものにすると意気込んで行かれたが、この様子からして失敗したのだろう。怪我はなさったものの、拘束されずにお戻りになられたのは良かったが。
「もっと丁寧にやらぬか!」
治療をしていた医者に叱りつける。
随分と腫れているが、ここまで腫れるものか? 相手は女だろうに。
「も、申し訳ございません。何で殴られたのですか?」
恐る恐る尋ねる医者に、「何でもいいだろう!」と答える。
医者は主人の怒りに身を竦めた。これ以上質問してくれるなと思う。医者もそこは分かっていたようで、それ以上の質問はなく安堵した。
「口の中も切れておいでですので、熱が出るかもしれません。今宵は酒はお控えください。解熱と鎮痛の薬を用意しますので、お休み前に服用を」
「忌々しい」
それでは、と挨拶をして医者は逃げるように部屋を出て行った。いつもの医者は故郷に戻っているとのことで代理の者が来た。
閣下が苛立ちを抑えられないのには他にも理由がある。愛人として傍に置いていたマギー・パット・オースチンが屋敷を出て行ってしまったからだ。かなりの暴力を働いたのもあって、オースチン家にマギーが戻っているかを尋ねるのも憚られる。言えばこれまでの関係もあるし、婚約を迫られるだろう。だが閣下は王太子の婚約者を妻とするつもりだった。大国の第二王女。後ろ盾としてはこの上ない存在だ。その姫を強引にものにするのは失敗してしまった。次はどう動くべきか……。
これまで順調だった。
中立派の貴族も色良い返事をしていたのだ。
全てが狂い出したのは、マギーが姫を思い通りにしようとしていたことが露見したあたりか。やはりあのような女に任せたのが間違いだったのだ。
「遅い!」
これまで閣下の身の回りの世話はマギーがやっていた。役立たずな女だが、閣下の嗜好などを熟知しており、その点は便利だった。そのマギーがいないため侍女が閣下のお世話をするのだが、慣れていないのもあってか、ご不興を買うことが多い。
「なんだこの薬は」
三週間程経ち、故郷から戻ったという専属医をすぐさま呼び出して閣下の治療に当たらせると、少しの診療の後助手に薬を取りに行かせた。その用意された飲み薬と塗り薬を見て、閣下が不快さも露わに医者に尋ねる。
「閣下のお身体に発疹がありましたので……」
「発疹がどうした」
「……恐らく、その発疹は瘡毒かと」
「……なんだと……?」
瘡毒!!
閣下が何故そのようなものに?! あれは下賤の者達に広がるもので、高貴な閣下が感染するようなものではないはずだ。
「治療薬がありますので問題ないとは思われますが、副作用がございますので、無理をなさらないことをおすすめいたします」
慌てた様子で医者は説明する。帰れと主人が手を振ると、手早く片付けて医者は去って行った。
それにしても瘡毒などと、いつうつされたというのか。




