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05.誤解されたくない

 昼食を共にする為、逃げられる前にフィアの教室に向かう。

 気配を消して近づこうとしたけど、バレた。また逃げられる! と思ったら、逃げないでいてくれたのでひと安心。気配を消す特訓もしないといけないかと思ったよ。

 

「フィア、昼食を一緒にどうかな」

「は、はい……っ」


 瞬間的に真っ赤になるフィアの顔。

 もしかしてフィアが自分で化粧してたのって、すぐ顔が赤くなるからかな。それだったら悪いことしたな。いやでも、厚化粧は肌に悪いっていうし。心の平穏を取るか肌の健康を取るか……。

 

 廊下をフィアと歩く。凄い見られるなー。見るのはいいんだけど、みんなあからさますぎないかな、その視線とか表情とか。そのうち見慣れるとは思うけど。

 

「レジー様は」

「うん?」

「私と歩くのは、恥ずかしくないのですか?」

「恥ずかしい? なぜ?」

 

 恥ずかしくなる要素あったかな。

 

「その……私はこのような見た目ですし……これまでの言動が……」

 

 最後は言いづらいのかモゴモゴしてて聞き取れなかったけど。

 

 フィアの元婚約者が出て来たし、嫌でもフィアの耳に入る噂があるだろうから。早めに話しておかないと、誤解して逃げられちゃいそう。ちゃんとこの婚約をオレが望んだってことを伝えておかないと。

 

「邪魔されずに話をしたいから、バスケットにしてもらって中庭に行きましょう」

 

 当学園うちの食堂の良いところは、中庭で食事ができるようにと食べやすい料理が入ったバスケットがあることだ。

 中庭なら遠巻きにでも人の目があるし、婚約者だからって二人っきりってことでもないし。

 

 バスケットを用意してもらってる間も、他の生徒達から遠慮ない視線を送られたけど、気にしない気にしない。オレはフィアだけ見ていればいい。

 用意されたバスケットを持って、中庭に向かおうとして、隣を歩いているはずのフィアが立ち止まってしまった。

 

「ごめんね」

 

 そう言ってからフィアの手を取り、中庭に向かう。

 

「れ、レジー様、手、手が!」

「うん、繋いでます」

 

 慌てているフィアを、強引にならないように引っ張る。

 

「あ、空いてるガゼボがあった。良かったー」

 

 令嬢にとって日焼けは許されないことらしいので、中庭にはガゼボがいくつかある。ベンチもあるし、テーブルもある。だからバスケットを持ってこれるんだけど。

 

 まずは食事をして、それから話そうと思っていたんだけど、「レジー様のお話をお聞かせください」と言われてしまった。

 

「フィアにまず、謝らなくてはいけません」

「私に?」

「貴女とトーマスの婚約を解消させてしまったのは、僕だと思うので」

「レジー様が? どういうことですか?」


 トーマスが婚約を解消したがっていた、というのは言わないでおくとして。

 

「あまりに僕が貴女との婚約を羨んだから、トーマスが僕に婚約者の立場を譲ってくれたんです」

 

 譲るっていうのも、ちょっとどうかとは思うんだよね。フィアは物じゃないんだから。かと言って他に上手い表現も思いつかないオレの語彙力のなさ。本読もう。フィアは知的なタイプが好きかもしれないし。

 

「そのような嘘をお吐きになる必要はありません」

 

 そこで言葉を切ると、フィアは俯いた。悲しいのを耐えている顔だ。スカートをぎゅっと握りしめてるし。

 

「トーマス様とは上手くいっておりませんでしたから、婚約が解消されたのはレジー様の所為ではありませんもの」

 

 うーん、やっぱり誤解してる。

 

「いえ、嘘じゃないんです。僕は一途な女性が好みなので」


 一途じゃ言葉が足りないかな。ここははっきりと言うべきか。

 

「僕はフィアに死ぬほど好かれたいんです」

 

 驚いたのかフィアは顔を上げてオレを見る。

 

「好きで好きで、僕のことしか考えられない、僕に接近する他の女性に嫉妬してしまうし、僕のことを無意識に目で追っちゃう。そういうのに強く憧れてるんです」

 

 フィアがトーマスにしてたこと、なんだけど。

 

「……本気でおっしゃってるのですか?」

「本気です」

 

 トーマスも当初信じてなかったけど。最近は信じつつあるかな? いや、まだか。

 

「重くないのですか?」

「最高ですね」

 

 想像するだけでにやけちゃう。

 

「レジー様は変態なのですか?」

 

 え。

 

「フィア、酷い……勇気を出して打ち明けたのに」

 

 変態だなんてそんな……あえてそこに至らないようにしてたのに。

 

 ふふ、と堪えきれずにフィアが笑う。

 

「以前読んだ本に、書いてあったのですけれど」

「うん?」

 

 やっぱり本、読もう。フィアとの話題を広げる為にも。

 

「ふたが見つからないほどひどい鍋はない、ということわざがありますでしょう?」

「ありますね」

 

 良かった、知ってることわざで。

 

「他の国では、どんなジャックにも似合いのジルがいる、というのだそうです」


 へぇーっ、フィア、物知りだなぁ。とりあえずフィアが読んだ本の中からオススメを教えてもらおう。

 

「レジー様がジャックで」

「フィアはジル?」

「はい」

 

 そう言って笑顔になるフィアが可愛くて、抱きしめたくなって、ぐっと我慢。頑張れ、オレ。

 

 オレの腹が鳴って、フィアはバスケットからハムなどが挟まったパンを取り出した。

 

「申し訳ありません、私のワガママでお食事が遅くなってしまいました」

「フィアの気持ちのほうが大事です」

 

 本当に。

 フィアに伝わって安心したのか、腹が鳴っちゃったけど。

 

 他愛のないことを話しながらの食事はとても楽しかった。

 結婚したらこんな感じかなーとか、まだ婚約したばかりなのに想像しちゃったり。

 

「レジー様?」

「あ、ちょっと他のことを考えてました」

「……私のことだけを考えてほしいと言ったら、どうなさいますか?」

「基本的にフィアのことしか考えてないんですけど、それじゃあ駄目ですか?」

 

 フィアの顔が真っ赤になる。

 

「残りは、その時考えないといけないことぐらいですかね。授業とか、そういう」

 

 考えてみたら、婚約してからずっとフィアを中心にものを考えてる気がするなー。

 

「レジー様はズルいです……」

「それ」

「え?」

「午前中にも言ったでしょう、その僕がズルいというの。考えたんですけど、わからなくて。謝るのはすぐにできますけど、原因がわからないでフィアを怒らせたり失望させたくなくて……だからなにがズルいのか教えてください」

「そういうところですっ」

 

 え? そういうところって、どういうところ?

 

「教えません」

「えぇ?」

 

 そんなー。

 

 拗ねたのかと思いきや、口角が上がってるから、フィアってば怒ってはいないのかな? 食事が美味しいから機嫌が回復してる? うーん、フィアのこと、もっと知りたい。

  

 女心難しい……。それともフィアの心が難しい……?

 好きになってもらうためにも、もっともっと色んなフィアを知らないと!

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 「ジャック&ジル」 確かマザーグースでしたっけ。 こうやってフィアを肯定して自信を持たせ、いろいろアドバイスしてくれるレジーは、精神的なスパダリかも。 そうして育った彼女は、美しく一途な女…
[一言] 蓼を好んで食べる虫だっているのです。 お似合いお似合い(*´ー`)
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