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49.理由が欲しいんです

 解決策が見つからないまま二週間が過ぎた。

 あれからも話し合いは続けているんだけど、これだ、という案が出ない。でも諦めたくはないんだよね。あっちだって何年もかけてやってきたんだから、それに対抗できることを若輩のオレ達が少し考えたぐらいで捻り出せるはずもない。だからといって諦めないし、考える。何がきっかけになるか分からないし。

 そうは思うものの、フィアと過ごす時間が減ってる気がする。会いに来てはくれるし、昼休憩を一緒に過ごしたりもしてるんだけど、本音はもっと会いたいんです。要するにフィアが足りない。

 

「……オレの願望だろうか」

「何が?」

 

 サイモンは教科書から、補習になった箇所を書き出している。トーマス先生の厳しいご指導のお陰でオレは補習科目はない。首席はまだまだ無理なんだけど、成績は上がってる。

 

「フィアと過ごしたいというオレの願望が見せる光景だろうか、アレは」

 

 最近、廊下を歩く男女の姿を頻繁に見る。

 

「願望ならアレが全部おまえとミラー嬢になるんじゃないか?」

「確かに」

 

 トーマスが戻って来て、サイモンの手元を覗き込む。

 

「どうした?」

「最近、仲良さそうに歩く男女が多いという話をしていた」

「当然だろう」

 

 トーマスが満足げに口角を上げる。なんでかな。

 

「中立派同士の婚約を推し進めているからな」

「……中立派を王家派に取り込むんじゃなくて?」

「その必要がない」

 

 サイモンからペンを受け取ると、トーマスは紙の空白部分に正しい答えを書く。それを見てサイモンがなるほどといった顔で頷く。

 

「こちらの味方につけようとするから失敗する。それならば敵にならないようにしてもらえばいい」

 

 どういうことか聞いたところ、クックソンの陣営が大きくならないようにする為に味方を増やすのではなく、中立派の勢力を守ることにしたのだそうだ。

 できるならばどちらの陣営にもつきたくないという家はそれなりにある。野心があるなら既にどちらかの陣営についていることがほとんどだ。

 クックソンの妨害を受けないで済むように、中立派の家同士を引き合わせて守りを固め、今回に関してのみ協力関係になる。つまり前の時と同じ形に持っていこうとしているらしい。

 

「前回同様、ハンプデンが中心となる」

「不本意だが、仕方ないなぁ」

 

 オレが中心というのが、居心地が悪い。

 

「それでいい。中立派を代表して、などという高尚な意識はもたないでもらったほうがおまえらしい」

 

 褒めてないよね?

 

「クックソンにこれ以上勢力を拡大させない為にすることとしては、他にもある。以前話していただろう、商会を直接持つかどうかという話だ」

「あぁ、商会の後見になるとか、継ぐ爵位のない令息が商会を立ち上げるとか、そのあたりの話か?」

 

 そうだ、とトーマスが肯定する。

 

「中立派の家が合同出資すればいい。王家派は既存の商会の後見となって保護する」


 商会を持つといっても人材の確保や、商会運営に関する知識、実績、様々なものが必要になる。それを各家が持つのは賢明ではない。人材の取り合いになるだけだ。それならば始めから手を組んでいればいい。

 

「なるほどなるほど」

 

 確かにそれならクックソンの勢力拡大は妨害できそうだ。

 

「強硬手段に出るだけなんじゃないのか? それ」

 

 補習の勉強を諦めたのか、サイモンが言った。

 

「決定打には欠けるが、協力者を得られないことは悪くないはずだ」

 

 そうなんだけど、なんかこう、一瞬で全てを解決する奇跡のような方法はないものか。

 

「……あー、思い付いたかも」

「なんだ、言ってみろ」

「奇跡だよ」

「解決の糸口が見つからないから、遂に神に縋る……」

 

 そこまで言ってトーマスが真顔になる。サイモンも気付いたみたいだった。

 

「破門か」

「そう」

 

 国教である聖母子教会からクックソンが破門されたら、クックソンは王になれないんじゃないかな。王と教会とどちらかが上か、というとまぁ、教会なんだよね。権威としては。ただ、教会は名ばかりのところがあるから、実際は何の力もないんだけど。

 

「破門させる理由は?」

「それが思い付かない」


 全員無言になる。

 はぁ、また考え直しだ。

 

 教義は貴族にとってそれほど厳しいことは書かれていない。一夫一妻は原則だけど、血を繋ぐことが重要視されるから、庶子の存在も認められているし、離婚も当然ある。

 

「大らかな教義だよなぁ」

「戒律の厳しい教えの神を国教とする国もあるから、そういった意味ではありがたいが」


 三人同時にうーん、と唸る。

 

「なぁ」

 

 サイモンが紙に何やら書き出したのを、オレとトーマスは覗き込む。

 

「さっきの教義で思ったんだけど、うちはなくても他の国はどうだ?」

「クックソンが取引をしている国という意味か?」

「そうそう」

「問題ないから取引が続いているんじゃないか?」

「今の取引先はな」

 

 なるほど。

 

「新しい取引先が厳格な戒律の国だったなら、クックソンは対応を迫られるかもしれないな」

「だからといってそこまで重要視するか?」

「たとえば、富を独占できそうな商材を多く取り扱う国」

「火薬」

「医療」


 鉱石は自国でも生産されているし、医療も他国に遅れを取ってはいないと思う。むしろ他国のほうが……。

 

「そうか」

「そうだな」

「おぅ」

 

 三人共同じ結論に至ったんだと思う。

 

「いくら聖母子教会の戒律が緩めだとしても、何をしても大丈夫ではなかったな」

「人身売買は禁止されていたと記憶してる」

 

 クックソンがもし人身売買に加担していたとなれば、聖母子教会は破門する。

 国内での勢力拡大が失敗したとなれば、周辺諸国との親密な関係を後ろ盾にしてくる可能性はある。

 

「オレ達、才能があるかもな」

「悪役のな」

「あんまり嬉しくないな」

「さっきの火薬、うちが手引きできるかもしれない」

 

 サイモンが紙に地図を描き出す。

 

「どういうことだ?」

「変わり者の叔父が、とある島の女性と婚姻を結んだんだが、その島では硝石が多く取れるんだ。爆発力もいい。でも、島民は売り出さないんだ」

「何故だ?」

「駄目になりやすいんだそうだ」

「その駄目になりそうな硝石を、クックソンの手元に届くようにするということ?」


 それが上手くいけば、爆発しても威力は出ないかもしれない。

 こうしてオレ達が話している間も、トーマスが発案した鉄道敷設事業は着々と進んでいて、完成すれば式典が開かれる。

 

「魔法はない、奇跡もない。やれることは細かい邪魔」

「大小は問題じゃない、最終的にクックソンの野望を砕けるか、だ」


 うんうんと頷くサイモンを見る。

 

「サイモン、おまえこの話に加わっていいのか? 家の了承は得ているのか?」

 

 懸念事項はそれだけじゃない。

 

「深くは入り込まないつもりだ、オレも、ハードウィックも」

 

 でもさ、と言葉を続ける。

 

「ちょっとぐらい協力したい、ということだ」

「そうか、助かる」

 

 ハードウィック家は中立派だ。硝石をクックソンと直接やりとりするのはよろしくない。

 クックソンは平民を舐めてるから、言いなりにできる商会はあるにはあるだろうけど、他の商会から距離を置かれている可能性は大いにある。

 

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