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17.一人より二人、二人より三人?

 教室内が騒ついている。理由は分かってる。……と思ってたら別の話だったりするかもしれないから、様子見。

 席に着いたオレに、級友のサイモン・リンゼイ・ハードウィックが話しかけてきた。

 

「トレヴァー、おまえ聞いたか?」

「なんの話?」

「御用達だよ、王室御用達」

 

 思っていたのと合っていたらしい。

 

「王室御用達」


 なるほど、そういう呼称にしたのか。……というか、そのまんまなんだな。

 

「王家が、一定以上の品質を保持していると認定した中でも、特に優れた商会は、王室御用達と自称していいと認めたんだ」

「へぇ」

 

 それなら、これから認められてみせるぞ! と意気込む商会も出てくるだろうし、認められたからといってそれで終わりじゃないってことも商会側は認識するだろうな。

 

「おまえに嫌がらせをしていた奴ら、どうするんだろうな」

 

 王家は商会を疎ましく思っていない。保護すべきだという態度を明確にしたってことだからなぁ。

 

「どうするもなにも、改めるだろう?」

 

 普通なら。

 確かめる必要がないぐらいはっきりと、王家は示したわけなんだから。

 

「どうだろうな」

 

 トーマスがやって来てオレの前の席に座る。トーマスの言葉に同意するようにサイモンは頷いた。

 

「いや、だって、そんなことをしたら王家の意思に反するんだから」

「皆がおまえのように真っ直ぐなら世界は平和なんだがな」

 

 馬鹿だと言われた。いや、馬鹿だけど。

 

「言わんとすることは分かるが、巧妙に隠したとして、隠し通せるものなのかと聞きたい」

 

 だって調べるだろうし、こういうこともある程度想定してるだろう、王家だって。クリスと一緒に色々勉強している中で分かったことだけど、商会への叙爵に反対している家の中で、過去の経緯から王家に目をつけられている一族がいる。世代交代の際に表面上和解したことになってるけど。外部の人間が見て、表面上だって分かるってことは、まだその火種は燻ってるってことだろう。そうなると王家としては今行動を起こしてもらって力を削ぎたいという思惑もあるかもしれない。ただ、そこでトレヴァー家とミラー家を利用したとして、双方の家になにかがおきれば王家は我らの家に借りを作ることになる。王家に貸しを作るというととても魅力的なようにも聞こえるけど、そんなに美味い話というのはないものだ。痛い思いをして、わずかばかりの褒美をいただくとか、お言葉をいただくだけの可能性だってある。それにオースチン家は中央にいたい一族だ。権力を持つ有力貴族に擦り寄りたいのではなくて。

 

 ……と、そのようなことを言ったらトーマスたちが驚いた顔をした。

 

「……おまえも成長するんだな」

「酷いことを言っている自覚はあるか、トーマス?」

 

 これまであんまり関心もなかったし、知らないことのほうが多かったけれど、フィアの夫になるのなら彼女を守れる人間にならないと。

 

「恥をかくのは一部の人間だけだろうが、追い詰められた人間は何をするか分からないからな」


 誰のことを言ってるのかは分かる。チャールズのことだろう。

 

「芸術祭でなにか仕掛けてくると思うか?」

「するんじゃないか?」

 

 一族は反対するだろうけど、チャールズのあの性格では我慢出来なさそうにも思えるし。

 

「妨害される側だろう、おまえは。なんでそんなに冷静なんだ」

「オレは分かってるから対策の取りようもあるが、他の生徒がかわいそうだろう。なんとかならないかな」

 

 これまでは作ったら母に預けてしまって、自分が作ったものに対して愛着なんて持ったことがなかった。でも今はフィアの彫像を作っていて、満足のいく出来まではいかなくても、なんとなく愛着がわいてきてるっていうか。オレでそうなんだから、真剣に作品を生み出した他の参加者からしたら、巻き込まれたら怒りを覚えるだろう。参加必須じゃないのに参加しているってことは、それだけの熱意があるってことなんだろうから。

 

「おまえはお人好しだな」

「そんなことはない」

 

 オレだったら嫌だと思うって話だ。

 

「オレの作ったものは、たとえ壊れてしまっても構わないんだ。そもそも参加の動機が不純だから。フィアもそれは分かってくれるだろうし」

 

 フィアの彫像は、フィアに奪われたもの以外、展示するつもりはない。展示するものは提出済みだ。フィアの彫像は当日持って行って、もっともらしい茶番を披露する予定。

 

 トーマスとサイモンがため息を吐く。

 

「さらっと惚気るな。こっちは婚約者もいないっていうのに」

「返さないぞ?」

「そんな気もないが、ミラー嬢が絶対に受け入れないから安心しろ」

 

 え、そうかな? そうなら嬉しい!

 

「おまえの作品だけ別室にしたら、あからさますぎるしな」

「それならばそれでいいんじゃないのか? 誰も被害に遭わないってことだろう?」

 

 まさか、芸術祭そのものをなかったことにするなんて……。

 

 三人とも同じ考えに至ったのだと思う。目が合った。

 

「……あり得るな」

「あのプライドの高さだからな」

「いっそのこと、オレが参加を止めるっていうのは?」


 「それは駄目だろう」、と二人は声を揃えて言った。

 

「駄目かぁ……」

 

 参加しつつ、何某かの妨害を防ぐっていうのもなかなかに難しい気がする。大体、場所が……。

 

「そうか」

 

 トーマスが呟く。

 

「警備されている場所に作品を保管しておけばいい」

「作品はそれで守られるかもしれないが、何かが起きて祭そのものの開催を阻止されたら?」

 

 サイモンの言葉にトーマスが唸る。

 

「あまり大事にはしたくないんだが……」

「家が出て来ているから、それはもう無理なんじゃないか?」

「それもそうか。じゃあ、気にせずいこう」

 

 考えたけど駄目だったんなら、やむなし。

 

「さっきまでの、深謀遠慮とまではいかずとも、配慮に満ちた発言はなんだったんだ……」

 

 トーマスの発言に同意するサイモン。

 

「いや、だってどうしようもないんだろう? だったらもうしようがない。なるようにしかならない。引き返さないのなら、先輩がそこまでの人間だってことなんじゃ?」

 

 だってオレ、幸せになりたいし。

 やることやって駄目ならしかたない。諦めちゃいけないものは最後まで粘るけど。

 

「……なんだか真面目に考えるのが馬鹿らしくなってきた……」

「オレも……」

 

 ため息を吐いて自席に戻る二人を見送る。

 

 まぁ二人の言いたいことも分かる。ここでなんとか阻止できたら確かにかっこいいとは思う。でも、できないし……それに阻止できたからといってチャールズのプライドは微妙に傷ついたままだろうから、変にこじらせてくるかもしれない。優秀なのは間違いないんだから、王室に仕える人間になる可能性は大いにある。そんな人物に目をつけられてしまうんなら、今ここでなんとかなって欲しいと思ってしまう、性格の悪いオレがいる。

 自分でフィアとの婚約解消を望んでおきながら、状況が変わったら相手してやってもいいって。それを断られたらプライドが傷ついたって、なんなんだそれ。フィアのプライドを傷つけておきながら、自分のプライドは守りたいだなんて。フィアはおまえのためにいるんじゃないんだぞ!

 あー、考えれば考えるほど腹が立つ。元婚約者全員がそうとは言わないけど、自分本位が過ぎるんだよ。

 やっぱりなんとかならないかなぁ。思い知らせてやりたいけど、相手の性格がなぁ。貴族なんてプライドで生きてるようなところあるし。なんかこう、さっきの二人みたいに、馬鹿馬鹿しい、やってられない、みたいになってくれればいいんだけどな。

 

 芸術祭の開催を邪魔できないようにする方法。かつ、チャールズをぎゃふんと言わせる。他の生徒にも迷惑をかけない。商会のことがなければこんなにも難しい話になってなかったはずなのになぁ。商会は悪くないんだけど、なんとなく商会に対してもやっとしたものを抱えてしまう。

 ……あー……そうか、商会か。

 

「トーマス」

 

 トーマスの席に向かう。サイモンとまだ話をしていた。

 

「なんだ?」

「出品する作品って、どうなんだ?」


 オレの言いたいことが分からないようで、怪訝な顔をするトーマス。そうだよな、オレも自分で説明下手だなって思う。

 

「商会が取り扱えそうなほど優れたものはあるのか?」

「そういうことか!」

 

 今のでトーマスは分かったみたいだ。凄いな?!

 サイモンはまだ分からないみたいで、オレとトーマスの顔を見る。

 

「待てよ、二人だけで話を進めるな。オレにも教えてくれ」

「商会の面々に作品を見てもらうんだよ。それでもし優れたものがあれば上手くいく」


 オレの説明にトーマスが頷く。

 

「もしあれば、商会が持つ場所で芸術祭を開催してもらえばいい。それならば警備もされるだろうし、妨害もしづらいはずだ」

「なるほど。他の生徒の作品も守られるってわけだ」

「そういうことだ」

 

 やっぱりオレ、チャールズをやり込めたい!

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] レジーってば友人にお馬鹿扱い(笑)されてはいるけどなんだかんだと機転も良くて地力は未知数ですよね( ´∀`)
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