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10.誘拐も辞さない?

誘拐は犯罪です、よ。。。

 クリスの婚約が決まったことをミラー家に報告に来た。どうかこれが原因でフィアとの婚約が解消されたりしませんように!

 ああぁ、緊張してきた。

 反対されたらどうしよう。そうなったらフィアのこと誘拐してもいいかな?!

 

 案内された客室で待っていたら、ドアが開いた。入って来たのはフィアの父であり、ミラー家の現当主のミラー伯。それから伯爵夫人とフィア。

 立ち上がって軽く礼をすると、伯爵が手を上げて応えてくれた。

 

「待たせてすまないね」

「いえ」

 

 伯爵が腰掛けるなり、お茶が運ばれてきた。

 

「弟の婚約相手についてということだったが」

「はい」

 

 思わず唾を飲み込んでしまって、ごくりと音が鳴ってしまった。

 

「ハリス商会長の令嬢なのだそうだね。めでたいことじゃないか」

「ありがとうございます。ですがあちらは平民ですので……」 

「言いたいことは分かっているよ。だが私も爵位を持つ者の端くれだからね。かの商会を持つハリス家はそう遠くないうちに叙爵されるのは分かる」

 

 言う前に伯爵に止められる。

 

「そうなるかと思います。そうなるとミラー家にも影響が出るかと……」

 

 初めて聞くことばかりなのか、フィアが目を大きく瞬きをしている。

 

「お父様、我が家とどう関係があるのですか?」

 

 ミラー伯は優しい眼差しでフィアを見る。うんうん、可愛いよね、フィア。

 

「我が家の血統をフィア、おまえも知っているね?」

「えぇ、青い血を守っております」

「レジナルド君の弟が青い血ではない者を妻に迎えるのだよ。青き血ではない者を嫌う者達からすれば面白くあるまい」

 

 フィアの表情が曇る。


「その、嫌う方達は我がミラー家の為に何かしてくださるの? してくださらないのでしょう?」

「まぁ、そうだね」

「でしたらどうでも良いことです」

 

 さすがフィア! 素敵!

 

「それに、ハリス商会は我が国でも指折りの大きな商会ではありませんか。そのような商会と縁戚になることは当家にとっても良いことだと考えますもの」

 

 愛娘の発言に、父である伯爵は満足気に微笑む。

 

「名誉は大事ですが、私達は領民の生活を守る義務があります」

 

 領主の心得とか色々勉強してきたけど、今のフィアの言葉が一番心に響いた。血統も大事だとは思う。誰が領主になってもいいってわけないんだから。でも、大事なのはその気持ちだよなぁ、って。持つ者の義務と権利。持つ者は持たざる者を支配するが、庇護する義務を有する。

 そういった考えが薄れつつあり、各家での教育だけでは足らんとして設けられたのが学園だって聞いてるし。

 

「レジー様?」

 

 フィアを見て微笑んでたら声をかけられた。

 

「フィアがあまりに素敵なんで見惚れていました」


 赤くなったフィアを、ミラー伯爵と夫人が微笑ましく見つめる。

 

「仲が良いとは聞いていたけれど、これほどまでに大切にされているとは思ってもみなかったよ」

「お、お父様っ!」


 恥ずかしくなったフィアがミラー伯を叩く。ミラー伯は叩かれた場所を苦笑しながらさすってる。だよねぇ。すごい音してたし。

 

「安心しました。もし伯爵のお怒りを買ったら、フィアを攫おうかと思ったぐらいです」

「レジー様?!」

「いや、そういう覚悟というか、気持ちだったってだけなので安心してくださいね」

 

 フィアは伯爵の腕を掴む。あ、そこ、さっき叩いたところ。

 

「だ、大丈夫だから、フィア。一族からも反対は出ていないから安心おし」

 

 当主とはいえ、もし一族から反対が出ると厄介なことになる。うちはちょっとあったみたいだけど。

 名誉で腹は膨れない。それに新興とはいっても貴族になるんだったら言い訳もたつってことなんだろう。

 

「あちらは今後のことも考えて、ミラー家の血統をアテにしています。ミラー家が断った場合は間には立たないとは伝えてありますので、ご安心ください」

「ふむ? それでいいのかい?」

「各家で重きを置くものはそれぞれです。血統は遡ることができないからこそ、貴重とされるのです。守りたいという気持ちも理解できます」

 

 どこに価値を置くかは、本当にそれぞれだよね。家族だって考えは違うんだから。無理強いはよくない。

 

「我がミラー家はね、可もなく不可もない家だ。あるのは血筋だけ。意識して守ってきたわけじゃない。伝統は大事だが、それは民の生活を犠牲にしてまで守るものではないと我が一族は考えているよ。それが誰かのためになるならいい事だ。ハリス商会まで他国にいかれたら困るからね」

 

 人が良さそうだなとは思ってたけど、本当に良い人だなぁ、伯爵。夫人と見合ってにこにこしてるし。そんな両親を笑顔で見ているフィア。きっと、フィアは両親のようになりたいんだろうな。任せてフィア!







「そんなわけで反対されなかったんで、ミラー家をよろしくね」

 

 屋敷に戻ってからクリスに伝えると、苦笑いされた。

 

「誰よりもレジー兄さんが強敵な気がしてきたよ」

「え? だって恩恵を受ける最大のチャンスじゃない? トレヴァー家、ハンプデン家、ミラー家、ハリス家、全部にとってメリットがある婚約なんだし」

 

「それがさ」と言ってクリスはため息を吐く。

 

「ハンプデン家を継ぎたい兄さん達が反対してるんだよね。あわよくば僕の婚約も妨害したい、って考えだと思う」

 

 敵は家中にもいたかー。

 なんか廊下で物音がするなぁ。

 

 ハリス家から届いたという菓子をつまむ。バターがたっぷり使われた高級菓子だ。美味いなぁ。

 

「あ、そのお菓子、レジー兄さんにしかあげてないから」

 

 婚約に反対してる兄弟には菓子すらあげたくないんだ。クリス、好き嫌いはっきりしてるもんね。

 

「ハンプデン家側はなんていってるんだ?」

「どちらでもいい、だって。どう思う? 随分適当だと思わない?」

 

 怒っているのか、クリスの言葉にはトゲがある。

 

「まぁまぁ、今までになかったことをやろうとしてるんだし。変化を好まない層もいるから、バランスが取れるんだし、そんなに怒らない怒らない」

「いっそ兄さんがハンプデン家を継いだままミラー家にいけばいいのに」

 

 えぇ? そんな無茶な。

 

「そうすれば婿入り先で冷たくされることもないし。どう? 兄さん」

 

 知らないところで色々あったみたいだな。ここまでクリスが怒ってるってことは。

 廊下からヒソヒソ声が聞こえる。

 

「どうしようもなければそれもやむなしだけど、今はまだそこまでじゃないだろう? 兄さんたちがトレヴァー家、ハンプデン家にとって不利益をもたらすなら話は変わるけど」

 

 侍女に目配せしてドアを開けさせると、兄さんたちがなだれこんで倒れた。気まずそうにこちらを見てる。


「聞こえていたか分からないから言っておくけど、クリスの婚約にトレヴァー家当主の父上は賛成しているし、ミラー家からも反対は出ていない。兄さんたちが反対してもこの婚約は続行される。国も後押しするだろう婚約にケチをつけて、最後に損をするのはハンプデン家や他の爵位を継ぐ兄さんたちだから」

 

 はっきりと言うと、長兄がムッとした顔になる。次兄と弟は気まずいのか目を合わせない。

 

「なんで損をするんだ」

 

 あれ? 兄さんってこんなに物分かりが悪かったかな。

 

「なにかあってもハリス家とミラー家、トレヴァー家からの援助は得られなくなるって分かってる? 下手をしたら王家にも目をつけられる」


 その場合、身内も御せない家との誹りをトレヴァー家も受けることになっちゃうから、クリスの婚約に反対する兄さんたちは家を継げなくなる……?

 

 クリスに目をやると、にんまりしていた。

 

 え……うちの末弟、腹黒くない?

 

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