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T'N'A

双子のパンダの白黒なきもち

作者: 小池ともか

歌川 詩季先生の『双子の白熊猫のきもち』の二次創作で『双子のパンダの白黒なおでかけ』の前日譚です。


 学校での妹パンダは引っ込み思案です。


 今回はどちらかというと小池節、歌川先生要素はあまりありませんかね…。

「いってきまーす!」

「いってきます」

 玄関、お兄ちゃんとそう言って。

 いつものように学校に向かう。

 普通の白パンダのあたしと、普通とは逆の色の黒パンダのお兄ちゃん。並んで歩くと目立つけど。

 お兄ちゃんと一緒だから。いいやって思える。

 本当は、お兄ちゃんも白パンダだし、あたしだって黒パンダなんだけど。

 双子でそっくりだからって。できたら変えてって学校から言われちゃった。

 その時お兄ちゃん、自分が黒パンダで行くよって、すぐ言ってくれて。

 普通と違う黒パンダ。

 お兄ちゃん、あたしが周りの目を気にしちゃうのわかってて、自分が黒パンダになるよって言ってくれたの。

 ホントのことなんて言わないけどわかってるよ。

 双子だもん。



 他のパンダがどうかなんて知らないけど、あたしたちは白パンダでも黒パンダでもある。

 嬉しいことがあると白パンダになっちゃったり。

 悲しいことがあると黒パンダになっちゃったり。

 お兄ちゃんほどあたしは上手に自分を変えられないから、たまにどうしても白パンダになれないこともあって。

 でもそんなことで学校は休んじゃダメってママに言われてるから休めなくって。

 そしたら学校に行くまでの間に、いつもお兄ちゃんが入れ替わろうって言ってくれる。

 お兄ちゃんはあたしとして白パンダに。

 あたしはお兄ちゃんとして黒パンダに。

 休み時間は疲れてるって言って寝てたらいいよって、お兄ちゃん。

 どうしたのってみんなに聞かれても、眠たいって言って。

 お兄ちゃんはあたしとしてみんなと話ができるのに。

 あたしはお兄ちゃんとしての態度をみんなに取れなくて、ひとりで寝たフリしてる。

 あたしの優しいお兄ちゃん。

 すごいねって素直に思える気持ちと。

 羨ましいなぁって思っちゃう気持ち。

 お兄ちゃんのこと大好きなのに。こんなに助けてもらってるのに。

 こんな風に思っちゃうなんて。あたしってホントに駄目な子。

 ホントはね、わかってたんだよ。

 お兄ちゃんよりあたしのほうが、黒パンダらしいんだって。

 お兄ちゃんよりあたしのほうが、黒パンダでいるべきなんだって。

 半分よりももっとずっと、あたしは黒パンダになっちゃうから。

 白パンダになれないから。

 ホントはね、あたしが黒パンダでなきゃなんなかったんだって、わかってる。わかってるのに。

 でもあの時言えなかった。

 ごめんね、お兄ちゃん。

 ずっと、迷惑かけちゃってて。



「なぁ」

 今日も寝たフリしてると、頭の上から声がかかった。

 覚えある声。顔を見なくてもわかる。

 甲斐犬のカイくん。

「本の速読み競争、やんない?」

 カイくん、お兄ちゃんとことあるごとに競争してて。いっつもふたりで勝っただの負けただの言って、楽しそうに笑ってる。

 仲良しなんだよね。そんなところも羨ましい。

「コレ。先読んだ方が勝ちな」

 薄い文庫本が目の前に置かれる。

 断ろうかと思ったけど、楽しそうなお兄ちゃんの様子が浮かんじゃって。

 あたしもお兄ちゃんとしてなら、あんな風に楽しそうにできるかな?

 そんなことを思っちゃった。

 お兄ちゃんじゃなくてあたしだってバレたらって思ったけど、本を読むだけならきっと大丈夫、だよね…。

「いいよ」

 あたしがそう言うと、カイくんは嬉しそうに笑った。



 その日から、お兄ちゃんが黒パンダで行った日だけじゃなくて、あたしがお兄ちゃんとして黒パンダで行った日も、いっつもカイくんが勝負を挑んでくるようになった。

 お兄ちゃんとは、シャウト対決とかダジャレ対決とかバスケのシュート対決とかしてるけど、あたしの時は辞書早引きや計算問題とかで。寝たフリしてるから、寝ぼけてて勝てると思われてるのかな?

 カイくんとの勝負は楽しかった。

 楽しかったのはあたしだけど、勝負をしてたのはお兄ちゃん。

 あたしじゃないんだよね。



 そんな日が続いたある日。

 今日は白パンダのあたし。中庭への廊下を歩いてたら、ふと自分の名前が耳に入った。

 物影、友達がふたり、何か話してる。

 …あたしの名前、聞こえたよ?

 あたしのいないところで、ふたりであたしのことを話してるの?

 何話してるのって行ければいいのに、あたしは行けなくて。

 逃げるように背を向けた。

 ぞわぞわ、嫌な気持ち。

 話してたふたりにじゃない。

 声をかけれない自分が、ホントに嫌で情けなくって。

 気付いたら、黒パンダになっちゃってた。



 自分の手が白くなっちゃってるのに気付いて呆然とする。

 どうしよう。

 今日はお兄ちゃんが黒パンダで来てるのに。あたしまで黒パンダになっちゃったら黒パンダが二頭になっちゃう。

 どうしよう?

 お兄ちゃん教室だし。黒パンダじゃ呼びに行けない。

 どうしよう!

 戻ろうと思うけど戻れない。

 黒パンダのあたし。

 戻れないあたし。

 ひとりじゃなんにもできない、あたし。

 じわりと涙が滲む。

 …どうしたら、いいの?

 動きたいのに動けない。

 立ち竦む自分が情けない。

 黒パンダから戻れない自分なんて嫌い。

 あたしはどうしてこんななのかな。

 零れる涙が止まらない。

 お兄ちゃんはいつだって自然で。

 白パンダでも黒パンダでも、どっちも自分なんだって認めてる。

 わかってる。

 戻れないのはあたしが弱いから。

 あたしの気持ちが、弱いから。

 あたしはどうしたら、お兄ちゃんみたいに強くなれるの?

 どうしたらいいかわからなくて。うつむいて、落ちてく涙をただ見てたら。

 にゅっと、黒茶の手が伸びてきた。



 急に手を取られてびっくりして。

 顔を上げたら、目の前にカイくんがいた。

 なんでカイくんが?

「来て」

 カイくん、そう言ってあたしを引っ張った。

 何がなんだかわかんないまま連れてこられた保健室で、カイくんは寝てればいいよって笑う。

「頭まで被っておけばわからないから。次の休み時間にあいつに来るよう言っとくよ」

 それだけ言ってカイくんは行っちゃった。

 なんにも言えないままで、何が起きたかもわからないあたしは。

 ただカイくんの背中を見送るだけだった。



 言われた通り頭まで掛け布団を被って、ちょっと落ち着いてきた頭で考える。

 カイくん、あたしを助けてくれたんだよね?

 なのにびっくりしすぎてなんにも言えなかった。

 ありがとうすら言えなかった。

 ホント駄目だな、あたし。

 そう思ってから気付く。

 カイくん?

 あたしって気付いてた?

 黒パンダなのに。お兄ちゃんじゃなくてあたしだって。

 あいつに来るようにって言ってたもん。カイくん絶対気付いてたよね?

 …もしかして、あたしがお兄ちゃんのフリしてる時もずっと、あたしだってわかってた??

 だからお兄ちゃんとするようなのじゃなくて、あたしが喋ったり動いたりしなくてもいい勝負にしてくれてたの?

 寝たフリばっかりしなくていいように、あたしを助けてくれてたの?

 そうやって、あたしを守ってくれてたの?

 びっくりしてから引っ込んでた涙がまた零れる。

 弱いあたしは、守ってもらってたことに気付いてなかった。

 あたしがひとりで下を向いてる間、守ってもらってたことに気付いてなかった。

 弱くったってあたしがお兄ちゃんとしていられたのは、そうやっていつの間にか守ってもらってたからなんだって。

 あたしがあの場にいられるよう、守ってもらってたからなんだって。

 全然気付いてなかったってことに、やっと気付いた。

 だからせめて。

 ありがとうって言わなきゃ。



 休み時間になって、お兄ちゃんが来てくれた。

 もうちょっと静かにねって保健室の先生に怒られちゃうくらい慌ててた。

 心配かけたんだから、嬉しいなんて思っちゃ駄目なんだけど、嬉しいよ。

「ごめんな、気付かなくて」

 お兄ちゃんは悪くないのに、あたしをぎゅっとして謝ってくれる。

 いっつもいっつもあたしのことを気遣ってくれるお兄ちゃん。

「ううん。あたしのせいだもん」

 あたしもモフモフのお兄ちゃんをぎゅうっとしながら。ふたりとも黒パンダだから、黒い塊だね。

「どうする? 家帰るなら一緒に…」

「大丈夫。このまま教室に戻るよ」

「このまま…?」

 驚いた声のお兄ちゃんに、抱きついたまま頷く。

 カイくんにお礼言わないとだもんね。

 それに。

「…今まで、ありがとね、お兄ちゃん」

 あたしはお兄ちゃんにもカイくんにもずっと守ってもらってた。

「…もう大丈夫。怖いけど、怖くないよ」

 そんなあたしにできることなんてほとんどないけど。それでも。

 あたしはあたしとして。お礼を言いたい。

 助けてもらった黒パンダの姿で、お礼を言いたい。

 今まで黙ってた分、みんながどんな顔するか怖いけど。

 きっとお兄ちゃんなら、みんなの応えをちゃんと受け止めるから。

 自分のやったことだからって、どんな顔されても逃げないでちゃんと受け止めるから。

 あたしはそんなお兄ちゃんの妹だもん。お兄ちゃんを見習うよ。

 お兄ちゃんはもう何も言わないで、ふたりおそろいの黒い頭をよしよししてくれた。



 教室の前。黒パンダが二頭。

 ドキドキドキドキ、鼓動が跳ねてるけど。

 お兄ちゃんと白い手をつないで。

 先に行こうとしてくれたけど、頑張ってあたしから入るね。

 がらりと扉を開けたらみんなこっちを見て。

 黒パンダが二頭いるからびっくりしてる。

 友達ふたり、あたしたちの方に走ってきて、どっちがどっち、って聞いてくる。

 あたしがあたしだよって答えたら、そっかって笑ってた。

 お兄ちゃんと入れ替わってたって話して、ごめんねって言ったら、そうだったんだ、って。

 時々様子がおかしいなって思ってて。今日もそれを話してたって。

 あのとき話してたこと。あたしを心配してくれてたんだってわかって。

 そしたら声をかけられなかった自分がもう本当にばかみたいに思えて。

 思わず泣けてきちゃった。



 隣のお兄ちゃんが、ぎゅっと手を握ってくれてる。

 どうしたのってびっくりしてるふたりの向こう、よかったねって笑うカイくんがいた。

 読んでいただいてありがとうございます。

『おでかけ』の前日譚になります。


 歌川先生、許可をいただきありがとうございます。

 話の流れ的に今回はあまり遊び要素が入れられなかったのは残念です。

 新しい子も出てきましたし、また歌川先生ネタが貯まれば書けるかな。運動会とか。


 それにしても、学校では少しおとなしめな妹パンダ。前作より闇深い……。


挿絵(By みてみん)

 妹パンダとむきまろ By歌川様

挿絵(By みてみん)

 T'N'Aロゴ By歌川様

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歌川 詩季様
双子の白熊猫のきもち
双子のパンダシリーズはここから
T'N'A
― 新着の感想 ―
[良い点] レビューから来ました! [一言] 愛ですね!
2024/09/17 23:18 退会済み
管理
[良い点]  妹パンダちゃん、頑張ったね~(*´∀`)  カイくん、優しいし。かっこいいなあ。  お兄ちゃんパンダくんもステキです。  理解してくれている人が周りにいてくれるのは、  安心するし、…
[良い点]  黒いきもちになってしまうじぶんを、ちゃんとうけとめて。  それをうけいれてくれる、まわりにありがとうをいえる。  すばらしいことだと、おもいますよ。  私? 黒さを、ひらきなおってるだ…
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