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それでも、生きていた  作者: sinnemina
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第4−12話

昼下りになり、対策案が決まったのはいいが急いで買い出しをしなければならない。理由としては休業日が今日で終わりの為。ただでさえ今日は臨時休業したのに、翌日も準備の為に休みます。となったら店の信用問題になる。それどころか、僕が何か問題を起こしたと考えられるかもな。


とりあえず、子供用の椅子やひざ掛けといった小物類を調達していき、備品類を揃えていくが、問題が発生する。

テーブルを搬入する時間が無い。既設のテーブルを撤去し、新しいテーブルのサイズを吟味し、運ぶとなると数時間はかかる。とてもじゃないが今日中に終える事は出来ない。

なので、テーブルの件も含め、間に合わなかった他の案は随時導入となった。

他にはメニュー表を書き換えたり、店のおもてに出すボードを作成していった。


夕暮れになり、大体の作業が終わったので備品のチェックをする。不具合や壊れてたりしてないか、客と従業員の目線に立って動線を確認したり、ボードやメニュー表には記載ミスが無いか、初見客でもわかりやすい表現となっているか、といった確認をした。


これでやれる事は全てやった、後は僕達の頑張り次第だ。準備を終えると、早めの寝床に就いた。これからの事を考えると悪い事ばかりが頭の中をグルグルして不安になってしまい、あまり眠れなかった。


~翌日~

不安感で早めに目が覚めてしまい、リビングに向かうと、ルーガさんが起きていて朝の準備をしていた。


ルーガ「お、もう起きたのかい。おはよう。」

ルーガさんは、いつも通りを装ってるみたいだが、少しソワソワして落ち着きが無い。僕と同じ気持ちなのだろう、期待感と不安感が混ざった感情だ。考えなければいいのに、これが失敗したら、と考えた時の絶望感までセットで付いてくるので胃が痛くなってくる。

これがダメだったら、次の案を考えればいい。と頭では理解しているが心が追いついてないので、失敗したらヘコんでしまいそうだ。とにかく、成功すればいいんだ! 前向きに考えていこう。


僕は朝ご飯を食べ終え、ルーガさんから仕入れの数量が書かれたメモ用紙を受け取ると、買い出しに向かった。

初めに、サイさんの店に向かった。頼まれた分の野菜を買い終えた僕は、筆談でサイさんに相談してみた。


(売上を上げる為にはどうしたらいいですか?)


サイ「…ん? ああ、そういえばルーガのとこ、何か騒ぎがあったらしいな、それでか。うーん、そうだな。……お前がもっと堂々としたらどうだ?」


( ? )

言ってる内容がわからなかったので、僕は首を横に傾げる。


サイ「……まあ、皆、お前の事を犯人だと思ってるから、こんな事態になってるんだよ。だから、お前も犯人じゃないならビクビクしてないで、堂々と振る舞えば疑いは晴れるだろ。」


なるほど。確かにルーガさんの店に問題があるという訳ではないので、僕が変われば状況も変わるって事か。やはり、僕がネックになってるよな。でも、堂々と振る舞うって何をしたらいいんだ? と、少し悩んでいると、


サイ「お前は限られたコミュニティでしか、活動してないだろ? もっと自分の方から他人と打ち解ける努力をしろよ。」


……図星だ。そういった事は苦手で、現代でも異世界に来ても変わらず、他人に委ねるスタンスをとってきた。

(だけど、今は話す事が出来ないし。)と伝えようとすると、


サイ「話せなくったって、コミュニケーションはとれるだろ? 今みたいに筆談だったり、ジェスチャーなりでさ。結局、お前の意識次第だぞ。」


何も言えない。…いや、元から話せないが、そうではなく、反論出来ない。僕は常に、居心地の良い場所を求めて、自分からは何もせず、周りが変わってくれるのを待つ人間だから。

でも、動かなきゃいけない! 僕が蒔いた種だ、僕が変わらなきゃ駄目なんだ!


僕はサイさんにお辞儀をし、八百屋を後にすると自分なりに考えてみる。

僕のイメージを払拭する為にはどう変わればいいか? 僕が犯罪を起こすやつじゃないと思わせればいい。よし、好青年にでもなりきってみよう! そうすれば、疑いも晴れてくれるはずだ。いや、現代でも暗い性格だった僕が急に好青年になんかなれる訳がないんだよな。

だが、努力だけでもしておくべきか。笑顔の練習でもやってみよう、これなら好印象を与えられるし、飲食業にはもってこいだ。何より言葉を発する必要がないのはいいな。

肉屋の買い出しも終え、帰りの道中、少し練習してみた。笑顔を作ろうとすると、顔の筋肉が引っ張られる感覚がした。あまり、表情筋を動かさないから引き攣っているのだろう、顔のハリを治すところから始めないとだな。



笑顔か…、あの頃はどうやって笑っていたんだっけ。



買い出しが終わり、店に帰った僕は仕込みを手伝う。仕込みを終え、少し空き時間が出来たので、先程のサイさんから受けたアドバイスをルーガさんに相談してみる。


ルーガ「ん~、サイからそんな事言われたのかい。」

ルーガさんは顎に親指と人差し指を当て、考え込む動作をする。


ルーガ「でも、一理あるかもね。アキラ、今日からアンタも接客してみなよ。」

突然の提案に僕は一瞬固まった後、思い出したように、首を横に振る。


ルーガ「あれだけの騒ぎの後だから、街の皆はアンタがこの店に勤めてる事を知ってるさ、だから気にする事はないよ。」


ルーガ「それに、今回色々と新しいアイデアを採用したのはいいが、ホール側の負担が大きいだろ? 私だけじゃ手が回らないから手伝ってくれよ。」

そう言って、笑顔で手を差し伸べられた。


断れる理由が無い、騒動を起こした罪悪感もある。だが何より、そんな事より、ルーガさんの笑顔に応えたい! 貴方に頼られる事が嬉しい! 貴方をずっと見ていたい!


僕は不安よりも喜びが勝る気持ちで、ルーガさんの手を取った。

少し荒れていたが、柔らかく暖かい手だった。この手を握っているだけで何でも出来る気がしてくる。


そうと決まると、ホールの仕事を簡単に説明してもらい、その後は細かい段取りの打ち合わせをした。

そして、開店準備を終えると営業を開始した。


一日、店を休んだおかげなのか、特に宣伝とかはしていないが、まずまずの客が入って来た。もしかすると、ルーガさんが裏で根回ししてたかもな。


店がそこそこ混雑してくると、僕もホールに出る事になった。僕は会話が出来ないので、首に(話す事が出来ません。)と書いたプラカードをぶら下げ、予め何種類かの言葉を書いておいたメモ用紙を活用して注文聞き等をした。

例として(注文を聞きます。)(どうかされましたか?)(ひざ掛けは利用しますか?)(こちらの席へ、どうぞ。)といった具合のメモとジェスチャーを多用して接客する。


ホールに出ると様々なお客がいた。フランクに話しかけてくれるお婆さんや、僕に対して無関心で我関せずといった態度で必要最低限の会話しかしない客、僕を見た途端、露骨に顔を顰めるお客もいた。

さすがに嫌悪感を表に出されると、こちらも戸惑ってしまう。


だけど、気にしない! 気にしたところでプラスには働かない。もう、これ以上足を引っ張りたくない! ルーガさんに頼られたんだ、客になんて思われようが関係ない。僕はルーガさんが大事なんだ、ルーガさんが喜んでくれさえすればいい、ルーガさん以外の人間なんてどうでもいいんだ! この気持ちが根底にあるので、あまり苦に感じずに済んだ。


昼の部が終わり、振り返ってみると、まずまずの売上だった。騒動が起こる以前の時と比べると7割程度の売上だ。慣れていない新体制でこの売上なら上出来だ。客層も女性や年配の方が多くなり、狙い通りだ。ハーフサイズの注文が予想以上に出るので、手間がかかってしまうが、慣れれば、もっと効率的に提供出来るはずなので、今以上の売上が出せる。

それに満足度が高いと思うので、リピーターも増えていき、安定した売上も見込める!……と思う。


実際は臨時休業明けで物珍しさからくる、一過性の売上で明日から閑古鳥が鳴くかもしれない。今回のアイデアだって他店が真似をすれば、ウチに寄ってはくれないかもしれない。今回のアイデアも飽きてしまえば、すぐに離れていくかもしれない。

だけど、愚直に報われると信じて頑張るしかない。


そういえば、疑問に思った点があったので、休憩中にルーガさんに尋ねてみた。(今日はお客さんが、いっぱい来ましたけどルーガさんが呼び込んだりしたのですか?)


ルーガ「いや、私は何もしてないよ。せいぜいご近所さんに世間話程度にこういうサービス始めたんだ、って言ったぐらいさ。まさか、こんなに効果があるとは思わなかったけどね。」

ルーガさんから笑みがこぼれる、どうやらこの調子なら経営を立て直せるようだ、本当によかった。しかし、ルーガさんの口コミだけでここまで増えたのか、それもすごいな。CM要らずだな。



夜の部になると若干、客の入りが悪くなったが、売上のノルマは昼にある程度達成していたので、危惧する程ではなかった。

こうして、無事リニューアル初日は成功に終わった。

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