第4−9話
開店し、美味しそうな匂いが充満し始めると、匂いに釣られてか、チラホラとお客が入り出した。
皿洗い担当の僕はやる事がなかったので、調理方法や料理の盛り付け、器具の使い方等を教えてもらった。
ルーガさんもお爺さんの常連さんと世間話や僕の紹介をしたりと、和やかに作業していた。
だが、1時間程すると満席になり、ルーガさんから笑顔が消え、キリッとした顔つきになった。少しでも助けになればと思い、僕も慣れない手つきで教わったばかりの仕事を必死にこなした。途中、料理を落としたり、皿を割ったりもした。破れかぶれだが、昼時の営業を終える事が出来た。
表の看板を準備中にひっくり返すと、客がいなくなった店内で二人きりになった。
ルーガ「休憩しよっか。」
ルーガさんがお茶を淹れようとしたので手伝いつつ、やり方を覚えようとした。次回からは僕が出来る様にならないと…。「はいよ。」と手渡されたお茶は、体に染みる温かさだった。
椅子に座りながら、営業中では教えられなかった細かい点や新しい作業内容など、色々と教わった。
3、40分程休憩すると僕達のまかない料理兼、夜の営業の仕込みの為、動き出した。まかないには、雑穀米の肉丼を作ってもらった。肉を焼いた時に出た脂で作ったタレが米と合い、とても美味しかった。
ルーガ「美味いかい?」
僕は大きく頷くと…
ルーガ「…それなら良いけど、てっきり失敗でもしたのかと思ったよ。」
ルーガさんの顔が不安そうになっている。
考え事が顔に出てしまったか、(ごめんなさい。)心の中でルーガさんに謝る。
違うんです。考えてしまうんだ、僕が美味しい物を食べていいのか? 僕が幸せになろうとしていいのか? 僕は見捨てたというのに。僕は優しくされてもいいのか? と…。
ダメだな! 今すべきは考える事じゃない。これ以上、誰かを不幸にする訳にはいかない!
そう決意した僕は、勢いよく丼を掻き込み笑顔を見せた。その様子を見たルーガさんは、一瞬ポカンとしていたが、すぐに「フフッ。」と言って笑ってくれた。
不意打ちの笑顔に心臓の鼓動が激しくなったが、動揺を悟られない様に平然と振る舞った。
二人揃って食べ終えると、仕込みを始めつつ夜の営業を開始した。
夜になると客層が変わり、飲んで来ている者が多く、荒っぽい男ばかりが来た。声が大きい人ばかりで、店は昼間とは違う騒がしさとなった。
男客「よー、ルーガ! 相変わらず良いチチ持ってるな! たまには揉ませろよ!」
酔った男性客がルーガさんに絡んできた。
ルーガ「あたしのは高いよ~。揉みたきゃジャンジャン注文しな!」
男客「ったく、いっつもこれだ。串焼き追加な!」
ルーガ「あいよ! ありがとさん。」
僕は、セクハラを軽くあしらっているルーガさんを横目で追いつつも、目の前の仕事を必死でこなした。
そして夜が更けていき、客足が途絶えると本日の営業が終了した。
営業を終えると、ルーガさんは閉店作業をしながら僕達の夕食を作っていく。作るといっても、昼時に多めに仕込んでしまった野菜や肉等、翌日に持ち越せない食材を使った料理なので、必然的にお店のメニュー内容とほぼ同じ物が出来上がる。
熱いうちに食べよう。との事なので一旦食事休憩となった。
ルーガ「明日は医者にでも行ってくるかい?」
野菜炒めを食べながらルーガさんが聞いてきた。医者といっても、あのぐらいのレベルだから行ったところで無意味だろう。と考えた僕は首を横に振った。
ルーガ「そうかい。もし、行きたくなったらいつでも行って来なよ。」
僕はコクン、と頷くと、続けてルーガさんは明日の仕入れ量や細かい段取り等を話し始めた。キリがいいとこまで説明されると、食べ終わったので、また作業を再開した。
作業を終えた僕達はリビングに戻ると、各々、風呂に入り1杯だけ晩酌に付き合うと眠る事にした。
ルーガ「おやすみ。」
僕も口パクで(おやすみなさい。)と返し、床についた。
翌朝、少し早めに起きれた僕は顔だけ洗うと、ルーガさんと共に朝ご飯を作り、食べ終えると、確認の為に買い出しと仕込みの内容が書かれたメモが渡された。
今回は二手に別れて買い出しをする事になり、僕は肉屋に、サイさんの八百屋にはルーガさんが行く事になった。
ルーガ「少し遅れるかもしれないから、先に帰ったら仕込みを始めといてくれ。」
ルーガさんの言葉に僕は頷くと、先に店を出た。
肉屋に着くと、店主に買い出しのメモを見せて欲しい旨のジェスチャーをすると、伝わった様で無事に買える事が出来た。
頼まれた物は買い終えたので、店に戻った。裏口から入ると、鍵はかかっていなかったがルーガさんがいなかった。
とりあえず、指示されていた仕込みをしながら待っているとルーガさんが帰ってきた。
ルーガ「ただいま〜。」
僕は会釈で応対する。
ルーガ「おお、ちゃんとやってるね。あ! これはもう少しだけ大きめに切っといて。」
ルーガさんは帰ってくるなり、僕の仕事ぶりを確認すると、慌ただしくエプロンを纏って作業に取り掛かった。大体の仕込みが終わると、昼時になったので営業を開始した。
今回は皿を割ったり等、特にミスする事も無く、スムーズに動けた。お客がはけはじめ、昼の営業時間を終えようとしてると、神父のジオディさんが来店した。
ルーガ「いらっしゃいませ、神父様が来るなんて珍しいですね。」
ジオディ「うむ、近くに寄ったのでな。おお、アキラ! どうじゃ、元気だったか?」
僕を見ても驚いた様子では無いので、事前に知っていたのだろう。
ルーガ「それが…、話す事が出来なくなったんです。」
ジオディ「なんと! 大丈夫か?」
僕は軽く笑顔を作り、頷いてみせる。
それと、バツが悪いが今更ながら、以前庇ってもらった時のお礼で頭を深々と下げる。
ジオディ「何じゃ、あの時の事か? 気にするでない。それに、……お主の方が辛かったじゃろうに。」
この言葉に皆が目を伏せる。事件を思い出し、各々が口を噤む。一瞬、沈黙が流れたが、すぐにルーガさんが話し出す。
ルーガ「そうだ! 今アキラは家に住んでるんですよ。」
ジオディ「おお、そうなのか。」
その後も二人は近況や僕の事等を話した。僕は二人の横で、頷く相づちぐらいしか出来なかったが。
そして、ジオディさんが食べ終わり、席を立つとルーガさんに向かい、
ジオディ「ルーガ。アキラの事、くれぐれも頼んだぞ。」
ルーガ「はい、任せてください。」
今度は僕の方に向くと、
ジオディ「アキラ。これからも辛い事があるかもしれぬが、決して希望は捨ててはいかんぞ。」
ジオディ「ではの、また来るぞ。」
そう言い残し、帰られた。あの人は僕の事を聞きつけ心配し、来てくれたのだ。なのに、僕は何て不義理な事をしてしまったんだ。
嬉しい反面、申し訳無い気持ちで憂鬱になる。
そして休憩が終わり、夜の営業時間となったので働き始めた。仕事中、僕の今までの行動を振り返った。どれだけの人に不快な思いをさせ、迷惑を掛けてきたか。
軽率な行いを反省したよ。心が痛んでから気付くなんて、僕はいつもそうだ。…これからもそうなのかな。
営業が終わり、晩ごはんは注文ミスで余った料理が今日は三品あったので、温め直すと二人で取り分けて食べた。閉店作業も終わるとルーガさんは「出かけてくる。」と言い、夜の町に消えた。
一人での留守番は少し寂しかったが、慣れない作業で疲れていたので早めに眠りについた。
明日も頑張ろう…。




