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それでも、生きていた  作者: sinnemina
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3話

構想は決まった、あとは準備と実行だな。


ふむ、場所がアパートだからな。血だらけにすると後始末が大変になってしまうから片付けやすい所でするか。となると風呂場でやれば血も固まらないし掃除もしやすいだろう。




次はお金の準備だ。予め下ろしておいた150万円を封筒に入れて、遺言書代わりのメモを横に添えてテーブルの上に置いた。これで大家さんが発見した時に事情をわかってもらえるだろう。150万円でクリーニング代足りるといいな、事故物件扱いにもなるだろうし、まあ無責任だが知ったことでは無いんだけどさ。




次は刃物か。 家にある包丁でいいかな、いや少し錆びてきてるな。さすがに後で買いに行こうか、それにこいつは長年僕の胃袋を支えてくれた相棒だし、最後くらい休ませてあげるか、父もこの包丁で作った料理を食べていたし思い出の品ってやつだ。僕の血で汚す訳にもいかないしな。ホームセンターに買いに行こうか。




こうして僕は最後のお出かけをした。


僕は玄関のドアを開け、買い物に出かけた。


ホームセンターの道程を歩いていくと休日の昼下りだからか、色々な人とすれ違った。




最初に横を通った眼鏡をかけた中年の細見の男性は、この季節に薄手の長いTシャツと短パンでランニングをしていて。


次に歩いてきた大学生らしいカップルは片手にはスーパーの袋を、もう片方の手にはお互いの手が握られていた、恋人繋ぎだった。


道中の公園では4~5才ぐらいの男の子と20代ぐらいの母親らしき人が雪をかけ合って戯れていた。




ふと疑問に思った。


何で皆は幸せそうなんだろう? 何であんなに笑顔なんだろう? 何で幸せになれたんだろう? そして、どうして僕はこんなに苦しいんだろう? どうして幸せになれないんだろう? 何が悪かったんだろう? どうしてこうなったんだろう? どうして僕だけなんだろう? お前らがいるせいで苦しい、お前らを見てるだけで悔しい、妬ましい、死ね。 いや、僕が死ぬんだった。




そんな事を考えながらすれ違う人達を凝視していた。傍から見れば挙動不審の通報案件だったか。まあ、そんな事は気にせず僕は無事にホームセンターに辿り着き4000円程の出刃包丁とやらを買い、帰途した。




途中、先程の公園ではもう一組の家族が合流したらしく同年代の子供達が笑いながら追いかけっこをしていた。


(あんなに小さい子でも友達がいるのに僕ときたら…。)道中少し落ち込みながらアパートに帰宅した。




まあ、こんな世界はもう関係無い! もうどうでもいいや! 買い物に行った事で最後の踏ん切りもついた、結果オーライだ。うん、終わり良ければ全て良しだ! 




よし、死ぬか!




もうこんな人生に未練なんて無い。 


帰宅して最初にしたことは携帯(父と会社の人しか登録してないが)を解約した。電気などライフラインも解約するか考えたがまだ用事があるので止めておこう。


そして、玄関の鍵を開けておき、目の前に風呂場で自殺した旨のメモを置いておく。これで迅速に発見してもらえるだろう。




発見者の候補としては、まずは会社の人間だ。明日は月曜日なので無断欠勤したら、もしかしたら上司や同僚が訪ねてくるかもしれない。だが、あまり良好な関係では無かったから放って置かれる可能性もある。




二人目の候補は大家さんだ。近々、家賃の引き落とし日となるが口座のお金は全て引き出したため支払いが滞る。それによって大家さんか代理人が来るだろう。




次にすることは部屋の整理と身だしなみか。部屋にはテーブルとテレビ等の家電製品と服と布団ぐらいしか無いからやらなくてもいいか。食べ物もすぐに腐る物は無いし。


身だしなみは飲食を一切摂取せず、髭を剃って、爪を切り、洗顔。後は、トイレを済ませた。服のコーディネートは最初は血で汚れるからTシャツとジーンズだけにしようと考えたが、室内とはいえ寒かったのでフリースも着た。




最後に浴槽にお湯を張り、先程買って来た、出刃包丁をパッケージから開けた。




これで全ての準備が終わった。


浴槽にお湯が溜まった。白い湯気が出て来たので換気扇を回しておく。 浴室に足を踏み入れる、冷えた白いタイルが裸足に染みる。やはり、靴下は履いておくべきだったか? いや、靴下を着用して風呂場に入るのも違和感があるし、ここまで来たら我慢しよう。どうせ、すぐ終わる。




その場でしゃがみ込み、腕捲くりをした。僕の細っ白い貧相な腕が出てきた。


そして瞳を閉じた。リストカットのイメージトレーニングだ。こういうのは思い切りやらないと何度も痛い思いをしないとだからな、一発で決めるぞ。




よし、やるか! 右手に包丁の重さがズシッと伝わる。その包丁の切っ先を左手の手首に力強く当てた…………つもりだった。


実際は5mmぐらいの赤黒い玉がプックリと浮かぶ程度の出血量だ。傷口の部分がピリピリッと痒くなってきた。




やはり、ビビッてしまったか。見ながら実行したのがいけなかったのかな? 次は目を閉じてするか。あと包丁は当てるのではなくて、擦るようにしてみるか。




目を閉じた。換気扇の音と蛇口から落ちる水滴の音が聞こえる、その中で自分の呼吸が荒くなっているのがわかる。




先程より少し上にズラした位置に包丁を左手に当てた。そして右手を素早くスライドさせた。 勢い余って浴室の壁に右手を打ってしまい、痣が出来た。だが、おかげで左手から黒いドロッとした血が出てきた。




痛い、痛っ、てゆうよりもうこれは熱い! 火傷したような感覚だ、空気に晒してるだけで顔がお爺さんの様にシワくちゃに歪む。




ああ、傷口をお湯に入れないとだったな。でも絶対に痛いよな、これ以上に痛いとか考えられないよ。 でも入れないとなんだよな。




ゆっくりとお湯に入れようとしたが湯気が傷口に染みて 「うっ…」と小さく声を漏らした。そのまま我慢して浴槽に腕を浸していく。肘の辺りまで入れ終わったら少し痛みも落ち着いてきた。




湯船にうっすらと赤い液体が見え始めてきた。お湯を足そうかと思い蛇口をひねった、そしたら出てきたお湯の水流で傷口の痛みが増したので慌ててお湯を止めた。


手首を切ってから三分は経っただろうか、この頃には物を考える余裕が出てきた。




何だかこの態勢、意外と辛いな。 暇潰しに何か持っとくべきだったか。 ジーンズが湿ってきて少し寒いな。 この人生は何も無かったな。 僕が死んで誰か泣いてくれる人いるかな? ああ、そうだ最後はちゃんと目を瞑って死なないとだったな。 痛いな。 まあ、これで辛いことはもう無いんだよな。 早く死なないかな。 振り返る思い出も無いなあ。 ヤバい、意識が虚ろだな。 死の瞬間を確かめておきたかったんだがな。 誰が最初に見つけるんだろう? ああ僕はあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

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