第8話 生きるために魔法を使おう
左手を確認してみたけど、手を開いたり閉じたりは問題なくできている。多少違和感を覚えるけど、もう痛みは感じなかった。
手の感覚を確かめた後、柚月さんの生み出した水で顔を洗い喉の渇きを潤す。
「そういえば魔法ってどれくらい連続で使えるの?」
「えっと、うーん……、限界まで使ったことないからわからないわね」
ふとした疑問だったけど柚月さんもわからないようだ。そんなもんなのかなと思いつつ、いざ柚月さんが魔法を使えなくなったら大変だ。
「俺も使えたほうがいいんだろうけど」
そういえば柚月さんが魔法を使うときって、杖の先端に何かが集まってるよな。あれがいわゆる魔力とか魔素っていうやつなのかな。
「魔法ってどうやって使うんだろ?」
なんとなしに呟いた俺の言葉に、訓練で聞いた話を柚月さんがしてくれた。
体内にある魔力を動かして発動させたい位置へ移動して、起こる現象のイメージを頭に強く浮かべてコマンドワードを唱えると発動するらしい。
魔法には各種難易度の基準があるらしく、それぞれ初級、下級、中級、上級と、全部で9段階あるとのこと。初級魔法は殺傷力のほぼない効果しか出ないみたいだ。
「ふーん……」
杖の先端に集まってたやつが、俺の体の中にもあるってことか。……あ、これかな?
「あ、ちょっとだけ杖を貸してもらっていい?」
一声かけて杖を借りると、魔力を杖の先端に集めて……。うーん、あ、なんかコツを掴めてきたかもしれない。
「……ウォーター?」
杖の先端にソフトボールくらいの水の玉ができるイメージを浮かべながら言葉にしてみる。と、一瞬だけ思った通りの形の水ができたと思うと、バシャリと地面へと水が零れ落ちた。
「……できちゃった」
「えっ、うそ!?」
驚いた表情の柚月さんを見て、思わず苦笑いを浮かべてしまう。最初は柚月さんも使えなかったって言ってたし、これも成長率マシマシスキルを選んだおかげだろうか。
「あはは」
「水本くん、すごい」
嫉妬心を見せずに純粋に驚いてくれる。
「コマンドワードって、何でもいいのかな?」
「どうだろう。魔法に合ったコマンドワードじゃないとダメとは言われなかったけど……、重要なのはイメージだって言うのは何回も聞いたよ」
なるほど。じゃあ火を出したり、光を発したりもイメージ次第なのかな。属性も地水火風に光と闇に無だっけか。それに治癒を加えた八種類が基本って言ってたけど他にもできそうな気がする。
とりあえず今すぐに必要そうなのはなんだろう……。初級じゃ殺傷力ないみたいだけど……。一撃が致命になるのに必死に治癒をがんばっても焼け石に水な気もするし。
「うーん」
「どうしたの?」
「いや、初級じゃダメージは与えられないだろうけど、牽制に使えそうな魔法だったらどんなんだろうなって思って」
「牽制……っていうのは、目くらましとか、そういうもの?」
小首をかしげながら呟く柚月さんにほっこりしつつも頷いて肯定する。
「うん。そういうやつ。カメラのフラッシュみたいな光とか、巨大な音を出すとか」
「へー。音は聞いたことないけど、フラッシュっていう光属性初級の魔法ならあるみたいよ」
「そうなんだ。……ちょっと試してみようかな」
水も苦労することなく出せたし、いけるんじゃないかな。
えーっと、カメラのフラッシュを想像してと。
杖を前方に向けて、魔力を練って移動させる。大型の外付けフラッシュが発光するイメージを持つ。
「行くよー」
「う、うん」
心の中でフラッシュと叫ぶと、目の前が一瞬真っ白になる。
「きゃあっ!」
「うわっ!」
思わず二人して悲鳴を上げる。すげー目がちかちかする。
「びっくりした……」
柚月さんが胸を押さえながら目をしばしばさせている。
「ごめん、俺もびっくりした。……でもコマンドワードは必要ないみたいだね」
「あ……、そうみたいね」
俺の言葉に、気が付かなかったと驚いている。コマンドワードは不要なのか。……ってことは杖も必要なのかな。そうとわかれば実験だ。「ありがとう」と言って杖を柚月さんに返すと、手のひらを前方に向けて魔力を動かしてみる。
手のひらから先になかなか出て行こうとしない。やっぱり杖は杖なりに役割があったってことか。でもなんか、できそうな気がするんだよなぁ。
「何やってるの?」
「あー、コマンドワードが必要なかったからさ、杖もいらないんじゃないかと思って試してるんだけどね」
「そ、そうなんだ」
魔力の移動に集中するも、あとちょっとのところがうまくいかない。
ぐぎゅるるる~~~。
もどかしい感覚に悶々としていると、盛大にお腹が鳴った。
「あははは!」
真面目な雰囲気をぶち壊す音に、柚月さんが爆笑している。俺も苦笑いが浮かぶけどこればっかりはしょうがない。
「お腹が空いてるとあんまり集中できないな」
昨日、森に転移してから水しか口にしていないのだ。これは早急になんとかしないといけない。
「そうね。……何か食べれそうなもの、探そっか」
「うん」
弛緩した空気を引き締めるように、俺たちは食糧確保のために森の中の探索を本格的に始めることにした。