第415話 孤児院の防衛
莉緒の提案を改めて考えてみた。どこかへ飛ばすとなれば考えられる候補はいくつかある。この大陸だとグローセンハング帝国の西側だろうか。ヒノマル支部がある最西端の街である。時間をかければ戻ってこられるので、最善と言うわけではない。
次に魔人族の世界だ。あっちはこことは直接行き来する方法は俺たちの次元魔法以外に知らないが、ダンジョンを通して並行世界の日本へと繋がっている。
日本へと行ってしまえば、大量に異世界の動画をアップしている俺たちに気づくのは時間の問題だろう。一番起こってほしくない最悪の状況である。
もう一つの選択肢としては東の島だろうか。ちなみにあっちに派遣したヒノマル職員によるとブラスヴェーク王国という名前らしい。
こちらも時間をかければこの大陸に戻ってこられる可能性はゼロではない。実際に大船団を率いてこの大陸に到達しているのだ。
この大陸の国と平和的に交易などが始まれば、一般人もこの大陸に来られる可能性も出てくるだろう。だがそんな雰囲気は感じられないので、かなり確率は低いと思うし相当時間もかかると思われる。
「というわけで第一候補は東の島かな」
「うーん……」
「何かダメなところでもあった?」
「あっちでもあいつらが勇者とか持てはやされて、第二次遠征とかしてこないかなって思って……」
「あー、そっちのパターンね」
国が召喚したならともかく、他所からやってきた人間が簡単に勇者になれるとも思えない。ましてや素行も悪いクラスメイトである。とはいえ万が一はあるだろう。
しかし対策はきちんと考えてある。
「せっかくヒノマルの出張所ができたんだから、暗躍してもらおうか」
ブラスヴェークにあるのは支部ではなく出張所である。土魔法で拡張はしたけど、実際の事務所は置いていない。しかし職員の派遣は思うがままである。
「どういうこと?」
「あいつらの悪い噂を流したり、いろいろできることはあると思う」
「ふふ、そういうことね」
そうと決まればさっそく実行だ。一番いいのは、ブラスヴェークをあいつらが引っ掻き回してくれることだけど、案外何もしなくてもやってくれそうな気もする。
「というわけで、東の島へ行ってらっしゃい」
「ばいばーい」
こうしてクラスメイトは俺たちの顔を見ることもなく、東の島流しの刑に処されるのであった。今こちらに向かっている大船団には影響は出せないだろうが、せいぜいブラスヴェーク王国を引っ掻き回してくるといい。
「どう?」
クラスメイトの件がひとまず片付いたので、イヴァンとフォニアがいるアイソレージュの孤児院へとやってきた。
「今のところ平和そのものだな」
「みたいねぇ」
孤児たちとフォニアが元気に庭を走り回っている様子を見ながら、莉緒がしみじみと呟く。
改めて見回してみると、そこそこ広い庭で二十人くらいの子どもが遊び回っている。が、小さい子どもたちしか見当たらない。イヴァンいわく、大きい子どもたちは街に働きに出ているらしい。
俺たちを出迎えてくれた院長のケイティさんに、ヒノマルからの援助では足りないのか聞いてみたがそういうことではないとのこと。子どもたちの自立を促すためにも必要なことのようだ。しかし孤児院を守りに来たはいいが大きい子は仕事に出てるのか……。大船団はまだ来ないだろうが、先に上陸している関西弁を喋るブラスヴェーク人がいるのは間違いないのだ。
「さすがに外に出てる子どもに付いてったら、ここの守りがいなくなるからなぁ」
それに全員が同じ職場で働いているということもないだろう。
「仕事を控えてもらうことは?」
「控えたら戻れなくなるんだと」
いなくなった代わりを雇うことになるから、戻る場所がなくなるそうだ。
「そりゃしょうがないか」
周囲の気配を探りつつものんびりと待っていると、働きに出ていた子どもたちも少しずつ帰ってくる。
「いつもありがとうございます」
庭で夕飯にする料理を作っていると、小人族で院長のケイティさんも匂いに釣られたのかまたもや庭に出てきた。
「いえいえ、たまには食材を放流しないと減らないですから」
気づいた時に大量買いするので増える一方なのだ。ここで振舞ったとしても焼け石に水だろうが、一度大きな商会に卸してもいいかもしれない。今度フルールさんのところに巨大魚持って行こう。百メートル級の魚って、よく考えれば地竜よりでかいよね。
「じゃあそろそろご飯にしましょうか」
莉緒が声を掛けると子どもたちから歓声が上がる。みんな心待ちにしていたようだ。そろそろ日も傾いてきたしお腹も減ってきた。
庭にテーブルや食器などを出して準備をしていた時、一人の子どもが周囲をキョロキョロしながらがケイティさんに駆け寄っていく。
「ねぇ、アルとレムがまだ戻ってきてないよ?」
「えっ?」
知らせを聞いたケイティさんが、他の子どもたちに孤児院の敷地内で二人を探すように指示を出している。
「ボクも探してくる!」
フォニアが居ても立っても居られなくなったのか宣言すると、他の子どもたちと一緒に探しに走る。
「普通ならもう戻ってるんですか?」
「ええ、とっくに帰ってるはずなの。食いしん坊の二人だから、いつも早く帰ってくるはずなのに……」
なんとなく嫌な予感がしたのでイヴァンへと目配せすると、大きく頷きが返ってくる。
「仕事場を出たか確認してくる」
「よし、ニルも行ってこい」
「わふっ!」
「ありがとうございます。助かります」
ケイティに場所を聞いたイヴァンとニルがすぐさま外へと飛び出していく。外出禁止令などは出ていないが、漁は禁止になっている。子どものニナが襲われたこともあって、夜に孤児だけで外に出るのは禁止にしているのだ。
これで仕事場に二人がまだいればいいが、いなかった場合に二人が行くとしたらどこだろうか。