第414話 飛んで火にいるなんとやら
クラスメイト七名が玄関ホールの中へと入ってくる。そこに待ち構えるのは大人しい性格をしたダークエルフのシェルファリーナだ。
出迎えるように何かを語りかけているようであるが、音声はあえて聞こえないようにしている。きっとあいつらの言葉を聞いたところでイラっとする未来しか見えないからだ。
「一人で大丈夫かしら」
莉緒が迎賓館の映像を見ながら呟くが、言葉ほどに心配した様子は感じられない。いきなり個別行動をとられるとシェルファリーナ一人だと大変だろうが、どうやら七人は固まって対話をしているようで問題なさそうだ。
「大丈夫そうだな」
頷く莉緒と一緒にしばらく様子を見ていると、シェルファリーナがイラっとする様子を見せ、クラスメイトたちの声が徐々に荒くなっているように見えた。
シェルファリーナがそろそろ頃合いだと判断したのか、ポケットからスマホのようなものを取り出して操作し始める。
映し出された映像もクラスメイト達に寄せてズームし、スマホのようなものを見て驚いて言葉を失った様子が映し出されるが、突如として床にできた穴に吸い込まれるようにして落ちていった。
「あっはっはっは!」
「綺麗に落ちたわねぇ」
俺ほどではないけど莉緒も笑顔を浮かべている。アホ面を晒したクラスメイトが落ちていく様子がめちゃくちゃ爽快だった。
クラスメイト達が迎賓館を攻略する様子を、俺たちは家のリビングからのんびりと鑑賞している。あいつらをどうやって盛大に迎撃すればいいのかと考えた結果、迎賓館をまるごとダンジョン化して罠を仕掛けることにしたのだ。
ダンジョン内の様子が見られるディスプレイがリビングに七台設置されており、奴らがたとえ一人ずつばらばらになっても映像を見られるようになっている。そこそこDP消費はあったがこれは必要な経費だろう。
ただ設置した罠の発動は人に任せたほうがいい場合もあるので、シェルファリーナとレヴァンティスカの二人は現地でスマホ型ダンジョン端末で操作をしているのだ。
もちろんヒノマル職員も別室で奴らをモニターしており、随時罠の発動を行ってもらっている。
まるで日本によくあったバラエティ番組を見ているようで、久々な感覚もあってめちゃくちゃ面白い。
落とし穴はもちろん、壁からいきなり杭が飛び出て吹き飛ばされたり、登っていた階段が急にスロープに変形して滑り落ちたり。殺傷力はある程度抑えているが、そろそろクラスメイトも慣れてきたのか、突破する罠も増えてきている。
もちろん人が罠を発動させているので、その場で動かずにじっくりと考える時間など与えられる隙も無く罠が襲ってくるのだ。
しばらくは見ていて飽きなさそうだ。
「イヴァンにも見せてやりたかったけどしょうがないな」
「あはは、ツッコミながら笑ってそうよね」
イヴァンとフォニアの二人は今は孤児院の守りを固めているところだ。録画もしているし、あとで見せてやろう。編集やアップロードの作業はエルの他にもできる人が増えてきたし、楽になったもんだ。
「シュウ様、侵入者たちの要求を要約したものが届きましたが、お聞きになられますか?」
一息ついたところで、隣でノートパソコンを開いていたメサリアさんからクラスメイト達の情報が入ってくる。
「うーん……、一応聞いておこうかな」
理解できるかどうかはわからんけど。
「畏まりました。一言で表してしまえば、『自分たちをニホンに帰せ』でした」
「「は?」」
うん。やっぱり意味わからんかった。聞かなくてよかったかもしれない。
日本にある食べ物とか物をよこせと言われるのはまだわかる。ペットボトルを見られてるわけだし。だけどそこからどうやって日本に帰せになるのか。
まるで俺たちがお前らをこの異世界に連れてきたみたいに聞こえるし。
「他には――」
「あ、やっぱりもういいです」
「畏まりました」
俺の一言を予想していたかのように話を終わらせるメサリアさん。
実際に日本っぽいところに連れて行くことは可能だが、あっちの世界に迷惑をかけるわけにもいかない。知っている街は存在しないが、地形だけはそっくりだから召喚される前に住んでいた地図上の場所へ行くことは可能なのだ。
「それとアイソレージュの街のほうですが、とうとう住民たちにも噂が広まっているようです」
「そうなのか」
まだ港から見える距離には来ていないと聞いているけど、どこかから漏れたのかな。
「いえ、そうではなく、領主から街の住民へ通達があったようです」
「そっちね」
「はい。沖のほうへ漁に出ることも禁止になっており、早くも影響が出ています」
「そりゃそうか……」
よくわからん大型船が近づいてきているのを知って、そのままというわけもないか。最悪を考えて住民の避難誘導とかも必要だろうし。
「それよりも、侵入者たちは結局どうされるのでしょうか」
その質問はもちろん、侵入者自身がこの先どうしたいと思っているかではなく、俺がクラスメイトをどうしたいかということだろう。
「それなんだよなぁ……」
今後一切関わってこないのであればどうでもいいと思っていたが、実際にこうやって近づいてきた今では非常に面倒な存在だと思っている。目の前でいろいろ仕掛けた罠に嵌っている光景を見て若干スッキリはしたけど、それはそれだ。
今も一部の人間が激しく叫んでるけど、俺のことぶっ殺すとか言ってそう。
「もういっそのこと、魔人族の世界とかに送っちゃえばいいじゃない」
いまいちクラスメイトに手を下すという判断が付かなかった俺に、ニコニコとした笑顔で莉緒が言いきった。
ふむ。案外ありかもしれない。