第403話 忍び寄る厄介ごと
半分倒壊した家は二日ほどかけて魔改造した。
土魔法で地盤を補強し、崖方向へと地面を伸ばして敷地を勝手に増やした。海を望める景色はよかったので、テラスを作って眺望は変わらないようにしている。むしろ左右まで見渡せるようになったのでパノラマ感が増している。
元は四階の建物だったが、上方向には拡張していない。玄関から家を見れば、奥が拡張されてるなんて気が付かないはずだ。
地面の下も掘り進めて地下室を作り、崖下まで掘って海まで出られるようになっている。波も穏やかだが、岸壁が広がっていて砂浜は存在しない。水深もそこそこあるようで、のんびり釣りをするにはいいかもしれない。
地下二階の部屋には、次元の穴を使った扉を設置した。これで家の中はWiFiが使えるようになったし、ヒノマル職員も自由に出入りが可能になった。今では五十人近くのメンバーが街へと繰り出し、情報と資金集めに奔走していることだろう。
「ただいまー」
「わふぅ」
夕方になって、外を探検していたフォニアとニルが帰ってきた。
「おかえり。あら、何か美味しそうなもの食べてるわね」
「うん! 派手な髪型したおばさんに、飴もらったの」
舌を出して小さくなった飴を見せるフォニア。さすが食料が豊富な国だけはあるんだろうか。砂糖もそれなりの量が出回っているようである。
「あめちゃんあげるって言ってたけど、あめちゃんって何?」
「あめちゃん?」
「フォニアがもらった飴のことじゃねぇの?」
一緒になって首をひねっていると、イヴァンが予想を口にする。
「あぁ、確かにそうかも。というかここでもそうなのか……?」
元の世界のとある地方のおばちゃんの生態を思い出したけど、まさかそんなところまで似てるとかあるんだろうか。
「気にしてもしょうがないんじゃない?」
「そうだな……」
うむ。今後似てるところがあったとしても深く考えないようにしよう。調べても出てこないだろうし、悩むだけ無駄だ。
一応拠点もできたし、あとはヒノマルメンバーに任せようかと思ったところで、スマホに着信があった。どうやらメサリアさんかららしい。
「はいもしもし」
『メサリアです。今お時間よろしいですか?』
「うん。大丈夫」
『お知らせしたいことが二件あります。いい知らせと悪い知らせ、どちらからにしますか?』
「えええ?」
後から聞いたいい知らせで憂鬱気分が吹き飛ばせるのか、それとも悪い知らせのせいでいい知らせが楽しめなくなるのか、内容にもよりそうだ。しかし憂鬱気分を吹き飛ばせなかったらデメリットしかないな。
「じゃあいい知らせから」
『畏まりました。領内に放った蜘蛛TYPEですが、どうやら新たにダンジョンと温泉を発見したようです』
「おお! 温泉!」
ダンジョンも気になるけどまずは温泉だ。
『はい。ですので整備する人員と管理を任せる人員の確保に動いています』
「任せる」
また奴隷が増えるだろうが別に構わない。
まだ資金に余裕はあるだろうけど、そろそろヒノマルとしての収入も考えないといけないだろうか。そのあたり完全に何も考えてなかったけどどうなってるんだろうか。
『シュウ様のポケットマネーで賄われているので、組織の運営としては今のところ問題ございませんが……』
「なるほど」
メサリアさんに聞いたところによれば、俺たち個人の資金次第とのこと。個人的には最近大きく稼いでないからきっと赤字だな。ちょっと気を引き締めたほうがいいかもしれない。
あ、そうだ。
「日本にあるもので売れそうなやつ、いくつかアイデアを拝借して商業ギルドに登録しておいて」
『畏まりました』
自分で発明したものじゃないけど、そもそも世界が違うんだから問題ないよね。
「名義人は適当にでっち上げておいて」
たまに日本向けに動画配信をしているので、念には念を入れておこう。こうして出回った商品なんてそうそう映すことこともないから大丈夫だとは思うけど。というかあっちにもあるかと思われるくらいで、同じ日本人――でもないけど――が広めたなんてバレないだろう。
「悪い顔になってるわよ、柊」
隣で莉緒が何か言ってるけど気にしない。呆れた顔だけど莉緒自身も悪いことだとは思っていないようだ。
もし何か言われたらその時考えよう。
「それじゃ、悪いほうの話も聞こうか」
『はい。シュウ様のクラスメイト六名ですが、どうやらそこにネグロ・タクトが合流した模様です』
「そうなんだ」
やっぱり商都コメッツに送っていたようである。でもそれくらいなら別に悪い話と言うわけではない気がする。まだ何かあるんだろうか。
『七名になったクラスメイトですが……、どうやらまっすぐ東に向かって移動しているようで、ここフェアデヘルデ王国へと入国したという情報が入りました』
「え?」
マジで? なんで?
「どうしたの?」
呆けた顔をしていたからか、莉緒が正面に回って見つめてきた。
我に返ってメサリアさんから告げられた言葉を伝えると、莉緒も顔を顰めている。
『どうやらネグロ・タクトが、シュウ様とリオ様をアイソレージュで見たと、六人に吹聴しているようです』
「ええええぇぇぇぇ? それでアイツらがここを目指してるんじゃないかって?」
俺の言葉に莉緒も心底嫌そうな顔になっている。
『はい、そうです。いかがしますか?』
「……あー、どうしよう」
反射で追い返せと言いそうになったが、言葉を飲み込む。奴らだってそこそこ手ごわいし、ただ進路を妨害するだけというのも難しいだろう。なぜ邪魔をすると聞かれても答えたらますます向かってきそうだ。
「とりあえず迎撃準備だけしとくか」
『畏まりました』
もし絡んできたら今度こそ地の果てまで飛ばしてやる。




