第402話 拠点の入手
メサリアさんが選んだ十人の情報ギルド職員を送り込んだ後、俺たちも東の島へと向かった。資金がないと遊べないので、まずは手持ちのアイテム換金からだ。
「何を売るんだ?」
新しい街にひとしきり感動した後、イヴァンがふと尋ねてきた。
「何がいいかな?」
「希少金属とか宝石はもうヒノマルのメンバーが試してるわよね」
「かぶらないやつがいいか」
「日本で手に入るやつとか?」
「それだ」
イヴァンの言葉で思い出した。
売れそうな安物を一時期集めてみたことがあったっけ。お金に困ってるわけじゃないから、集めたっきり忘れてた。
「そういえばそんなのもあったわね」
「びぃだま綺麗だったね」
フォニアも思い出したのか、お気に入りのビー玉を思い出したようだ。千個単位で売ってたから大量のキラキラしたものにフォニアが目を輝かせていた覚えがある。
こっちの世界じゃモノは全部手作りだから、規格の揃った大量生産品とか、完全な球形をしたものとか作るのは難易度が高い。
「よし、じゃあビー玉を五個くらい売ってみるか」
「他の店でガラスの宝石も試してみましょう」
「ほほぅ、こりゃまた綺麗な球形でんな」
大通りにあった宝石店の店主にビー玉を見せたところ、それなりの食いつき具合だ。でっぷりと太った店主が、拡大鏡でじっくりとビー玉の隅から隅までを舐め回すように観察している。
「ええ。いくらぐらいで買い取ってもらえそうですかね」
周囲のショーケースには、百ジルから高くても一万ジルまでの宝石が並べられている。さすがに百ジルともなれば素人にもわかるくらいに輝きのない石だが、一万ジルともなれば、手持ちのガラスの宝石と見分けは付かない。
「そうでんなぁ……、見たところ素材はただのガラスのようやし、千ジルってとこかいな」
「なるほど。じゃあそれでいいですよ」
「毎度おおきに」
特に交渉することもなく決めると、ビー玉五個が五千ジルへと替わる。
「へぇ、これが千ジル硬貨か」
店を出るとイヴァンが物珍し気にお金を眺めている。銀色の硬貨は、見た目通り鑑定すると銀が含まれていた。他の硬貨も混ざるようにしてもらったが、一ジルが鉄でできた銭貨、その十倍ごとに銅貨、大銅貨、銀貨となるようだ。
大陸の通貨であるフロンとそう変わりはないようだが、銅や銀の含有量はジルのほうが少ないみたいだ。
「うんまぁ」
さっそくお金が手に入ったのでタコ焼きを買ってみんなでつつく。追いマヨネーズをすればさらに美味さ倍増だ。
「安くて美味いし最高だな」
食べ歩きをしつつも次の宝石店ではガラスの宝石を売り払う。二万ジルで四つ売れたので、次の店では調子に乗って通販サイトで三千五百円で売っていた安物の切子グラスを出したら、二十五万ジルで売れた。
「今後ともよろしゅうに」
お互いがとてもいい笑顔で商談成立したが、たぶん向こうも安く買い叩けたと思ってるんだろう。もっとふっかけることもできただろうが、俺たちの目的はほぼ買い食いである。資金作りにじっくり時間をかけるつもりはない。
そして俺たちのスマホにはメサリアさんから逐一情報が入ってくる。島に散らばったヒノマルメンバーが魔道具のスマホでメサリアさんに伝え、メサリアさんがそれをまとめてWiFi経由で俺たちのスマホにメッセージを送ってくるのだ。自分たちから離れて移動するメンバーまでは無理だが、自分で使うならルーター近くに次元の穴を開けるだけで繋がるので便利だ。
買い食いの資金は十分貯まったのでしばらく買い食いを続けていると、さらに情報が入ってきた。
「え? マジで?」
「どうしたの?」
思わず立ち止まってスマホを眺めていると、何とも急展開な情報が入っていた。
「この島の拠点となる空き家を手に入れたって」
「早ぇなオイ」
「どうやらオリハルコンのインゴットが高値で売れたらしい」
「ふーん。この島も小さいし、鉱山は少ないかもね」
「確かに」
莉緒の言葉に周囲を見回すが、一歩路地へと踏み入れれば狭い住宅がぎちぎちに建っている状態だ。空から見たときも思ったが、よほど空いている土地はないらしい。
「よく拠点が手に入ったな」
「そうねぇ。とりあえず行ってみましょうか」
「そうだな」
メサリアさんから入ってきた情報をもとに手に入れた空き家へと向かう。さすがに短時間で手に入れただけあって、賑わっている地域からは遠いようだ。
港に出てから一時間ほど歩き、緩やかな坂を上っていったところにその家はあった。
「お待ちしておりました、グランドマスター」
家の前にはどこかで見た覚えのある兎人族の男がいた。グランドマスターなんて呼ばれたし、間違いなくヒノマルメンバーだろう。
「ここ?」
「はい、そうです」
狭小住宅街を抜けてきた先にあった割にはそこそこの広さのありそうな玄関の広さだ。横幅は隣の家の三倍ほどだが、玄関が他の家より奥まったところにあって奥行きが狭いのかもしれない。
と思ったらその通りだった。玄関を開けて入ったホールもボロボロだったが、その奥の扉を開けて入った部屋は、途中から床がなくなっていて向こう側の壁がなかった。というか崖下の海へと一直線だった。
「いい眺めじゃん」
「へぇ、悪くないわね」
「海だーーー!」
「おいいいいぃぃぃ! がけ崩れに巻き込まれてぶっ壊れた家じゃねぇか!」
何か曰くのある家だろうなとは思っていたが、ここまでくるといっそのこと清々しい気持ちだった。