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第399話 思わぬ事件

 話好きの多い国なのか、情報はすぐに集まった。むしろ集めようとしなくても、莉緒と他愛のない話をしているだけで話しかけてくる。


「これも国民性か……」


「まぁ、時間かからなかったし、いいじゃない」


「そりゃそうだけど」


 とはいえちょっとしゃべりすぎて疲れた。


「でもま、ホントのところはわからないけどなぁ」


「そう?」


 聞いた感じだとこうだ。

 この島や海には食材が豊富で飢える国民がほぼおらず、人口が右肩上がりだという話だ。しかし島という環境だけに人が住める土地も少なく、いよいよもって島の外に居住地を求めて船を出したということらしい。

 ここら辺までは嘘ではないと思うが……。


「ほら、国の偉い人って、士気の下がる情報は国民には伝えないって昔からよく言われるじゃん」


「ああ、なるほど」


 戦時などは特にそうだ。自国が負けているなんて情報は国民には周知されない。現代でさえ、SNSで流れる大事件だって、テレビで放送されないことがいっぱいあったりする。それと同じようなことがこの国で起こっていないなど到底言えるものではなかった。


「軍を派遣したって話らしいし、侵略の可能性は十分ありそうだ」


「侵略ねぇ……」


 自分で言っといてなんだが、莉緒と同じくあんまり本気にはしていない。何人か街に紛れ込ませているみたいだが、今のところ仕掛けてくる様子もなし。

 じゃあたくさんいた大型船はなんなんだという話にもなるが、さすがに陸から遠い場所とはいえ、長時間とどまっていれば見つかる可能性は上がるだろう。さっさと行動に移さない理由はわからないが、それはおいおい調べていこう。


「これ以上の調査は偉い人に聞くしかないかな」


「それがいいかもね」


 島の中央を振り返るが、街並みが広がっているだけだ。ここからは見えないが、この国の城が島の中央にある山の手前にあるらしい。


「今日は帰るか」


「うん」


 時刻は夕暮れ時。太陽は見えなくなっており、空が赤くなっていた。

 何か所か人通りの少ない場所の座標を空間魔法で記憶しつつ、さらに人気(ひとけ)のない場所へと入っていく。結局最初に降り立った場所へと戻ってくると、裏にある小高い丘へと登っていく。


「思ったより見晴らしいいいな」


「綺麗ね」


 標高が少しだけ上がったからか、海に半分沈んでいる太陽が見えた。こちらに向かって赤い道しるべができていてすごく綺麗だ。

 莉緒のほうが綺麗だよと言おうと思ったけどやめておく。なんとなく恥ずかしかったし、実際に沈みゆく太陽は奇麗だった。


 ふと隣を見れば、髪を風になびかせ夕日に照らされた莉緒の横顔が見えた。


「ああ、確かに綺麗だな」


 思わず漏れた呟きに莉緒が振り返る。


「何か言った?」


 ふと視線に気が付いた莉緒が振り返ってふわりと微笑む。夕日に反射した黒髪が角度によっては金色に輝いている。


「いや、莉緒も綺麗だなって思って」


「え? ……ありがと」


 自然とこぼれた言葉に莉緒がキョトンとした表情になったあと、視線を逸らすようにして夕日へと顔を向けながらぼそりと漏らす。

 微妙に恥ずかしがっているように見える莉緒に、自然と頬が緩む。


「んじゃ帰ろうか」


 肩を抱き寄せて改めてそう口にすると、ポケットに入れていたスマホが着信を告げた。


「あら、珍しいわね」


 取り出してみると、自分で作ったほうのスマホだ。今はWiFi環境もないし、こっちでしか連絡はつかない。なんとなくいい雰囲気だったのにと思いながらも電話に出る。


「はいもしもし」


『おにいちゃん!』


 電話に出れば、切羽詰まった様子のフォニアの声が聞こえてきて、残念な気分が一気に吹き飛んだ。


「どうしたんだ?」


『おにいちゃん……! ニナが……、ニナが……!』


「ニナ?」


 ニナってなんだ? 人の名前か?


『おにいちゃああぁぁん、だずげて……。うわあああぁぁぁん!』


「おい! フォニア!? 何があったんだ!」


 いきなり泣き出したフォニアに声を荒げて話しかけるも、泣き声が返ってくるだけだ。普段見せないフォニアの様子に、胸が激しくざわついてくる。


「柊! 急いで戻りましょう」


 なんとか事情を聞き出そうとしていると、莉緒から声がかかった。振り返れば莉緒もスマホで誰かと連絡を取っていたようで、そこからは微かにイヴァンの声が聞こえてきた。


「確かに、そうだな……」


 多少冷静になりつつも周囲から見られていないことを確認すると、莉緒が次元の穴を開けたので中に飛び込む。飛び出した先は孤児院の敷地内の庭のようだ。

 もしかするとニナというのは孤児院の子どもなのかもしれない。フォニアが最近仲良くなって孤児院の子と遊んでいると言ってたはずだ。


「……シュウ! こっちだ!」


 孤児院の入り口近くでキョロキョロとしていたイヴァンが、俺たちを見つけて手招きしている。急いでイヴァンの後をついていくと、孤児院を出て大通りへ向かう路地へと入っていく。


「フォニア!」


 と、そこには倒れて動かない子どもの側で泣いているフォニアの姿があった。


「おにいちゃん!」


「その子か!?」


「うん……。ひっく……、おにいちゃん。ニナをたすけて……」


 駆け寄ってみればフォニアがしがみついてくる。倒れているのは十歳くらいの孤児院の女の子みたいだ。口元から血が垂れているようにみえるが、胸は上下しておりまだ息はある。


「まかせろ」


 何があったかわからないが、ひとまず全力で治療に取り掛かることにした。

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