第397話 島へ行ってみよう
どうやらサムエルたちは東の海の向こうにある島からやってきたらしかった。粉もん以外にも美味いものはたくさんあるらしく、それはそれで楽しみではある。
巨大魚が生息している海域があるが、運よく通り抜けることができたというのがサムエルの言である。ただ、乗ってきた船そのものは無事というわけにはいかず、ぎりぎりまで粘ったが陸が見えたあたりで船底に穴が開いて沈んだとのこと。なんとか小舟に荷物を乗せ換えてたどり着いたのが、アイソレージュ近くの陸地だったらしい。
「では調査は打ち切りますか?」
サムエルとの話を終えて家に帰った後、メサリアさんに情報共有をするとそんな言葉が返ってきた。
「うーん……」
とはいえちょっと迷っている。サムエルの言ったことが本当かどうか確信が持てないのもあるが――
「なんか引っかかるんだよなぁ」
「そうなの?」
「うん。何がどうなのかわかんないんだけど、なんとなく……」
「ではしばらく調査は続けましょうか」
「ああ、そうしてくれると助かる。まぁ、その引っ掛かりもすぐ解消すると思うけど」
東の海の向こうに陸地があるなんて話は、噂ではあるがここらでも広まっている。どちらかと言えばおとぎ話として。誰も見たことがないんだから、適当に話を盛ったって誰も証明できないのだ。そう考えれば思ったよりもあっさりと教えてくれたのも納得はできる。
しかしそれが本当のことだという保証はないので、メサリアさんには引き続き調査を続けてもらう意味はある。
「それってやっぱり」
莉緒がわかったような顔で見つめてくるけど、間違ってはいないと思う。
「いやだって気になるじゃん?」
「だよねぇ」
「あー、まさか、その東の島を探しに行くとか言わねぇよな?」
イヴァンが恐る恐る確認してくるけど、まさにその通りである。
にっこりとした笑顔を返すと、大きなため息をつかれてしまった。
「えー、ここで調査を続けるより確実に捗るわよ?」
「わかってるよ。シュウたちの常識外れっぷりに呆れてただけだ」
「よくわかってんじゃん」
莉緒の抗議に、空気を読んだらしいイヴァンは肩をすくめるだけだった。
「それじゃ行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
翌日の朝。
仲間たちに見送られながら、莉緒と二人で東の島を目指して空を駆けあがる。フォニアも行きたがったけど、どこにあるのかもわからない島を探し回るのは退屈だと諭してお留守番してもらっている。
現地に着いたらみんなを呼んで、観光がてら調査に出る予定だ。
『東にある島から来たって聞いただけだけど、どうやって探すの?』
空を飛びながら莉緒が念話で尋ねてくる。風の音が激しいので、念話のほうが安定するのだ。
『高高度から見下ろしたらすぐに見つかるんじゃないかな?』
幸いにしてぽつぽつと雲が浮かぶいい天気である。相当小さい島でない限りすぐに見つかるんじゃないかと楽観している。
『そういえばそうね』
莉緒にもそれが伝わったようで、二人してお気楽モードで東へと跳び続けている。
『あ』
そろそろ北側に見えている陸地が途切れ、巨大魚が生息する場所へと差し掛かったところでひとつ重要なことに気が付いた。
『どうしたの?』
『ほら、前にここらへんで見た大型船あったよな』
『そういえばたくさんいたわね……。あ、もしかして』
『気が付いた? もしかしてあれって、実は東の島からやってきたやつらなんじゃないかって』
そうだ。何か引っかかると思ってたことはこれだ。
『言われて見ればそうね』
『あんなにたくさんの大型船、アイソレージュの港に全部泊められないよな』
『山岳地帯の国は港も少ないだろうし、海軍の話も聞かないわね』
『さて、どうしようか』
『どうって?』
『そりゃ船から調べるか、島から調べるかだな』
『あー、そうねぇ……』
海上で静止しながら腕を組んで考え込むが、そう悩むことなく結論が出る。
『やっぱ島かな』
『あ、島にするんだ』
『船上で知らない奴に声かけられたら警戒するでしょ。島だったら外からの観光客のふりができるんじゃないかなって』
『なるほど。じゃあ島に決まりね』
こうして改めて、東に浮かぶ島を探しに移動を再開した。
『見つけた』
宣言通りに高高度にまで上昇して辺りを見回したところで、あっさりと目的地らしき島を発見した。フェアデヘルデ王国の最東端からだいたい千キロメートルといったところだろうか。
『ホント、あっさり見つかったわね』
『だなぁ』
目的地がわかればあとはすぐだ。一時間ほど空を行けば、眼下には島が視界いっぱいに広がっていた。そこかしこに大きな港があり、島の周囲を船が行き交っている。
中央には山が聳え立っており、山頂付近には雪が積もっているようで富士山を彷彿とさせる。西半分の海岸線はほとんど砂浜や港になっていて、中央の山のふもとを中心とした扇状に街が広がっている。所々にある小高い丘や森以外はすべて街になっていて、人口密度は高そうだ。
『西の端っこにある港が一番大きそうだな』
『そこに行ってみる?』
『ああ。どこかこっそり入り込める場所があればいいんだけど』
どこもかしこも街中になっていて、空から降りれば見つかってしまいそうだ。
『とりあえず人気のない場所を探しましょ』
こうして莉緒と二人で一番大きな港へと近づいていく。結局他人の目がなさそうな場所が見当たらなかったので、光学迷彩の魔法を駆使して島へと着陸するのであった。