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第395話 接触

 盗聴器を仕掛けて数日、特に怪しいところもなく日々は過ぎ去っていった。

 例の民家の住民は親子三人で暮らしているようで、旦那は海で漁をして、妻は飲食店で働いているようだ。一人いる息子はなんと冒険者をしているらしい。もちろんなりたてで、まだFランクということだ。


 いや、ひとつ進展があったとすれば、蜘蛛TYPEが別のダークエルフの集落を見つけたくらいか。もちろん気づかれないように迂回して調査を進めていますとも。


「シュウ様、虫TYPEを付けていた冒険者に動きがありました」


「おお?」


 そろそろ気が抜けてきた頃にメサリアさんから朗報がもたらされた。


「とはいえ申し訳ありません。常時監視していたわけではなく、昨日の情報になります」


「あら、そうなんだ」


 今は朝ごはんを食べ終わってまったりしているところだ。

 話を聞けば、例の冒険者たちはアイソレージュの街を出て北に二日ほど街道を進み、途中で街道から逸れたかと思うと、待ち伏せしていた人物と何かやり取りがあったとのことだった。


「ふむぅ」


 冒険者に付けている虫TYPEはあまり器用ではない。怪しい接触者がいたからといって、尾行対象をそちらに自動で変えるなどといったことはできないのだ。

 接触者も対策はしているのかフードをかぶっており、顔は判然としていない。街道にもそれなりに人通りがあるため、今から探しに向かっても恐らく見つからないだろう。


「なかなか用心深いわね」


「うーむむむむ……」


「はは、珍しく悩んでるなぁ」


 なかなか調査が捗らないことに思い悩んでいると、イヴァンが能天気な言葉を口にする。


「馬鹿正直に真正面からどこから来たのか聞けばいいんじゃねぇの?」


 一瞬ムッとしたが、続く言葉を受けて思考が途切れる。


「それだっ!」


 なんとなくその場面を想像してみたけど、特に違和感は感じられない。

 相手に隙がないかとか、何をこねくり回していたんだろうか。

 確かにそうだ。話す言葉がちょっと違うって理由だけで出身を聞く動機としては不自然じゃないはずだ。むしろ情報収集のためにも他の冒険者に声を掛けるなんてよくあることではなかろうか。


「お、おう」


 勢いよくイヴァンの案を採用したからか、中途半端な声が返ってきた。

 イヴァンがギルドで見かけた冒険者はともかくとして、拠点に現れた人物は虫TYPEが監視しているので現在地もばっちりだ。

 なんなら民家にいる三人家族の冒険者の息子に聞いてもいい。


「よし、じゃあ今日は標的が外に出るまでは待機かな」


 今のところそれぞれの冒険者の現在地は家や宿だ。さすがに一日中籠っているという可能性も低いので、今日中に接触はできるんではなかろうか。


「了解」


 とりあえずそれまではのんびりと家で過ごすことにした。




 さっそく動きがあったのは、三人家族の息子だ。息子が家を出たようで、虫TYPEから送られてくる映像をしばらく確認する。そのまま街の外へと出ると、近くの森で狩りでもするようだった。

 ちょうどいいとばかりに莉緒と二人で森へと先回りすると、奥のほうで屯っている魔物の群れを見つけたのでちょっと脅かして追い立ててみた。


 常時依頼の狩りか採集にでも来たんだろうが、実にいいタイミングだ。馬鹿正直に真正面から問いかけようと思っていたが、やっぱり会話のきっかけというものが欲しいと思うのだ。それを思えば、新人冒険者に絡むテンプレ冒険者なんかは、かなり高度なコミュニケーションスキルを持っていたんだなぁと感心する。


 え? だからって魔物をけしかけるのは酷いんじゃないかって?

 そんなもの、目的を考えれば関係はない。要はバレなきゃいいのだ。

 きっかけ、大事。


「う、うわああぁぁぁぁぁぁああ!」


 四つ目の狼の群れに囲まれた男が、体格のいい個体に襲い掛かられて悲鳴を上げている。構えていた剣を前足で弾き飛ばされ、大きな牙が男の頭をかみ砕こうとしたその瞬間に、ここだとばかりに割って入った。


 異空間ボックスから取り出した刀で狼の首を斬り飛ばすと、目に涙を浮かべて顔を歪める男を振り返る。


「大丈夫か?」


「は、はひ?」


「余計なお世話だったかな?」


 まともな返事を返せていない男にそう言葉をかけると、しばらく呆けたのちに激しく首を左右に振っている。


「じゃあ遠慮なく」


 本人の同意も取れたことなので、襲い掛かってくる狼たちを次々と屠っていく。群れが半分ほどになったところで敵わないと思ったのか、狼たちが回れ右をして逃げていく。しかしその先には莉緒が回り込んでいたようで、狼たちは遭えなく全滅となった。


「怪我はないか?」


「あ、はい……」


「こんなところにラプターファングなんて出てくるとか、災難だったな」


 鑑定した魔物の名前を告げるが、男の反応は鈍い。地元の人間じゃなければ詳しくないのかもしれない。俺もラプターファングなんて鑑定して初めて知ったし。ステータス的には、タイマンでイヴァンが余裕で勝てるくらいの強さの魔物だ。


「めっちゃ助かりましたわ……。おおきに、ありがとうございます」


「通りかかっただけだから、気にしなくていいわよ」


 奥から顔を出した莉緒が、俺の心の声を代弁してくれる。

 魔物をけしかけたのは俺なので、ホントに気にしなくていいんだぞ。


「それにしてもその言葉、ここらじゃあんまり聞かないな」


「あー、ここに来てからよう言われます。そんなに違いますか?」


「ああ、全然違うな。前はどこにいたんだ?」


 というわけで、不自然に思われるかもしれないが、さっそく本題に切り込んでみることにした。

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