第355話 料理と証拠
「美味ぇ!」
「なんだこれ!?」
「メタルドラゴンサーペント? 嘘だろ?」
「ドラゴンサーペント系って不味いんじゃなかったか!?」
解体場として使われている広場の片隅が、気が付けばプチ宴会場と化していた。俺たちが調理するメタルドラゴンサーペントが次々と会場へと運ばれていき、集まった冒険者たちの胃の中へと消えていく。
蛇肉の臭みはお酒や牛乳になどに漬け込み、さっと湯通しすることで思ったよりも簡単に取れた。そして柔らかくする方法といえば、圧力鍋を使うのが一番簡単だった。と言っても圧力鍋は持ち込んでいない。鍋型の空間遮断結界を使って調理したので、そう簡単に真似できるものでもない。
ミンチ肉にすることでも食べられる柔らかさになったが、これも魔法で作ったので人力でやるのは大変だと思う。だが荒いミンチ肉にすればコリコリとした食感も楽しめるのでこれも面白い。
「まさかホントに食べられるものにしてしまうとはネ……」
どこかで聞いた声がプチ宴会場から聞こえてくるが、評判は上々のようだ。
「ハンバーグ、まだ食べたいのにもう食べられない」
フォニアが空になったお皿を悲しそうに眺めている。おなかがぽっこりと膨らんでるのでもうお腹いっぱいなんだろう。
「俺ももう食えん」
イヴァンも腹をさすりながら満足そうだ。
ニルはまだがつがつと食べ続けているが、臭みさえ取れば柔らかくしなくても食べてくれるので楽だ。
「さすがSランク冒険者だな……」
「ああ、食えないものを食えるようにする」
「恐れ入ったぜ」
周囲にもSランク冒険者のすごさが伝わっているようである。なんか思ってたのと違う方面ではあるが。でも食えるものが増えるということは餓死者が減るということに繋がって、地域や国レベルの偉業と言えるんではなかろうか。知らんけど。
「これで終わりだな」
最後に焼き上げたハンバーグを皿に盛ると、莉緒たちが座っているテーブルへと向かう。莉緒が担当していた料理も材料がなくなっていて、フォニアたちと同じテーブルについて料理をつついている。
「お疲れ様」
「ああ、マジで疲れたけどたまにはバカ騒ぎも悪くない」
きっかけは最初に臭みを取ることに成功した超薄切り焼肉だ。思わず「うまっ」と声に出したら、俺たちを観察していた冒険者が反応したのだ。食わせてやったらなんか広がっていって、こうなったわけだ。
噛み切れるようになった蛇肉は、噛むたびに旨味が出てきて美味かった。
蛇肉を求める冒険者も出てきたが、もともと俺たちがもらう約束だ。そんなに欲しいならと少しだけ置いてきたが、約束通りほとんどの肉を手に入れた。
「ご主人さま。どうやら証拠となる書類の隠し場所が判明したようです」
魔の森から現れる魔物も減少傾向が続いており、そろそろスタンピード警戒レベルの解除ももうすぐかと囁かれ始めた頃、エルからそんな報告が入った。
「えーっと、あー、証拠、証拠ね」
一瞬何のことかわからなかったがなんとか思い出した。この国の宰相らがやらかしている不正の証拠だったっけ。
エルが手に持っていたノートパソコンを広げると、ケーブルを接続してテレビの大画面に映し出す。手早くパソコンを操作すると、画面にどこかの見取り図と赤丸が記された映像が映った。中にはどこかの建物内の写真まで張り付けられている。
「もう完全に使いこなしてるわね……」
「ああ……。それに、TYPEシリーズが撮影した画像も取り込んでないか? ダンジョン産タブレットとパソコンってお互いデータやり取りできないと思ってたんだが……」
「全然システム違うはずよね……。どうなってるのかしら……」
かたや魔力で動いていると思われるダンジョン産タブレット、もう片方は言わずと知れた電気だ。ダンジョンの不思議機能でDPを消費して連携機能を追加できたりする可能性は否定できないが、ダンジョンマスターである俺は何もしていない。
「ご主人さま。聞いていますか?」
莉緒と二人して慄いていると、額に血管を浮かべたエルに睨まれた。
「あ、ハイ」
なんとなく抗いがたい空気を読んで、素直にうなずいておく。少なくとも俺はそこまでパソコンを使いこなせないし、使いこなそうとも思っていないのでエルに任せておきたい。
「これが宰相の屋敷の見取り図です。人々を冤罪で犯罪者に仕立て上げ刑を科しただけでなく、その刑を軽くしてやると賄賂まで脅して受け取っています。さらに受け取った罰金を懐に入れるために、国へは軽犯罪として報告しているという屑です」
「うわ、最悪だな。一般人と国から二重取りしてんのか」
「宰相ってかなりの権力者よね? そんな人が不正したら取り締まれる人っているのかしら……」
「さあねぇ。国の仕組みまではよくわからん」
「そこは国の最高権力者に任せてしまえばいいかと」
エルの言葉に確かにと頷く。権力が問題ならば、宰相より強い権力を持つ人間に証拠を突き付ければいい。
「直接城に乗り込んで国王に証拠を突き付けに行けばよさそうだな」
「そうね。でもいきなり行って話聞いてもらえるかしら?」
「あー、そうだなぁ……」
「直接乗り込むとか何物騒なこと言ってんだよ……」
あーでもないこうでもないと言い合っていると、横で聞いていたイヴァンがぽつりと呟く言葉が聞こえてくる。
「アポ取れば大丈夫かしら」
「そういう問題じゃねぇと思うぞ」
「アポねぇ。今度行きますって言っておけばいいかな」
「どうやって言いに行くんだよ」
「いいんじゃないかしら。日時まで指定しておけば当日歓迎してくれそうよね」
「まぁある意味歓迎はしてくれそうだけどな」
「よし、んじゃそうするか」
「聞いてねぇとは思ったけど、シュウたちなら問題ないってところが恐ろしいよな……」
イヴァンのツッコミには誰も反応することなく、アポ取りすることが俺たちの中で決まったのだった。




