第348話 万全の監視体制
「ただいま」
「おかえりー」
冒険者たちが守るエリアへと戻ってくると、真っ先に莉緒の元へと向かう。特に心配はしていなかったけど、莉緒に怪我はなさそうだ。
「ご苦労だったネ」
ここは第一外壁の手前にある冒険者ギルド本陣。大きめのテントが張られていて、中には簡易のテーブルと椅子が並べられている。指揮を取っているギルドマスターが待ち構えていたので、ついでに報告をしておく。
「君たちの活躍を初めて間近で見させてもらったが、すさまじいの一言に尽きるネ」
「まだまだ魔物は出てくるだろうから、楽観はできないけどね」
肩をすくめるとテント越しに魔の森へと視線を向ける。もちろん向こう側は見えないが、気配を探るのであれば真正面が一番やりやすい。魔の森の浅瀬部分の動きは鈍くなっているようだ。これ以上魔物を魔の森の浅瀬に合流させるつもりはないが、特におかしな動きをしていないのであれば何よりだ。
「またしばらくは保つだろうから、君たちは下がっていてくれて大丈夫ネ」
「そうさせてもらうかな」
「他の冒険者の取り分も減るからネ……」
若干遠い目になるギルドマスターだが、正直お金はいらない。魔の森の魔物の素材だったら、調査しながらかなりの数が異空間ボックスに入っている。
「俺たちが倒した魔物だったらいらないから分けていいぞ」
「それなら助かるネ。自分たちのものにならない素材の回収よりは、他の奴らもやる気は出そうネ」
「そうしてくれ。んじゃ俺たちは一旦帰る」
「ああ、わかったネ」
こうして魔の森からの本襲撃を退けた俺たちは、その足を家へと向けた。
「今どんな感じ?」
さっそく帰宅するとざっくりとエルに聞いてみる。
ここは野営用ハウスに増設したエルの部屋である。机と壁にはノートパソコンと無数のタブレットが設置されていて、タブレットには鳥TYPEからの監視映像が映されている。どこぞの映画に出てきそうな指令室みたいだ。
「おかえりなさいませ。ようやく監視体制が整ったところです。特に問題はなさそうですが、一点だけ。あちらをご覧ください」
こちらを振り返りもせずに、壁にかかっているタブレットをひとつ指し示すエル。今日は、というよりここ最近ずっと侍女モードが続いている。
タブレットには相変わらず魔の森の様子が映し出されているが、見た感じでは特に異常は見られない。
「あれは……、奥地を監視させてるやつかな」
「はい。ここ二時間ほどで映った魔物の数が十体以下となっていて、かなり数が激減しています」
「へぇ。スタンピードが落ち着いてきたのかな」
「恐らくそうだと思います」
「なるほど。カタを付けるなら今かな……? となればTYPEシリーズでラストスパートかけるから、準備お願い」
「かしこまりました」
パソコンの隣に置いてあったタブレットを手に取ると操作を始める。TYPEシリーズに直接命令を下せるのはダンジョンマスターである俺だけだが、一億DPでタブレットから各種命令ができるメニューを追加することによって、タブレットから命令ができるようになっていた。
「ようやく終わりが見えてきたわね」
「だなぁ。……それにしても、このスタンピードって何が原因なんだろうな」
莉緒と二人でリビングに腰を落ち着けると改めて考えてみる。
「前にもスタンピードがあったって話だし、何か原因がありそうよね」
「ありがちなのはドラゴンみたいな強力な魔物がやってきて、地元の魔物が追い出されたりとかだけどな」
「そうなんだ? 大災害って線は?」
「災害かぁ。地震だと街の人間も気づきそうだから噂に上がりそうだけど……。豪雨での土砂崩れとかかな。こっちの魔の森は山岳地帯だし、がけ崩れとか地滑りが起きたらありえるのかな」
思いつくままに二人で原因に成り得そうな事象を上げていくが、もちろん想像の域を出るはずもない。
「やっぱりもっと奥へ調査に行かないとダメっぽいなぁ」
「突き止めるならそうよねぇ」
腕を組んでため息をつくが、正直そこまで興味があることでもない。
「めんどくさいし、とりあえず放置でいいか」
「ふふ。いろいろやることもあるしね」
肩をすくめる莉緒に頷いていると、どうにも腹が減ってきた。
「よし、そうと決まれば飯にするか」
「じゃあ何か作ろうか」
「そうだなぁ。最近魚食べてないからそれでいこう」
莉緒と二人でキッチンに立つと、さっそく料理開始だ。
最近まではエルが何かと家事をやっていたが、パソコンが来てからは侍女ではなく秘書の仕事ばかりになってしまったので、家事関連は俺たち自身でやることも増えていた。
今では日本人である俺たちよりも、エルのほうがパソコンを使いこなしているので何も文句はない。むしろありがたいとすら思っている。というかエルのパソコン習熟速度も異様だ。日本語にもあれだけ興味を持っていたけど、エルの興味は電子機器が動く仕組みではなかったのだろうか。
「ただいまー」
庭でニルと遊んでいたらしいフォニアも帰ってくると、お皿をテーブルに出して手伝ってくれる。
しばらくすると料理も完成だ。
「おなかすいたー」
フォニアがもう限界とでもいうように、ダイニングの椅子に座ってフォークを構えている。
「そういえばイヴァン兄は?」
警戒レベル3が発令されてから、イヴァンと会う頻度も減っていた。冒険者ギルドのメンバーで編成された隊に組み込まれていて、Dランクのイヴァンは後方支援をしているはずだ。
「そのうち帰ってくるんじゃない?」
「そっかぁ」
俺たちは今回のスタンピードでは遊撃扱いでかなり自由にしているが、イヴァンはそうでもないのだ。
寂しそうにするフォニアだったがやはり空腹には勝てなかったらしく、食事が始まればイヴァンのことを忘れたかのように料理を口に詰めるのだった。




