第342話 防護壁を作ろう
「そういえば君たちは確か魔法が得意だったネ?」
いつものように冒険者ギルドに顔を出せば、ギルドマスターに開口一番に告げられた言葉がこれだった。
「苦手ではないですね」
ふと思い浮かべても、俺たちより魔法が使える人物といえば師匠くらいしか思い浮かばない。
「私はどっちかと言えば魔法のほうが得意ですね」
魔法だけなら俺より莉緒のほうが得意ではある。好きかと聞いてみたらたぶん、そうでもないと返ってきそうだけど。
「実際にスタンピードが発生したときに、君たちをどこに配置しようかと考えていたネ。遊撃になるとは思うんだがネ……」
魔の森から魔物がうようよと押し寄せてくる光景を想像する。確か少なく見積もって十万体ほどの軍勢だったか。半分くらいをレッドアントが占めるみたいだけど、さすが蟻だけあって数が脅威だな。
それに仲良く一斉に襲ってくるというのも考えづらい。ある程度の群れで襲ってくるとは思うが、最初は散発的にくるんじゃないだろうか。
「最初にデカいの一発かましましょうか」
向かってくる群れにぶちかますところも想像してみる。でもそういえば広範囲攻撃ってやったことないかもしれない。ある程度はできるだろうけど、どこまで範囲を広げて攻撃できるかは試したことがない。
「うむ。あとは今作ってる防護壁のさらに向こう側に、もう一つ防護壁を築くことは可能ネ?」
「できますけど、どれくらいの壁にします?」
土魔法で家はよく作ってたので、壁だけ作るなら簡単にできると思う。問題は高さと厚さだな。
「今回はそこまで大型の魔物はいないから、高さは五メートルくらいあれば十分ネ。厚さは強度にもよるけど、最低限壁の上を人が歩けるスペースは欲しいネ」
「わかりました。じゃあ二メートルくらいにしておきます」
「お願いするネ」
そうして魔の森の最前線へと来てみれば、街の北門から百メートルほど進んだところで壁を作る工事が行われていた。魔法使いが土魔法で壁を作り、その他が壁の上に登る階段を作ったり整備を行っていた。北門の真正面に東西に約一キロメートルほどの壁ができつつある。二百メートルおきに二メートルくらいの隙間があって、攻め寄せる魔物を少数に絞るための門の役割をするところだろう。
「こっちの壁は七メートルくらいかな?」
莉緒の言う通り見上げてみればそれくらいの高さはありそうだ。俺たちの作る壁はそのさらに外側だし、こっちの壁ほど強度はなくていいのかもしれない。
「俺たち二人だけだし、質よりも広範囲を塞ぐ壁のほうがいいのかもな」
「回り込まれても厄介よね」
せっせと壁を作る人たちを横目にしながら工事現場を歩いていく。
「はは、ようやくSランク冒険者様のお出ましか」
声をかけてきたのは黄色い髪で頬に傷があり、巨大なハルバードを背負った女だ。どこか厭味ったらしく聞こえてくる声には聞き覚えがある。
「確か……、メイちゃんだっけ?」
「うん。メイちゃんだね」
「ふん。気やすく呼ぶんじゃねぇよ」
莉緒と答え合わせをしていると微妙に赤くした顔で文句を言われた。恥ずかしがってるんだろうか。
「重要な前線の壁作りにようやく顔を出したなと思っただけだ」
それだけ言い捨てると、壁づくりの作業へと戻っていく。ホントに嫌味を言いに来ただけっぽいな。
「なんなのよあれ……」
「初対面の頃よりは丸くなった気はするけどね」
不機嫌な莉緒をなだめつつも、工事現場を通り抜けてしばらくしたところで立ち止まる。
「ここらへんでいいかな?」
「いいんじゃない?」
建設中の壁から百メートルほど進んだところで振り返る。
「とりあえず作ってみるか」
外側に堀のある、高さ五メートルの壁を想像しながら土魔法を行使する。蟻やロックドラゴンにかじられても耐えられるような頑丈な壁だ。
「こんなもんか?」
幅五メートルくらいの壁が出来上がったので、コツコツと壁を叩いてみる。まぁまぁ強度はありそうだけどいまいち加減がわからない。
「あっはっは! 柊、壁の屋上デコボコしてるわよ」
「ええ?」
具合を確かめていると頭上から莉緒の声が降ってきたので、慌てて壁を上ると確かにデコボコだ。壁を作るとき、高さと厚さにしか注意がいっていなかったからかもしれない。
「私も作ってみるわね」
地面に降りてきた莉緒も俺と同じような壁を作り上げる。俺と違って壁はなめらかで屋上もデコボコがない。軽く殴ってみてもびくともしない壁が出来上がっていた。
「うぬぅ。負けられん」
対抗意識が芽生えた俺はさっきよりも気合を入れて壁を作る。今度はなかなかいい出来じゃなかろうか。
「こんなもんかな」
「そうね。……こっちも二百メートル間隔で隙間作っておく?」
「そうだな。互い違いになるようにしとくか」
「じゃあ私はこのまま東側に壁を作っていくわね」
「よろしく」
こうして俺たちは最前線のさらに前にもう一つの壁を作っていく。最初は歩きながら壁を西へ伸ばしていったが、慣れてくると走りながらでも壁が作れるようになってくる。二百メートルごとに隙間を空けつつ作れば、気が付けば街が見えないところまで壁が伸びていた。




