第340話 ダンジョンコアの所有者
ダンジョンはダンジョンマスターによって成長する。そのためダンジョンコアはダンジョンマスターを求めるのだ。
前任者のダンジョンマスターがどういった者で、どういう思想のもとにダンジョンを拡張したのかはわからない。それが何かの不慮の出来事で死んだのかしたのだろう。ダンジョンで生まれた魔物はダンジョンマスターには成り得ず、ダンジョンが成長するには外にいる生命体をダンジョンマスターとする必要があるらしい。しかしこの凶悪な罠をかいくぐって最奥までたどり着けるものなど長年現れなかったのだ。
「えええ? それでダンジョンマスターになっちゃったの?」
「うん、そうみたい」
二人そろってソファに座りながら、ダンジョンコアに触れたことでわかったことを共有する。
「そう考えると前任者はロボ好きの日本人って気がするんだよなぁ……」
ロボしかいないダンジョンの敵と、最奥の部屋の作りが根拠だ。ロボはそこまで頭がよくなかったから、この世界のゴーレムと言えなくもない。だけどこの部屋はちょっと無理がある気がするんだよなぁ。
「その前任者というのが、この最奥の部屋を作ったってことよね」
「そうなるね」
改めて部屋を見回すが、日本にありそうな家の内装だ。
「どう見ても、日本にありそうな家って感じよね……」
それが俺たちがいた日本なのか、パラレルワールドの日本なのかはわからない。とはいえ今考えたところで答えが出るわけでもない。まずはこれからどうするかを考えないと。
ちなみにダンジョンマスターは、ダンジョンと一蓮托生というわけではない。ダンジョンコアに認められ、ダンジョンコアの使用権限と知識を与えられた生命体という位置づけだ。
「とはいえ、ダンジョンの管理とか面倒だよな」
なんだったらダンジョンを壊してコアを換金したっていいのだ。普通はダンジョンマスターの恩恵を考えれば、コアを破棄しようなんて考えない。だからこそ一蓮托生となるような枷がないんだろうか? 考えてもわからないし、そういうもんだと思っておこう。
「でも今までダンジョンマスター不在でもなんとかなってたんでしょ?」
「そういえばそうだな。放置でもいいのか。制御できるようになったからスタンピードなんて起こさせないし」
などと莉緒と話し合っていると、代理人を立てて権限を付与すれば丸投げできるとダンジョン知識が教えてくれる。
なるほど、そんなことができるんですね。メサリアさんにでも全部投げたら解決しそうだ。
「あ、それならスタンピードさせることもできるってこと?」
丸投げは一旦置いておき、莉緒の言葉にダンジョンの知識を思い浮かべる。もちろんそこには可能という結果があった。
「できるね」
「だったら魔の森のスタンピードにぶつければいいんじゃない?」
「おお、確かに」
何気ない莉緒の提案に、魔の森のスタンピードを前にして後方でふんぞり返る自分が思い浮かぶ。でもちょっと柄じゃないかもしれない。
「後方か側面からぶつけて間引けばバレないかな」
ダンジョンもスタンピードしたとかバレれば大変なことになりそうだ。やるならこっそりだな。
「あ、そうだ」
タブレットにあったメニューが全部使えるようになってるのかもしれない。
手元のタブレットを操作しようとしたところ、頭の中にタブレットと同じメニューが浮かんでくる。どうやらダンジョンマスターは思うだけで操作ができるらしい。
試しに莉緒に操作権限をつけてタブレットを渡してみる。
「あ、いろいろ見れるようになってるよ」
「おう、そりゃよかった」
自分の頭の中にあるメニューと比較してみるが、ほぼ変わらないことができそうだ。DPはやっぱりダンジョンポイントで、ダンジョンの拡張やアイテム、魔物を作るときに消費されるらしい。
俺自身は、こんなアイテム作れるかなと思い浮かべるだけでいいけど、タブレット上でそれを探すのは大変そうだ。
ん? 検索機能の追加ができそうだな。5000DPか。じゃあ実行っと。
「あれ、検索窓が表示されるようになったよ?」
「今追加してみた」
「ええ、そんなことできるんだ……」
なんかもうなんでもありみたいです。
ふむふむ。エリクサーも100万DPで作れそうだし、とりあえず4つくらい作ってみる。目の前に現れた瓶を鑑定すると、確かにエリクサーだ。液体を意識して鑑定したので間違いない。あとでイヴァンとフォニアにも配っておこう。
「何これ……ってエリクサーじゃない」
莉緒に手渡すとさっそく鑑定したようだ。
「わりと何でも作れそうだ」
何せDPは56億もあるのだ。
ダンジョン産のお宝が何かあるかと探しに来たら、ダンジョンが生み出すアイテムは何でも作れるようになってしまった。
「よし、ダンジョンは攻略できたし、いったん帰るか」
ソファに座りながら大きく伸びをする。最奥の部屋も意外と居心地がいいし、ダンジョンを拠点として使う方法もそのうち考えてみよう。
「そうしましょ。やっぱりダンジョン攻略って疲れるわね」
主に罠に神経を使った気がする。
一息ついたと思ったら腹が減ってきた。思ったより早くダンジョンを攻略できたけど、まだお昼くらいだ。
「帰って飯にしよう」
こうしてダンジョンを後にすると、いつものように魔の森の魔物の様子を観察してから街へと戻るのだった。




