第331話 今後の方針
その翌日。
俺たちはいつものように魔の森に向かうことにした。イヴァンとフォニアとニルが森の浅瀬で狩りをし、俺たち二人はダンジョンの調査だ。ダンジョンの魔物にはまだ一体しか遭遇していないので、出現する魔物の傾向は知っておきたい。魔の森で見かけた魔物がダンジョン産だった場合、ダンジョンもスタンピードの可能性が出てくるからね。
「いってらっしゃい」
エルはいつも通り、家で「日本」のお勉強をやるそうな。
「いってきまーす!」
フォニアが元気よくエルに手を振ると、尻尾も一緒になってゆらゆらと揺れる。エルに見送られながら門を開けて外に出ると、何やら立派な鎧を着こんだ騎士たち十人ほどに取り囲まれた。
「貴様がシュウだな」
中でも目立つ鎧を着た男が一歩進み出てくる。
よく見れば昨日の審議官の後ろに付いていた騎士のようだ。すでにめんどくさくなりそうな予感がひしひしと感じられる。
「まったく、審議官殿の言葉に従わぬなど無礼にもほどがあるが今は置いておく」
さすがに人違いですとか言ってスルーはできないんだろうなぁ、とか考えている間にも騎士の話は勝手に進んでいく。何か指示を受けた覚えはないが、こいつら人の話は聞かずに一方的にしゃべるばっかりだな。そういうのは独り言って言うんだぞ?
「ギルドマスターの言葉通り、審議を一時中断するに値する相手なのか見極めさせてもらう」
ふむ。ギルドマスターが何かやってくれたのかな。審議の中断ってのがよくわからないけど、何を見極めるんだろうか。
『ねぇ柊……、なんなのあれ……』
『あー、うん、なんなんだろうな……』
何と答えたものか考えていると、莉緒から念話が飛んでくる。審議官に絡まれた話は昨日のうちにしていたけど、今の状況は俺にもさっぱりわからない。まさかお付きの騎士が絡んでくるとは思っていなかった。
「何を見極めるのか知りませんが、俺たちこれから仕事に行くんで邪魔しないでもらえます?」
「ふん。それならちょうどいい。その様子を確かめさせてもらう」
「はぁ、そうですか」
邪魔されないのであれば問題ない。こいつらが魔の森の奥で生きていけるのかなんて知ったこっちゃないし、どうせ俺たちの移動には付いてこられないだろう。イヴァンたちと別行動になったら一気に引き離させてもらおう。
ぞろぞろと騎士を引き連れて街の北門へと向かう。どこへ行くのかも聞かれなかったけど、あの騎士たちは準備とかできてるんだろうか。俺たちが軽装だから問題ないとでも思ってるのかな。わざわざ教えてやる義理もないから知らんけど。
イヴァンから「Sランク冒険者様も大変だなぁ」と他人事のような感想をもらったが、あいつらにはイヴァンたちもSランク冒険者パーティ御一行と認識されてるんじゃなかろうか。
「んじゃ俺たちはこのあたりをぶらぶらしてるから」
「おう、気を付けてな」
街を出て森の入り口へたどり着くと、そこでイヴァンたちと別れる。のんびりと歩いて森へと入っていくイヴァンたちの姿が見えなくなると、騎士たちを振り返った。
「ここからスピード上げます」
「ふん」
一応教えてあげたけど、鼻で笑われただけだった。こいつら付いてこれると思ってるんだろうか。鑑定してみたけどステータスは四桁だったし、スキルも便利そうなものはない。本気で何を考えてるのかわからん。
当初はテレポートで移動する予定だったが、こいつらに見られるのも癪なので振り切るまでは走る予定だ。
莉緒と二人で頷き合うと、一気にトップスピードで駆け出した。魔の森疾走など昔よく師匠にやらされたので懐かしい。すぐに空を飛ぶようになったから走るのは久しぶりだけど、感覚は忘れていないようだ。
ある程度人が通った道もあるが、お構いなしに目的地に向けて一直線で向かっていく。地面を蹴り樹木を蹴り、ほぼ空中を駆けるようにして進んでいくとすぐに後ろの騎士は見えなくなった。
『そろそろいいかな』
『うん、いいんじゃないかしら』
そして余裕をもって進んだところで、俺たちはテレポートでダンジョンの入り口へと跳んだ。
「はぁー、それにしてもめんどくせー奴らだなぁ……」
「ホント、何がしたかったのかしらね」
ダンジョン入り口前に出てすぐに大きく息をつく。俺たちの邪魔にしかなりそうにない奴の相手はマジで勘弁してもらいたい。国を出て引っ越すことも脳裏に浮かぶが、スタンピードの可能性がある以上、出ていったあとに街が滅んだりしたら寝覚めが悪すぎる。
「本格的に敵対してくるようならこっちも徹底的にやってやろうか」
「それもいいかもしれないわね。確か数年前にいたSランク冒険者は逃げたんだっけ?」
「そういえばギルドマスターも言ってたな。……もしかしてそのせいでSランク冒険者が舐められてるってことないよな?」
「さすがにそれはわからないけど……」
「だよなぁ」
自分で言うのもなんだけど、Sランク冒険者ってそれなりに考慮される存在だと思うんだよな。帝国で皇帝の前に出たときもそうだったし、街に入る時も貴族用の門を使えたりするし。
「もしそうだったとしたら、本気で潰しにかかるとしますか」
「うん。Sランク冒険者の認識は改めてもらわないとダメそうね」
こうして今後の方針を決めた俺たちは、改めてダンジョンへと足を踏み入れた。




