第321話 遺跡探索
エルも来るかと聞いたけど、相変わらず留守番をしていると返ってきた。未発見かもしれない遺跡よりも日本の文化が勝つようだ。日本は逃げたりしないんだけどな。
「いってきます」
「いってらっしゃいませ」
庭先でエルに見送られながら次元魔法で直接現地まで飛ぶ。
「ほえー」
「いかにもって感じだな」
周囲を見回したフォニアとイヴァンから第一声が聞こえてくる。周囲は完全な森に囲まれていて、ポツンと荒れた石畳に覆われた地帯だ。
「あっちだね!」
キョロキョロと見回していたフォニアが、屋根の付いている建物を指さして胸を張る。
「ふふ、残念。こっちなのよね」
「えー」
莉緒が先導して歩く後ろを、フォニアががっくりと肩を落としてついていく。
「ほら、あそこに階段があるでしょう?」
「あ、ほんとだ」
ただしそれも一瞬だけだ。すぐに元気を取り戻すと興味深そうに階段を覗き込んでいる。
「シュウたちは地下二階まで行ったんだよな?」
「ああ。何もなかったけどな」
フォニアをスマホで撮影していると、イヴァンも少しだけソワソワした様子で尋ねてきた。
「よーし、フォニア行くぞ!」
「うん!」
ここからが本番だとばかりにフォニアに発破をかけて先に階段を下りていく。特に何があるわけでもなかったし、今も空間魔法で地下一階を走査しているが危険なものは見当たらない。
莉緒が魔法で照明を作って階段を下りると、地下一階の部屋を改めてみんなで探索する。特に隠し扉など見つかることもなく地下二階の部屋も探索し終え、下りの階段の前に全員で集まった。
「ここから先は俺たちも行ってないから慎重に行くぞ」
全員を見回すと真剣な表情で頷きが返ってくる。まずはいつものように空間魔法で階段の先の様子を調査だ。
「……ん?」
と思ったけど空間魔法が下り階段の途中までしか広がっていかない。
「どうかした?」
「いや、この先の空間が途切れてるんだが……」
この反応は覚えがある。以前ダンジョンに潜ったときと同じだ。ダンジョンは階層ごとに別次元になっていて空間が連続していないのだ。
「つまりここから先はダンジョンになってるってこと?」
「そうなるな」
「マジか!」
「だんじょん!」
俺たちの言葉にイヴァンが顔をしかめているが、フォニアの目はキラキラと輝いている。以前潜ったダンジョンで活躍したのを思い出したんだろうか。確かに大活躍だったけど、探索に貢献したかというとそうでもなく別方向での活躍だ。未知のダンジョンとなれば慎重にならざるを得ない。
「ただでさえ強力な魔物がいる魔の森のダンジョンなんて嫌な予感しかしねえぞ……」
「そういうもんなのか?」
「……いや、知らねぇけど」
少しだけ考え込んだイヴァンだったが知らないらしい。でもなんとなく言いたいことはわかる。RPGだって物語が進んでいけば徐々に敵は強くなってくるものだ。イベントでもない限りはいきなり弱い敵が出てきたりはしない。
「なんにしろ俺が先行するから後から付いてきてくれ。莉緒は一番後ろで警戒を頼む」
「わかったわ」
気合を入れなおすとゆっくりと階段を下りていく。十段ほど下りて行った先からがどうやらダンジョンになっているようだ。ただ階段が続いているだけで見た目からではどこから先がダンジョンなのか境界がわからない。しかし空間魔法で探れない境目が次の段を下りた水平方向に広がっていて、ここから地下のエリアがダンジョンだと教えてくれる。
「うーん……」
このまま行けば足から先にダンジョンに入ってしまい、ある程度下りないとダンジョンの中の様子がわからない。しゃがみこんで先に顔だけ突っ込んでみることにした。
「マジか」
そこに広がっていた光景に絶句する。
「どうしたんだ?」
後ろからイヴァンの声が聞こえてきたので顔を引っ込める。ダンジョンの外からは普通に階段が続いているようにしか見えない。
皆にも水平面にダンジョンとの境界があることを説明すると、皆でしゃがみこんでダンジョン内を覗き込む。
「うげっ」
「うわぁ……」
「えええぇぇぇ」
三者三様の言葉が聞こえてくるが、皆の思いは同じようだ。
ダンジョン領域に足を踏み入れて三段ほど下りた先には落とし穴が待ち構えていたのだ。横幅いっぱいで奥行きは三メートルほどだろうか。迂回方法はなく飛び越えていくしかない。穴の底は五メートルくらい下方にあって大したことはなさそうだが、通路なのか広間なのか横に空間がある。落ちて体制が整わない間に魔物にでも襲われたらたまったもんじゃない。
「いきなりこんな罠があるとか、楽に攻略できそうにないわね」
「罠多めのダンジョンとかだったら嫌だな」
思わずしかめっ面になってしまうが、未発見の遺跡としてすでにギルドに報告してしまっている。ここで探索を諦めて他の奴らに先を越されるのもなんとなく嫌なので、ここはポジティブに考えることにしよう。
「うーん。罠発見スキルとか生えないか期待するか」
「なんだよそれ」
イヴァンには怪訝な顔をされたが、莉緒には呆れた表情で肩をすくめられた。だがやる気が出てきたことには違いない。面倒になったら魔法で空中に足場を作って、地面に触れないように進めばいい。
「じゃあ改めて、行きますか」
皆へと声をかけると、最初の罠を飛び越えてダンジョンへと足を踏み入れた。




