第307話 拠点を探そう
「ちょっとすみません」
あれからまたギルド職員に、今度は不動産を扱っている商会について聞いてやってきたのがここである。街の中央から南側にある大通りの一角だ。残念ながらラシアーユ商会ではなかったが、六大商会のうちの一つであるリアラオスト商会らしい。
「あん? 何の用だ?」
店の入り口近くのカウンターにいた、商会の店員らしき人物に声をかけたところ睨み返された。筋肉ムキムキの無精ひげを生やしたオッサンだ。こんな怖そうなオッサンが店頭にいたら客が入ってこなさそうだが、商品がいろいろと並べられている店内にはちらほらと客がいる。
「空いてる土地があれば借りたいなと思って」
「ほう。ここで新しく商売でも始めるのか?」
「いえ、しばらく魔の森で活動するので、ただ拠点にしたい土地を探してるだけですけど……」
「ん? ……冒険者か? 賃貸じゃないのか?」
微妙に会話がかみ合わないと思ったけど、確かに冒険者が拠点に使うなら普通は賃貸か。街中の空き地で野営とか、せっかく脅威のない街中なのに休まらないな。
「建物はこっちで用意するので空き地で大丈夫です」
「そ、そうか……。ちょっと待ってろ」
男が席を離れて後ろの棚から紙の束を持ってくると、テーブルの上に乗せて広げる。パラパラとめくると、しばらくしてから顔を上げた。
「ところで……、あんたらランクはいくつだ?」
「ランク?」
「冒険者ランクだよ。支払い能力の低いランクの冒険者には貸せないからな」
言われてみれば当たり前の話だ。払えなくなったからと言ってすぐ退去できるわけでもないし、ちゃんと払えるかは大事だな。
襟元から冒険者証を取り出すとよく見えるように提示する。
「これでいいかな?」
「うん? ………………マジか。初めて見た」
顔を寄せてまじまじと覗き込んでいた男だったが、しばらく動く様子がない。早く手続きを進めてほしいんだけど。
「あ、ああ……、すまん。それで、えーと、ご希望の条件などありますか?」
咳ばらいをして続きを促すと、急に丁寧な言葉遣いになる。不愛想なひげ面マッチョから一転してすごい違和感だ。やっぱりSランクの威光をひけらかすのが手っ取り早くていいのか。
「それなりに広けりゃいいけど……、なんかある?」
後ろを振り返ってみんなに聞いてみると、イヴァンからギルドが近いほうがいいと出たくらいだ。
「じゃあそれで」
「かしこまりました」
男はまた紙をぺらぺらとめくりだす。
「完全に空き地となると、数が限られておりまして……」
話によると、空き家や廃屋が残っている土地が一番多いらしい。過去のスタンピード発生時に街まで魔物が押し寄せた際の名残だそうだ。特に北門近くの土地にそう言った場所が多いとのこと。
「建物ぶっ壊してもいいなら、家付きでもいいですよ」
「であれば選択肢が広がります。一番広い場所は、北門と冒険者ギルドの中間にある大通りに面した土地でしょうか。大通りに面しているため目立つのと、騒がしいのが難点といえば難点ですが……」
「へー、なかなかいいんじゃない?」
「その場所なら大丈夫かな?」
もう一度振り返ると特に不満はなさそうだ。
「一回場所を見てみたいんですけどいいですか?」
「もちろんです。少々お待ちいただけますか」
そう言うと、男は紙の束をたたんで奥へと引っ込んでいった。
街の中央を通り抜けて北側へ進むと、壁が頑丈な作りになっている建物が増えていく。冒険者ギルドを過ぎたあたりでそれが顕著になっていて、庭付きの建物であれば敷地の壁が分厚く、高さが二メートルを超えるものも出てくる。
「ここです」
そんな中、案内されたひげ面マッチョの男に指定された場所がここだ。
敷地の壁の高さは三メートルほどで、中の様子は伺えないようになっている。大通りに面する長さは三十メートルほどだろうか。結構広いような気がするけど奥行きがわからないので何とも言えない。
中央あたりには頑丈な金属製の門があり、ごつい南京錠がかかっている。鍵を取り出した男が解錠して門が開かれると、そこには荒れ放題の庭があった。いくつかの資材も庭にそのまま放置されており、奥に鎮座している屋敷のような建物もよく見れば壁が崩れたりしているところもあってボロボロだ。
「すげーな……」
「ここは元領主館なんです。二十年くらい前のスタンピードの時にここまで魔物に侵入されまして……。街の北側は魔の森からも近いですし、それ以降手つかずの状態です。万が一魔物に襲われたときに、魔物が散らばっていかないように敷地の壁だけは修復されています」
当時の傷跡が残る建物ってすげーな。魔物の勢いが激しかったことが伺えるけど、それはそれで残しておかなくていいのかって気になる。……って原爆記念館みたいなやつとは違うか。そういうのは実際に魔物の脅威がなくなってから考えればいい。
「壁以外であれば好きにしてもらってかまいません。解約時についてですが、家を新たに建てたあとであれば、その家はそのまま使わせていただきますので解体は不要です。また大きなゴミの放置や、大きな穴を開けたままにするなどされないようにお願いします」
「はいはい、了解」
ぼろ屋敷を一周してみると、どうやらこの土地は奥行きのほうが広いことがわかった。敷地の奥は裏通りに面していて、お隣さんと接しているのは左右だけのようだ。野営用ハウスは防音もしっかりしてるし、多少の騒がしさは気になるものでもない。
「いいんじゃない?」
「うん」
フォニアとニルを見れば、庭を駆け回っていて楽しそうにしている。
イヴァンとエルも異論はなさそうだ。
「じゃあここで」
「ありがとうございます!」
即決した俺たちは、さっそく商会に戻って手続きを済ませる。どれだけ滞在するかわからないので、とりあえず契約期間は最短の一か月だけにしておいた。
ちなみに家賃は一か月百五十万フロンだった。




