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第186話 念話を便利に使おう

「ほな、案内させてもらいます」


 ニコリと笑顔を浮かべると、闇メイドさんはくるりと踵を返して通路の奥へと歩き出す。ニルが尻尾を振りながら付いていき、フォニアも同じように尻尾を振ってついていく。


「イヴァン兄も早く早く!」


 俺たちも後をついて歩き出した時、フォニアが振り返って手を振っている。


「はぁ……、わかったよ」


 緊張しているのが自分だけだと自覚したのか、大きくため息をつくと諦めて俺たちの後をついてきた。

 道中ではそれなりに大きい宿はあったが、ここまで立派な宿はなかった。ハッキリ言うと野営用ハウスのほうが居心地がよかったくらいだ。


『こりゃちょっと期待できそうだな』


『そうねぇ。今まで泊まった高級宿も、日本によくある宿に勝てそうなところってほとんどなかったし』


 闇メイドさんには聞こえないように、念話(・・)で莉緒と会話をする。

 フォニアと念話できるなら、従魔のような関係を疑似的につなげれば他の人ともできるんじゃないかと試行錯誤した結果である。糸状の魔力を相手につなげることで意思疎通ができるようになったのだ。つなげられた方も魔力に意思を乗せることで伝えることができるようになるが、イヴァンだけはまだできるようになっていない。俺と莉緒ならば無理やり読み取ることは可能なので、まったくイヴァンと念話ができないわけではないけど。


「下なんだ?」


 廊下の先の下り階段を見て莉緒が首を傾げている。


「そうどす。比較的平らな谷底ではございますが、そこから一段降りたところを川が流れてはります。その川面を一番近くで見られるのが、ウチの宿のええところなんどす」


 階段を下りて行くと川のせせらぎがかすかに聞こえてくる。河川敷にまでは降りないが、多少高い位置にある部屋の窓からは川の様子がよく見えそうだ。


「松の庵はここになります。川が穏やかでしたら近くまで降りられますので。御用の際は何でも言うてください。ではごゆっくり」


 一番奥の部屋へと案内されると、闇メイドさんはニコリと笑みを浮かべて去っていった。


「うわー、すごい部屋ね」


 ベッドが二つある寝室が二つにリビングともうひとつ小部屋がある。露天風呂もついてるって言ってたけど、もしかしてこの川と景色を見ながら入れるんだろうか。

 キッチンもしっかりしたものがついていて、それなりに自炊もできそうだ。


「ベランダから外に出られるよ!」


 フォニアが声を上げるとそのまま外へと出て行ってしまう。


「あ、こら!」


 慌ててイヴァンが追いかけるあとを俺たちもついていく。

 このところフォニアがじっとしていなくて大変だとイヴァンが愚痴っていたけど、奴隷から解放された反動なんじゃないかと思っている。子どもらしくていいんじゃないと俺は思うし、むしろイヴァンが過保護すぎるんじゃないかと。尻尾が増えたせいか、今じゃイヴァンよりフォニアのほうが強いし。


 それに――


『あんまり遠くに行くなよー』


『うん! だいじょうぶ!』


 こうして目を離したとしても常に会話はできるのだ。イヴァン以外。


「外もすごい!」


 ベランダの先にある階段を下りて、河川敷の岩場に足を付ける。川が近いからか、ひんやりした空気が頬を撫でる。川の向こう側の崖を見ると、煙を煙突から上げる建物がちらほらと見える。川の近くはごつごつとした巨大な岩もあったりして、簡単に向こう側には渡れそうにない。川の上流側も大岩が複雑に組み合わさっていて、一般人には簡単に先には行けそうにない。


「向こう側が鍛冶職人が多いんだっけ」


「そう言ってたわね。向こう側の斜面がそのまま鉱脈とつながってるらしいし、またあとで行ってみましょう」


「んだな。その前にギルドで情報収集してからだけど」


「あっちは何があるのかな?」


 フォニアがはしゃぎながら、上流側にある大岩の上へと飛び乗っている。特に大岩の向こう側から生物の気配はしないし、危険はないかな。川の向こう側にはちらほらと気配はあるけど、それなりに上流側で遠いし問題はないと思う。


「フォニア! 危ないから戻ってきなさい!」


 イヴァンが大岩をよじ登ってフォニアを追いかけている。気づけばフォニアは岩の向こう側へと消えて、こっちからは見えなくなっていた。


「律義だねぇ」


「ふふ、面倒見がよくていいじゃない」


「まぁそうだけど」


『フォニアちゃん、このあと冒険者ギルドにも寄るから早く戻っておいで』


『……はーい!』


 莉緒が声を掛けると一呼吸おいてから素直な返事が返ってきた。イヴァンが大岩の一番上に到達する頃に、同じ場所へとフォニアが顔を出す。


「……何かあったのか?」


「ううん? 何も見てないよ?」


 なんとなくニマニマした表情のフォニアを見てイヴァンが声を掛けたが、何かを見たのは丸わかりだ。


「何か見たんだな?」


「うえっ!?」


 なぜわかったと言いたげに目を見開くが、それでバレないと思っているところがまた可愛いフォニアである。


「ほら、怒らないから言いなさい」


 イヴァンが優しく告げると、フォニアが観念したように口を開く。


「……男の人と、女の人がこう、抱き合ってて――」


「あー! わかった! うん、わかったからもう喋らなくていいぞフォニア!」


 なんか怪しそうな雰囲気になりそうだったので慌てて止めている。自分で喋らせておいてなんて奴だ。


「イヴァン兄にも彼女ができたらいいのにって思ったよ」


「やかましいわ!」


 最後に漏らしたフォニアの言葉には、鋭いツッコミが放たれていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 物語全体は 面白く読み進んでいます。 [気になる点] x流れてはります  「はります」は人に対して使う モノには使わない   例外として 擬人化した自然に畏敬と親しみを込めて使うことはあ…
[一言] 念話は便利だなぁー
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