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第171話 侯爵家へ乗り込もう

 屋敷の中からイヴァンとフォニアの気配がする。

 もうここにいることは間違いないようだ。


「問題はこの屋敷が誰の屋敷かってことだよな」


「そうね。二人の気配は確かにここからするけど……」


 ちらりと屋敷の入り口を見れば、こっちを怪しげに凝視する二人の門番がいる。

 もしラグローイ侯爵家以外の屋敷であれば、俺たちに出された指名依頼書を理由に屋敷に入ることができない。介入するのであれば、ラグローイ侯爵家の奴隷がなぜここにいるのか、依頼書と共に侯爵家を経由して尋ねてもらうくらいか。回りくどいな。


「もう直接門番に聞いてみようか」


「それが手っ取り早いわね……」


 莉緒も納得である。情報収集してからということも考えたが、あまり悠長なことも言っていられない。逃亡奴隷が捕まってどうなるかなんて、酷い折檻を受ける未来しか見えない。イヴァンはともかく、フォニアにはそんな目に合ってほしくない。

 ニルの首周りをもふりながら、屋敷の門へと近づいていくと。


「何用だ」


「依頼で来ているんですが、ここはラグローイ侯爵家で合ってますか?」


「そうだが……、何者だ」


 やっぱりラグローイ侯爵家で合ってるんだ。心の中でため息をつきつつも、ラグローイ侯爵長男からの指名依頼書を提示する。


「指名依頼を受けた冒険者の柊です。依頼の逃亡奴隷二人を確保していたんですが、誰かにかっさらわれたようでして」


「ふむ……、確かにメロウ様が出された依頼のようだな」


 お互いに顔を見合わせる門番たち。


「その逃亡奴隷二人がここにいるという情報を得たんですが、俺たち以外にももしかして依頼を出されていないか確認をしたくて来ました」


 建前としては依頼主が他の人間に二重で依頼を出しており、指名依頼を受けた俺たちが依頼失敗にされては困るという(てい)だ。ギルドに出ていたDランクの依頼だけでなく、貴族ともなれば私兵などギルドを通さずとも伝手はあるだろう。そっちで任務達成されても困る。


「少し待っていてくれ」


 一言告げると、門番の一人が屋敷へと走り去っていく。てっきり門前払いを受けると思っていたが、貴族本人たちと違って屋敷で働く人たちもひねくれているわけではないらしい。

 しばらくすると門番が人を連れて戻ってきた。第一印象からして執事と思わせる格好の人物だ。


「お待たせいたしました。中へどうぞ」


「従魔も一緒でいいですか?」


 促されて中に入る前に一応聞いておく。ちらりと視線をニルへ向けると眉を顰められるがそれも一瞬だ。


「かまいません。どうぞ」


 丁寧に整えられた庭を進み、屋敷の中へと踏み入れる。玄関にほど近い応接室へと通されるとソファへと腰を落ち着ける。


「依頼完遂票を準備してまいりますので、少々お待ちください」


「……えっ?」


 深く腰を折って退室しようとする執事に思わず声が漏れる。

 俺たちの目的はイヴァンたちの回収なので、このまま依頼完遂票だけもらうのはまずい。いやでも屋敷を尋ねた理由としては、依頼完了になるのであれば余計な問答をせずに済むので文句を言うわけにもいかないし……。


「なにか……?」


 律義に聞き返してくれる執事に対して咄嗟に出てくる言葉がない。


「……あれ?」


 なんとか言葉を探していると、イヴァンとフォニアの気配に変化があった。

 イヴァンの気配がだんだん小さくなってるような……。

 え、なにこれ、気配が小さくなるってどういうこと?


「柊……、これって……」


 莉緒も同じ気配を感じ取ったのか、不安そうに俺の腕を掴んでくる。


「なんとなくまずい気が――」


 する。と言う間もなく、今度はフォニアの気配が一気に膨れ上がり爆発音が響き渡る。


「……な、なにごとですかっ!?」


「イヴァンとフォニアがいるあたりで何か起こったみたいだな……」


 壁の向こう側を指し示すと、執事の顔色が変わる。


「メ、メロウ様!」


 名前を叫ぶと慌てた様子で部屋の扉を開け、そのまま出て行ってしまう。さっきも聞いたがメロウというのが確か、ラグローイ侯爵家の長男の名前だったはずだ。そしてイヴァンとフォニアの主人でもある。


「追いかけようか」


「そうしましょう……」


「よし、ニル行くぞ」


 むしろ好都合というものだ。開いたままになった扉をくぐり廊下に出ると、執事が走り去った後を追う。いくつかの角を曲がり、屋敷の奥へと進んでいくと庭へと駆けだす執事が視界に入る。


「外か」


 消えそうなイヴァンの気配とフォニアの気配も近づいているし間違いない。

 執事の後を追って庭へと出る。真っ先に視界に入ったのは――


「……狐?」


「フォニア……ちゃん?」


 体高二メートルほどの獣……、狐だ。全身赤茶色の体毛をした狐が、五本ある尻尾をピンと伸ばしたまま首周りをひっかきながらもだえ苦しんでいる。その首には黒いチョーカーが嵌められているのが見える。


「どうなってんだ」


 傍には仕立てのいい服を着たオッサンが、青い顔でしりもちをついて狐から後ずさりをしている。執事がオッサンを抱き起しているがそれはどうでもいい。

 にしてもイヴァンはどこに――


「イヴァン!?」


 探していると莉緒が声を上げて狐の後方へと駆けていく。そこにいたのは……、血だまりの中に倒れ伏すイヴァンの姿だった。

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