第166話 討伐証明部位のお披露目
「海皇亀を討伐したというのは本当か!?」
ノックもせずに扉が開いたかと思うと、ギルドマスターが唾を飛ばしながら部屋に入ってきた。ニルが驚いて伏せていた顔を上げている。
「ええ、証拠に首も二つ持ってきましたよ」
「ふ、二つじゃと?」
「双頭の亀でしたので、頭が二つあります」
「な、なんと……」
証拠もあるという話に驚きを通り越してその場に立ち尽くしている。ローウェルもペンを走らせる手が止まって、ポカンと口を開けているだけだ。
「それでどうしましょうか。証拠を確認したいようでしたら出しますけど」
「あ、ああ……。そ、そうじゃの」
部屋の外に出ようとしたところで、ペンを持つローウェルを向くとしばらく動きが止まるが。
「いや、先にいろいろ話を聞いておこうかの」
考え直したのか椅子へと腰を下ろした。なんとなくソワソワしたように見えるけど、落ち着いてくれギルドマスター。
「首を二つ取ったということは、海皇亀は死んでいるということでいいのかね」
「そうですね。鑑定で状態が死亡となっていることまで確認できています」
「おお! そうかそうか! それは安心じゃわい」
俺の言葉を聞いてほっと胸をなでおろしている。鑑定結果ではっきり出ているのであれば安心できるのだろう。あれだけ体力お化けだったステータスを見れば、生半可な攻撃じゃ倒れないと思っても仕方がない。
俺も未だに半信半疑なところはあるのだ。俺と莉緒で与えた一撃だって、見た目だけならちょっとだけ穴が空いて甲羅にヒビが入っただけに見えるだろう。
「それでだ、海皇亀が海面から首を出した後、攻撃してきたと聞いておるんじゃが」
「口から閃光を吐き出したみたいですね。亀のブレス攻撃なんでしょうかね」
「ふむ……、まさかそのような行動をとるとはのぅ。百五十年前の記録も当てにならんの」
顎に手を当てて髭を撫でるギルドマスター。
「ふむ。では討伐の状況も教えてくれるかの」
「あ、はい」
リンフォードの協力を得て狙撃魔法を新たに作ったこと、海皇亀の攻撃から軍部の偉い人を守ったこと、一撃で亀を沈めたことなどを話していく。
「うむうむ。状況は分かった。後始末は帝国に任せるとしようかの。……ではそろそろ海皇亀の首を拝みに行くとしよう」
ギルドマスターが満足するまで話をしたところで、証拠のお披露目となる。
「かなり大きいので広い場所じゃないとダメですが」
「……解体場じゃとちと狭いかの?」
「首一個で五十メートル以上ありますね。長さを測ったわけではないので正確なところはわかりませんが」
「……さすが海皇亀じゃの」
「港はどうでしょう。今なら漁に出てる船もいないので、ちょうどいいかもしれませんよ」
メモを取る手を止めてローウェルが提案すると、ギルドマスターがポンと手を叩く。
「おお、そうじゃな。大々的に討伐を知らせれば、漁の解禁も早まるじゃろう」
「ではさっそく」
「うむ」
二人の後をついて俺たちも部屋を出て二階へと降りていくと、フロアにいた冒険者たちが殺到してくる。
「海皇亀はどうなったんだ!?」
「海皇亀から攻撃を受けたと聞いたぞ!」
「討伐されたとも聞いたが本当か!?」
だがさすがにギルドマスターをやっているだけはあるようだ。
「静かにせんか!」
声を上げて一喝すると一瞬で静かになる。
周囲を見回してニヤリと口元を歪めると、一言告げた。
「討伐した証拠としてこれから港で首を披露する。その目で確認したいやつは見に来るがよい」
しばらく誰も反応を返さずに静かなままだったが、一気に冒険者たちの叫び声が上がる。
「うおーーーー!!!」
「亀をやっただと!?」
「信じられん!」
「見に行くに決まってんだろ!」
やかましくしながらも先に港へ向かおうとする冒険者たちが外へと出て行く。一階にも港で海皇亀の首をお披露目する話が伝わっていく。
「そうじゃ、ローウェルよ」
「はい、なんでしょう?」
「あれの申請もしておいてくれるか?」
声を掛けられたローウェルが、俺たち二人に視線を向ける。
「お二人分ですね?」
「ああそうじゃ」
「わかりました」
そのままカウンターへと引っ込んでいくローウェルを見送り、ギルドマスターと俺たちはギルドを出て港へと向かう。
「さっきのは何です?」
「私たちに何かありそうな雰囲気でしたけど」
目の前であんなやり取りをされるとさすがに気になります。
「はっはっは、まぁそのうちわかるじゃろ。楽しみにしておれ」
「はぁ……」
さっぱりわからんが、問いただしても答えてくれそうでもなさそうだ。そのうちわかることだし、まぁいいか。
港へ足を踏み入れたが、軍港と同じように壊れた船や陸に乗り上げている船が数隻あるようだ。冒険者以外にもちらほらと一般人らしき人影も見える。中には今から何が起こるかよくわかってない人もいるようだ。
ギルドマスターが、海皇亀の首を出す場所を確保すべく声を掛けていく。さすがにギルドマスターを知らない住民はいないようで、素直に広いスペースが確保されていく。何人かギルド職員も駆り出されているようで手伝っている。
「ではシュウよ、出してくれるかの」
「わかりました」
言われて莉緒へと目配せをすると、この場に海皇亀の首が二つ姿を現した。周囲には歓声と悲鳴が入り混じった叫び声が響き渡るのだった。