第164話 渾身の一撃
やっぱりこの、頭の奥がチリチリするやつは何かのスキルじゃないかという確信が深まる。危険察知とか、そんな感じのやつだと嬉しいな。自分自身の危機以外にも効果があるとなお良しだけど、そこまでは望むまい。
「まだ未完成だけど、ぶちかましてやるか」
「そうね。ここで見ていてもしょうがないし」
海皇亀から自発的な攻撃が始まってしまえば悠長にしていられない。超遠距離からのブレス攻撃しかないとはいえ、その威力は無視できないほどだ。街へ向けられればどうなるかわかったものではない。
消火活動の続く被弾した船と、出撃準備の進む船の間を飛んで空中へと浮かび上がる。
「シュウ! リオも来てたのか」
途中、どこかで聞いた声が掛けられた。振り向けば出撃準備中の船にいたリンフォードが視界に映る。
「ああ、今からちょっと行ってくるよ」
「頼んだ!」
リンフォードへと軽く手を振ると速度を上げて海皇亀へと迫る。
「ブレスが来るぞ!」
頭の奥のチリチリを感じ取り即座に注意を促す。
直後に亀の口元が光ったかと思うと閃光が二条放たれたが、二人とも結界を張ってブレスを上方へ逸らす。
「大丈夫か?」
「うん、平気」
莉緒も来るとわかっていれば問題ないようだ。海皇亀の死角である側面へと回り込むと、レールガンの準備をする。あらかじめ作っておいた衝撃弾を渡すと、俺は莉緒の護衛へと回る。
海皇亀の甲羅までだいたい五十メートルくらいの距離だ。首をこっちに伸ばそうとするが、どうしても俺たちのほうを向くことはできない。巨体さとこの堅牢さは脅威だが、これは目に見えてわかりやすい弱点じゃなかろうか。……防御を突破できる攻撃力があればだが。
甲羅よりも攻撃が通りやすいであろう頭部が顔を出したが、せっかく練習した成果を安全地帯からぶち込めるのだ。これでダメなら改めて顔を狙うとしようか。
「いくよ」
「ああ、ぶちかましてやれ」
目を閉じて集中すると、莉緒の前方に魔力が集まってくる。手元から伸びるのは二十メートルほどにもなる銃身だ。魔力で銃身を形作っていくが、磁力魔法を交えて形成していく。
着弾箇所には空間魔法でマークをつけておく。レールガンの弾速だとあんまり意味はないが、若干でも目的の着弾箇所へと誘導してくれる効果は捨てがたい。
魔力を集中させすぎた影響か、海面が細かくさざ波立ってきた。
俺が作った弾には衝撃効果が付与されているが、その衝撃で対象の内部にさらに爆裂系魔法が付与された細かい弾が散らばるようになっている凶悪仕様だ。
「発射」
未完成だったのは命中率と発射の成功率だ。命中率は至近距離で撃てば関係ないが、発射に失敗すると次弾を撃つのに時間がかかるのだ。
激しい爆発音とともに、俺特製の衝撃弾が撃ち込まれる。
発射と着弾は同時だ。
その巨体が着弾の衝撃で震えながら数メートル後ずさる。
どうやら無事に発射できたようだ。
合わせて巨大な波が発生して港へと押し寄せる。
甲羅から伸びる二つの頭がまっすぐ伸びて硬直したかと思うと、口から赤黒い何かを勢いよく吐き出していく。
徐々に頭の高度が下がったかと思うと、海面に叩きつけるようにして亀の首は倒れた。
見た目だけでは亀の甲羅に穴が空き、半径十メートルほどの範囲に大きなヒビが入ったようだが、それ以降海皇亀に動きはない。
ほとんどの衝撃は海皇亀内部で吸収されたようだが、巨体が移動する力まではどうしようもなかったようだ。亀が移動した側には大波が、反対側は潮が勢いよく引いている。
「どうだ」
「はは……」
あれだけ苦労した亀の防御力を一撃で貫通するとかすげー威力だな。
ドヤ顔を決める莉緒を眺めつつ、乾いた笑いが漏れてしまった。ニルまでドヤ顔になってるが、お前は何もしてねぇだろ。
莉緒のMPは残り半分弱といったところか。と言ってもすごい勢いで回復しているが。
当の海皇亀はどうなったか――
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状態 :死亡
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「鑑定したけど、ちゃんと仕留めてるな」
「よし。やったわね!」
莉緒とハイタッチを交わすと抱きしめ合って軽く口づけを交わす。
まさか一撃で仕留められるとは思わなかったが、終わってみればあっけなかったな。
「にしてもコレどうしようか」
いつもなら獲物は異空間ボックスへ入れて持ち歩いているが、さすがにこのサイズは莉緒でも無理じゃねぇかな。
「どうしましょう。首だけでも持っていく? 証拠は必要でしょうし」
亀が吐き出したいろいろなもので海が濁っていてよく見えなくなっている。が、首は沈むことなく浮かんでいるようだ。頭の先端だけ海面に浮いているのが見える。しかし五百メートル級の亀となると、その首も巨大だな。そこらへんの高層ビルくらいあるんじゃなかろうか。
「それもそうだな。……ちゃっちゃとやってしまおう」
魔法で浮かせると首を二本とも切断して異空間ボックスへと収納する。
苦労はしたが、さすがに甲羅ほど硬くはなかったのでなんとか切れました。
空を駆けて軍港へと戻ってくると、大惨事に見舞われていた。港は水浸しになっていて、船が一隻陸へと乗り上げている。もう一隻傾いている船もあり、陸へ乗り上げはしなかったもののどこか破損したんだろうか。
港の陸地へと着地すると、さっきよりも慌ただしさが増しているのがよくわかる。波の影響で船が壊れたんだとすれば、不可抗力なので許してください。そう、きっと亀が暴れたせいなのですよ。
「シュウ! リオ!」
周囲を見回していると、リンフォードが駆け寄ってきた。その表情は困惑顔である。その後ろからはドゲスハが険しい表情で歩いてくる。
「海皇亀はどうなったんだ!? 首が倒れていくのが見えたが……、もしかしてやったのか?」
遠かったけどそこまで見えてたようだ。首が倒れてすぐに、五体満足な俺たちが戻ってきたら予測は簡単か。
「もちろん、仕留めてきたぞ」
俺の言葉にリンフォードは喜色満面となるが、ドゲスハはますます表情を険しくするのだった。