第161話 試行錯誤は続く
次は弾を作ろう。
莉緒の作る銃身と合わせるためにも規格は統一しておくか。あの巨大な海皇亀へぶち込む弾だし、ある程度の大きさは必要だと思う。口径は五十センチくらいにしておくか。ライフリングの溝の幅や深さも決めておかないと……。
「わかったわ。作りながら都度合わせていきましょ」
本当は色んなサイズで作り分けられればいいんだろうけど、今は海皇亀対策を優先だ。口径五十センチの弾を作成していく。溝も一定間隔と幅を持たせて滑らかになるように。いくつか作るだけで徐々に最適な形になっていく。
「じゃあオレはそろそろ行く。帝国軍からの招集もかかってるんでね」
「あ、はい。ありがとうございました」
リンフォードは他にも用事があるようで、夕方を過ぎた頃にはいなくなっていた。帝国軍関連ということは、貴族の義務絡みかもしれない。
ちなみにニルはやることがないので、海面すれすれをうろつきながら巨大魚の釣りをして遊んでいる。口を開けて海面から飛び出してくる魚に一撃を加えて俺たちのところまで持ってくるのだ。
「よし、弾の形はこんなところでいいかな」
「わかった。この形に合う銃身を作っていくわね」
「任せた」
「任された」
レールガンの仕組み云々は置いておいて、まずは形だけでも作って発射できるようになればいいかな。
「弾の形で何かあればすぐに言ってくれ」
「うん」
あとは弾の改良だ。一番いいのは衝撃浸透効果が付加できればいいんだが。……普段拳で打ち込むときはどうやってたっけ。
ガントレットを取り出して拳へと装着する。拳の先端も覆われてるから、衝撃浸透効果はこのガントレットを伝って相手へといってるはずなんだよな。
試しに効果を付加して地面を殴ってみると、直径三十センチくらいの範囲が粉々になる。ガントレットに衝撃浸透効果を付加できてるってこと……だよなぁ。
ガントレットを外して作りだした弾を手に取ってみる。この弾に、衝撃浸透効果を、付加するのだ。
「むむむっ」
属性付与とかスキル付与とか、そんなスキルありませんかね。あるならこの機会に覚えたい。マシマシスキルよ、仕事をするがよい。
素手で地面を殴ってみたり、掌底を叩きつけたり、弾にも叩きつけたり試行錯誤を繰り返す。弾が壊れれば作ってみてを繰り返す。
「……お?」
なんとなくいい感触が返ってきた。
これはいけたんじゃなかろうか。ちょっとお試しで撃ち込んでみるか。
離れたところに土魔法で、厚さ三十センチほどの的を二つ作る。比較的頑丈になるように魔力を込めた。お試しだし、三十ミリくらいの口径で試してみるか。
衝撃浸透効果のある弾とない弾を二つ用意する。ライフリングはなしだ。銃身の長さは五十センチほどとした。同じ魔力を込めて空気を圧縮し、弾をセットする。十メートルほど離れたところへ移動すると、銃を構えて狙いをつける。発動すると軽い音を響かせて弾が発射され、的へと着弾した。的に小さい穴が空いたように見えるが、それ以外は特に変化はない。
もう一つの弾も同じように発射したところ激しい衝撃音が響いたが、的は特に変化した様子は見られない。同じように穴が空いただけに見えるが。
「うわぉ」
的へと近づくと違いは歴然だった。後者の的は、後部が完全に吹き飛んでいる。厚さ三十センチだったのが手前五センチくらいしか残っていない。これ面白いな。衝撃弾とでも呼ぼうか。
満足していると隣からも重低音が聞こえてくる。
どうやら莉緒が、俺が作った五十センチ口径の弾を海に向かって発射していた。
「とりあえず飛ぶようになったわ」
――と、いい笑顔が返ってきた。
翌日も朝から狙撃魔法の練習は続く。
昨日ようやく衝撃弾を作れるようになったので、これを莉緒に撃ちだしてもらおう。
誰もいない海岸線沿いに、十メートル四方の頑丈な的となる直方体を作る。
「いくわよー」
「おう、任せた」
的から一キロほど離れたところに移動すると、莉緒が十メートルを超えるほどの銃身を作り出す。そこへ俺が作った衝撃弾をセットした。
「よし、……発射!」
激しい爆発音と共に衝撃弾が発射され、的が粉々に……ならなかった。
「あれ……?」
「……おかしいわね」
どうやら発射の勢いで弾が爆散したらしい。
「弾の強度をもっと上げないとダメかな」
「どうかしら。ライフリングがいびつになってるのかも」
「まずは強度を上げてみよう。それで銃身のライフリングに欠けが出るようならまた考えようか」
頷き合うと俺はもう一度衝撃弾の作成を行う。今度は強度をマシマシだ。莉緒も銃身を作り直して試射を続けていく。
まだレールガンの電磁力を組み込んでいない。重力魔法で弾丸の重さもマシマシにする案もある。魔法の完成間際になれば、実戦を想定した試射を行うことになるだろう。魔力を限界まで込めなければならないので、一日に何回も行えるものでもない。
「思ったより先は長そうだけど……、やるしかないな」
徐々に大きくなってくる海皇亀の姿を海岸線から眺めながら、ポツリと呟いた。