第160話 魔法の開発をしてみよう
「で、どうすんだ?」
ここは港の向こう側にある海岸沿いである。もうちょっと向こう側までいけば砂浜だが、そこまで行く必要もない。
さっそくリンフォードの狙撃魔法をパクる――練習するために来たんだが、当の本人も一緒についてきたのだ。
「どうする……と言われても。とりあえずリンフォードさんを見習って魔法で銃身を作ろうと思ってます」
「ふむ」
顎に手を当てて考え込むリンフォードだが、それ以前に肝心なことを尋ねられる。
「それはそうと、休憩は挟まなくていいのか? オレも狙撃魔法を実演してやれるほど魔力が回復してないんだが」
「あー、練習するくらいには魔力が回復してるので大丈夫ですよ」
5000ほど残しておいたMPだが、すでに五桁を超えるほどに回復している。リンフォードも見てみるが……、五桁あったMPはまだ900ほどで、四桁にも届いていない。今まで実感したことはなかったが、なんとなくだが俺たちMP自動回復みたいなスキル持ってる気がするな。
「そうか……。さすがだな」
何がさすがなのかわからないが、感心した様子のリンフォード。初対面だった昨日より、態度が軟化している気がしないでもない。
「柊。私が銃身を作る、でいいよね?」
「そうだな。弾は俺が作るよ。アレの効果も付加できたらいいんだけどな」
衝撃浸透効果を付加できるとすれば俺しかいない。となれば必然的に銃身は莉緒に作ってもらうことになる。
俺たちの会話を聞いていたリンフォードがハッとした表情になる。
「そういうことか……!」
ええ、そういうことなんですよ。何も銃身と弾を一人で作る必要なんてないんです。自分の持てる魔力をすべて注ぎ込んで銃身と弾をそれぞれで作って発射すれば、それだけで威力も増すだろう。あ、もちろん一人でも撃てるようにもなっておきたいけど。
「それにしてもいいんですか? リンフォードさんの魔法をマネしようとしてるんですけど……。実演までしようとしてくれるなんて」
冒険者にかかわらず、自分の切り札と言ったものは伏せておいたほうがいいというのはどこにでもあるルールじゃないかと思う。
「ああ、気にしなくていいさ。Sランクになるきっかけにもなった魔法だし、すでに色んな人に知られてるからな」
これも有名税というやつなんだろうか。とはいえ防ぎようがないようなものであれば、どれくらい広まったところで害はないか。射程距離も長そうだし、意識外から撃ち込まれる攻撃は防ぎようがない。
「それに街の危機だ。オレ個人の保守がどうとか言ってられる状況じゃない」
「であればお言葉に甘えて」
そして三人で新たな狙撃魔法の仕組みを相談しながらくみ上げていく。
「レールガンの仕組みも取り入れればいいんじゃないかと思ってるんだよな」
「「レールガン?」」
実用性はともかく、高威力が望める可能性にかけて提案してみるが、リンフォードはともかく莉緒からも疑問の声が上がった。
「えーっと、電磁誘導を使って加速する装置……だったかな。ほら、リニアモーターとかにも使われてるやつだよ」
「ああ、あれね。なるほど」
「り、リニア……?」
莉緒にはこれで通じたようだけど、当たり前だが現代知識を持たないリンフォードには通じない。師匠も知らなかった雷や磁力魔法にも関連するところだ。リンフォードには見当もつかないんだろう。考え込む莉緒を置いて、リンフォードに軽く説明するも、うまく伝えることができなかった。電磁力とか俺もちゃんと理解してるとは言い難い。
「はは、すまんな、オレにはさっぱりだ。元平民だから学がなくてな……」
「あ、そうなんですか……」
やっぱり貴族だったんですね。そういえば家名持ちは貴族だって師匠が言ってたっけ。すっかり忘れてた。
とはいえしっかり教育を受けた貴族だとしても、異世界人に現代知識は難しいと思います。
「Sランクになったから貴族になれた、とでも言えばいいのかな。領地は持ってないが、帝国貴族の名誉男爵をやっているよ」
名誉爵とは一代限りの爵位とのことだが、平民が叙爵されるということはこれ以上ない成り上がりだとか。Sランク冒険者ともなれば、毎年入ってくる貴族の年金に旨味はないが、一種の憧れみたいなものだろうか。
「ま、帝国のために働く義務はあるがね」
誇らしげに語るリンフォードではあるが、他にも帝国貴族には帝国貴族なりの縛りとかもあるんだろう。
「っと、話が逸れたな」
リンフォード自身で話を戻し、銃身の作り方についてアドバイスをもらう。魔法を発射する過程を取り入れて、物を飛ばす魔法を構築したとのこと。
筒状の銃身を作り出して風魔法を爆発させる工程など、地球にある銃と仕組みは似通っている。
「なるほど……、こんな感じかしら」
土魔法で簡易的な弾を作り出し、その後方に圧縮した空気を準備する。引き続き魔力で二十センチほどの銃身を作りあげていく。
弾はただの岩の塊で、銃身の穴のサイズより小さめでガバガバだし、銃身にライフリングも刻まれていない。本当に見様見真似で狙撃魔法が莉緒によって構築される。
「発射」
バスッと気の抜ける音とともに弾が発射されるが、数メートルも飛ばずに落下してしまう。
だがそれでもリンフォードは目を見開いて、開いた口が塞がらない様子だ。
「はは……、やっぱり天才ってものはいるもんだな」
さて、じゃあ俺も弾の開発を進めるとしますかね。