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第159話 亀はぶっ殺す

「莉緒!」


 海中から伸びる閃光へと手を伸ばす。次第に細くなる閃光の向こう側に現れたのは、無事な姿の莉緒だった。


「あー、びっくりした……」


 聞こえてきた呑気な声に、ホッと胸をなでおろす。どうやらうまく回避できたらしい。

 頭の奥の感触と不安はもう感じなくなっている。なんとなくだが、目の前の危機は去ったんじゃないかという確信があった。


 いやマジで焦ったわ。なんなのあれ。すげー不安に駆り立てられたんだが……。でも事前に察知できてよかった。もしかしたら何かのスキルなのかね。


「柊……、ありがと」


 左手で胸を押さえ、頬を上気させた莉緒がゆっくりと近づいてくる。俺からも莉緒へと近づいていくと、胸の中へと抱き寄せる。


「大丈夫か? 痛むところとかないか?」


「うん……。大丈夫」


「そっか。声掛けが間に合ったようでよかったよ」


 念のため治癒魔法かけておこう。全身に魔力を巡らせると莉緒を包み込む。


「あー、ゴホン。撤収するぞー!」


 不意に響いてきたリンフォードの声に我に返る。

 そういえばBランク以上の冒険者チームで海皇亀襲撃作戦の真っ最中だっけか。

 海上には相変わらず島のような亀が浮かんでいる。甲羅にはヒビが入っており、いくつか撃ち込んだ岩の弾がめり込んでいる。


 鑑定しても……、ってちょっとだけHP減ってるな。500くらいだけど、六桁あることを考えると微々たるものだろう。前にHPを減らした時は反撃なんてこなかったんだが……、あれは甲羅の上で亀の死角になっていたからだろうか。


「わかりました」


 海中から閃光が放たれたわけだが、海はそれほど荒れた様子はみせていない。船に乗っている他の人たちも無事だったようだ。

 船へと戻ると、ニルが尻尾を逆立てて亀を睨んでいた。もう海皇亀からは何も感じないし、脅威は去ったと教えるためにもニルの首元をもふもふしてやる。


「チッ」


 レックスからは舌打ちをもらったが、わざわざ反応してやる気もおきない。他のメンバーからは恐れのようなものを感じるが、サスキアは好奇心たっぷりに目を輝かせている気がする。

 思ったより魔力を使ったし、精神的にも疲れたな。このまま誰も一言もしゃべることなく船は港へと帰還した。




「おお! 無事戻ってきてくれたか!」


 ギルドへと戻ってくると、ギルドマスターがわざわざ一階のロビーで待っていた。


「海から白い光が立ち昇った時はどうなることかと思ったわい」


「街中からも見えましたか」


 リンフォードが代表でギルドマスターにざっくりと報告しているが、詳しいことは別室で行うようだ。以前顔合わせをした会議室へと通される。いつものようにローウェルも書記として待機している。

 ここにきてようやくというか、海皇亀から反撃を受けたことに実感を持ち始めていた。こっちからダメージを与えたことが原因だが、それでも莉緒を危険にさらしたことは看過できない。


 なるようにしかならないと思っていたが却下だ。あの亀はぶっ殺す。


「それで、海皇亀と相対してみてどうじゃった?」


「あれは化け物ですね……。我々の攻撃は一切通じていないようでしたよ」


「お主であってもそうなのか……、やはり記録通りであるか」


「しかし」


 唸りながら顎に手を添えるギルドマスターだったが、リンフォードの続く言葉に顔を上げる。


「あの白い閃光の反撃を引き出したのは、ここにいるシュウとリオです」


「なん……じゃと?」


 鋭くなったギルドマスターの目が俺たちに向けられる。


「ええ。最後に渾身の魔力を込めた魔法をぶち込んだあと、海皇亀の反撃と思われる攻撃を受けました」


「それがあの、白い柱というわけか」


「はい。どうやら海中から放たれたようで、発射直前はちょっとだけ泡が海の中から出てました」


「なるほどのぅ……。そういえば、海皇亀の進路は変えられたかの?」


 全員を見回すと、最後にリンフォードへと視線を固定する。


「どうでしょう……。奴の進行速度は遅いので、ある程度進んでみないとわからないと思いますが……」


「そうか」


 眉間に皺を寄せて答えるリンフォードに、なんとなく察したギルドマスターがポツリと呟く。


「それは明日にでもまた別途調査をするかの。ところで――」


 ローウェルに指示を出すと、真面目な表情で今度は俺たちに向き直る。


「そのまま海皇亀を相手にしたとして、倒せると思うかね?」


 真剣なギルドマスターの問いかけに即答することはできない。おそらく今日与えたダメージも翌日には回復しているだろう。今のままじゃダメなことは明白だ。


 だが――


「全力は尽くしますよ。……ただ、上陸する前に仕留められるかはわかりませんが」


「そうね。今日以上のダメージを与える方法の案はあります」


 莉緒と顔を見合わせると、大きく頷き合う。


「リンフォードさんの魔法を見て思いついた方法があるので」


 俺の言葉にリンフォードの眉がピクリと持ち上がる。


「ほぅ、オレの狙撃魔法か。専売特許というわけじゃないから真似るのはかまわんが……、一朝一夕でできるものじゃないぞ?」


「ありがとうございます。そんなにすぐできるようになると俺も思ってませんよ。あくまで参考にさせてもらうだけですから」


 いくらなんでも今日明日には無理だろう。リンフォードの感覚では年単位なんだろうが、マシマシスキルを持つ俺たちだ。数日でものにして見せる。


 俺の発言に文句を言う者は、この場に誰もいない。

 そしてニルは数名の冒険者たちからもふもふされ、いろいろと餌付けされていた。

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