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第143話 岬から見えたもの

「はあぁぁぁ、やっぱりワカメ食ってると味噌汁が飲みたくなるなぁ」


「あはは」


「いやホント、莉緒の作った味噌汁が飲みたい」


「そうねぇ。私も柊に作ってあげたい」


 なんとなくプロポーズの言葉みたくなってしまったが、もうすでに夫婦なので深い意味はない。普通にマジで味噌汁が飲みたい。


「どこかに味噌ないかなぁ」


「醤油も欲しい」


「刺身食ったときも思ったけど、ワカメでもう耐えられなくなってきた」


 本当の名前はワカメじゃないけど、もう俺の中であれはワカメになっている。


「うん。こうなったら米も合わせて探そうか」


「よし、次の目標も決まったところで、ちょっと街の外でも散歩しようか」


 実をいうと東に見える岬がどうなってるか気になっていたのだ。小高い丘のようになっていて、見晴らしがよさそうだ。

 海藻を採集しまくった日の翌朝、莉緒と二人で手をつないで海岸沿いを東へと歩いて行く。ここから見ると、陸地から海側に向かって空に登っていく坂道になっている。そして岬の先端は断崖絶壁となっていて、もちろんそのまま進めば海へと真っ逆さまだ。


「あれ、岬の向こう側にも港があるぞ」


 岬のふもとから先端に向かって登り始めたとき、向こう側の景色も視界に入ってきた。そこには大きな桟橋が二つと、倉庫のような大きな建物があった。ただし船は一切停泊しておらず、人影も見えない。


「ホントだ。なんだろね?」


「まぁ今はここを登ってみようか」


 ここまで来ると街からはちょっと遠い。道は整備されているからちゃんと生きてる施設なんだろうけど、後にしようか。ギルドで改めて聞いてもいいし。


「うわあ……」


 頂上である先端まで登りきると視界が開ける。見渡す限りの海だ。空は晴れ渡り波も穏やかだ。通り抜けていく風も気持ちがいい。

 漁に出ている船もあるのか、ちらほらと海上に点のように見える。水平線の向こう側には多少靄がかかっているが、小島らしき影がかろうじて見える。前に護衛依頼で乗った船から見えたやつかもしれない。

 ここから見えるくらいなら飛んで行けないこともないな。


「おー、すげーなこの景色……」


 崖下を覗き込んでみると、ごつごつした岩肌に波がぶつかり飛沫を上げている。ちょっと釣り糸を垂れるにはここは高すぎるかもしれない。

 振り返ると莉緒が両腕を広げて風を全身で受けていた。隣に並ぶと同じように腕を広げて大きく伸びをする。


 ふと隣に視線を向けると莉緒と目が合った。微笑み合いお互いに歩み寄って抱きしめ合うと、自然と唇が触れる程度の口づけを交わす。


「なかなか落ち着く場所だと思うけど、誰もいないわね……」


「邪魔が入らなくていいじゃない」


「そうだけど、やっぱり観光する人って少ないのね」


「だなぁ……」


 岬の上から誰もいない港を見下ろす。


「次はあっちに行ってみようか」


 気になった俺たちは岬から引き返し、街の反対側にある港へと向かったが。


「ありゃ、立ち入り禁止だって」


 看板が立ててあり、太い綱で入り口が封鎖されていた。


「うーん。誰が見張ってるわけでもないし、入れそうだけどやめとこうか」


 好奇心だけで事を荒立てることもない。

 二人と一匹は街へと引き返すことにした。




「岬の向こう側の港ですか?」


 ところ変わってここは冒険者ギルドである。わからないことは何でも聞いてしまえばいいのだ。


「あっちの港から向こう側は国の施設よ」


「そうなんですか。軍事施設ですかね」


「そうなりますね。なので無断で入らないようにお願いします」


 おっと、危ないところだった。無断で侵入だけならともかく、下手に情報を知ってしまったら大変なことになるところだった。

 にしても軍事施設の割に見張りもいないとか大丈夫なんだろうか。


「二か月に一回くらい大きな船が定期的に入ってくるんだけどね、何をやってるかはわからないですね」


「へー」


 いち冒険者には教えられないだけなのか、本当に知らないのかはわからないけど、どうしても知りたいわけでもないのでここまでにしておく。


「あ、そういえば話は変わりますけど、この海の向こうに小さい島でもあるんですかね」


「島?」


 訝し気にギルド職員が首を傾げるが、ただの島だぞ。


「ええ。岬の先からかすかに小島っぽい影が見えたんですけど、何があるのかなと」


「……海の先に目に見えるような島なんて存在しませんが。陽炎でも見えましたか?」


「えっ? いやいや、数日前に船の護衛依頼受けた時も船上から見えましたよ?」


「そんなはずは……」


「護衛の時は気づかなかったですけど、私も岬から小島みたいな影は見えましたよ」


「そう、ですか……」


 思ってたのと違う反応に莉緒と顔を見合わせる。実際に小島なんてものは海上に存在しないような雰囲気だ。ギルド職員も顎に手を当てて何やら考え込んでいるし。


「別室で詳しく話を聞いてもよろしいでしょうか」


 ふと顔を上げた職員がカウンターから出てくると、そう告げてくる。


「こちらへどうぞ」


 が、返事も聞かずについてくるように促される。断る理由もないので、職員に連れられてギルドの三階へと上がると一つの部屋へと通された。


「上の者を呼んでまいりますので、少々お待ちください」


「わかりました」


 二人掛けのソファへと莉緒と腰かけるとニルも近くに寝そべり、職員が部屋を出て行った。


「……思ってたのと違う展開になっちゃったわね」


「そうだな。お気楽観光のつもりだったのに」


 ため息をつきつつも、上の人間が来るまでここで待つしかない俺たちであった。

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