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第140話 狐耳っ子

 翌日も漁師たちは無難に巨大魚を仕留め、目標を達成した大型船は意気揚々と港へと引き返してきた。

 夜営の見張りの最中、見つからないように撒き餌漁をしまくった俺としてもホクホクである。これでほどよいサイズの魚も大量にストックができた。


「よーし、お前ら、獲物の解体だー!」


 そして声高らかに巨大魚の解体が始まる。前に俺たちが巨大魚を釣ったときと同じく、祭りが始まるようだ。


「あんたらの仕事はこれで完了だ。いつもありがとな」


 ゴルドフが俺たちを見つけて駆け寄ってくると、依頼完遂票を人数分配ってくれる。


「いえいえ、僕たちもこのあと美味しいものをいただきますので」


「うんうん。おれもこのために護衛の仕事を受けてると言っても過言じゃないしな」


 丁寧なクリストフと、今にも涎をたらしそうなアリナーである。カントたち四人も頬が緩んでいるし、むしろみんなこれが目当てなんだろう。


「じゃあ、このあとも楽しんでいってくれ」


 改めて俺たちにも声を掛けると、ゴルドフは巨大魚を解体すべくショーの中へと混じっていった。


「僕たちもここで解散しようか」


「じゃあねー」


 クリストフの言葉に護衛をした冒険者のみんなも口々に別れの挨拶をして散っていく。時刻は夕方近くなっているが、先にギルドで報酬を受け取りに向かう者もいるようだ。


「ここで食って宿に帰るか」


「そうしましょう」


「わふぅ!」


 解体されて出てくる日持ちのしない部位が次々と振る舞われる。

 大型船の帰還を聞きつけた街人も、次々と港へと集まってきた。その中にはモグノフもいたようで、こちらに気付いて手を上げて近づいてくる。


「がはは! もうここで食ってるってことは、護衛でこの船に乗ってたのか」


 予告なく始まる解体祭りにいち早く参加する冒険者となると、そう予想することも可能だろう。


「ええ、そうです。なかなか巨大魚を釣りあげるのも大変みたいですね」


「はは……、そうなんだよ。本来は大変なんだよ……」


 俺の感想になぜか遠い目になるモグノフ。テンションも一気にだだ下がりだ。せっかくのお祭りなんだから楽しんだらいいと思うぞ。


「なんにしろ、こうやって美味い物にありつけるのも、船を護衛してくれる冒険者がいるからだな」


「獲ってきてくれる漁師がいるからでもあるでしょう?」


「がはは! 違いない。まぁ両方だがな!」


 軽く会話を交わしたモグノフは満足したのか、じゃあなと告げてそのまま去っていった。




「にしても、また陰に隠れた気配がいるわね」


 振る舞われた海産物を食べ終わるころ、ふと莉緒が路地へと視線を向ける。前に解体ショーの帰りに魚料理を押し付けた狐人族の子どもだ。あの時の気配がするが、今日はもう一つの気配もある。もしかして親だろうか。


「隠れてないで料理もらいにくればいいのに」


「何か事情があるのかもしれないわね」


「あー、うん。他の奴隷は普通にもらいに来てたから気にしてなかったけど、そういう可能性もあるか」


 どういう可能性かはわからないけど、訳ありであれば表に顔を出せないのもわかる。

 まだ残っていた料理を皿に取り分けると、そのまま路地へと向かう。ちらほらと帰る参加者もいるので、俺たちもそう目立たないだろう。


「よう、こないだぶりだな」


「またこっそり覗いてたの?」


 静かに声を掛けると物陰からひょっこりと大きい狐の耳が飛び出してくる。


「あ、待て!」


 と思いきや、腕がもう一本伸びてきて飛び出てきた狐耳の子どもを捕まえた。

 保護者なんだろうが、言わんとしていることもわかる。知らない人から食べ物をもらっちゃいけない。……異世界でも通じるかどうかは知らんけど。


「だって!」


 さすがに言い争いをしていては隠れている意味もないと思ったのだろうか。以前見た狐耳の子どもと、その後ろに筋肉質の熊耳をした成人男性が現れた。


「連れ戻しに来た人間かもしれないだろ。……ご飯をくれたからって、気を許しちゃダメだ」


 見れば男の首にも隷属の首輪が巻かれている。鑑定結果からも間違いないようだ。気になる言葉も出てきたが、とりあえず手に持っている料理が冷めてしまうといけないので渡してしまおう。


「ま、待て! それ以上近づくな!」


 と思ったが、相手が手のひらをこちらに向けて制止してきた。思わず足を止めてしまったが、その隙に狐耳の子どもが飛び出してこっちに寄ってきた。


「あっ!」


 男が咄嗟に手を伸ばすがもう遅い。


「うふふ。はいどうぞ」


 莉緒が差し出したお皿を受け取り満面の笑みを浮かべる狐耳っ子。

 やべぇ、なんなのこの子。超可愛すぎるんですけど。


「ありがとう!」


 俺も渡そうとしたが、残念ながらもう持てないようだ。仕方がないので未だに警戒を続ける男へと近づいていく。


「俺たちはただの通りすがりだから気にしなくていいぞ」


 この二人はどこかから逃げ出した奴隷なんだろうか。奴隷についてそこまで詳しくギルドで聞かなかったなぁ。


「くっ……、んなもん信じられるわけないだろう」


 こぶしを握り締めて控えめの声で叫ぶが、こっちとしても証明するすべを持っているわけでもない。


「まぁいいさ。皿は返す必要もない。もともと料理をあげるために来たんだ。あっちの子に腹いっぱい食べさせてやってくれればいい」


 問答無用で皿を差し出すと、渋々といった感じで受け取ってくれた。どうも自分も我慢ができなかったらしい。

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