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第139話 漁師たちの奮闘

 倒した魔物は人型をした二足歩行の魔物だった。手足や背中にヒレが付いていて、全身が鱗に覆われているまさに半魚人といったいで立ちだ。顔は魚っぽくてエラがついているけど、地上に上がってきてまともに戦えたのかどうかは不明だ。


「こいつらって何か売れる部位とかあります?」


 他に近づいてくる魔物はいないため、一旦戦闘態勢は解除となっている。これが俺たち二人だけだったら、問答無用で異空間ボックスに放り込んでギルドでいろいろ聞くんだけどな。


「このサハギンは魔石くらいしかお金になるものはないね」


「そうなんだ」


「じゃあ魔石だけ取り出しますね」


「あーいやいや、女の子にんなことさせられねぇよ。俺たちがやるから」


 莉緒が率先して解体しようと乗り出したが、カントが遮ってきた。

 そう言われたら俺は解体に参加せにゃならんね。

 ちなみに魚の餌になりそうなので、魔石以外はこっちで処分しておくことにしてもらっておいた。


 ――と、俺たちが魔物たちを撃退したあとも、漁師たちの奮闘は続いている。


 船が大きく揺れる間隔が長くなってきている。つまり餌に食らいついた巨大魚が暴れる体力も尽きてきているということだろうか。

 しかし釣り上げるまではまだまだ時間がかかりそうだ。動かない間にクレーンのリールをゆっくりと巻いているが、暴れる間は止めているので離れていくこともある。気配探知によると、まだ500メートルはリールを巻かないとダメなのだ。


「よーし、今だ引けーーー!!!」


 獲物が大人しくなった瞬間を感じ取った漁師が、一斉にリールを巻き取るべく動き出す。

 うん。まさかあのクレーンリールの巻き取りが手動だとは思わなかった。漁師が十数人がかりで大きいハンドルを回してリールを巻いていく。


「うーむ……」


「どうしたんだ?」


 そんな漁師たちを悩まし気に眺めていると、クリストフが声を掛けてきた。


「いやぁ……、巨大魚とはいえ、こう時間をかけて釣りあげられるのを見てると、手伝ってさっさと仕事を終わらせたくなってきたなぁと思って」


「それはそれで、漁師たちの仕事を奪うことになりそうだし、やめておいたほうがいいと思うよ」


 正直な感想を告げると苦笑いが返ってきた。それはもちろんわかってるんだけど、どうしてもね……。


「っていうかどうやって手伝うんだよ」


「相手は海中だしなぁ」


「巨大魚とまともに綱引きやればクレーンが壊れちまうしな」


 カントたちから次々と疑問の声が上がる。

 陸上で活動する生物にとって、水の中というのはなかなか自由に行動ができない環境ではある。海中に向かって魔法を放っても、威力は激しく減衰……どころか水中を突き進めない魔法もあるだろう。


「そこはまぁいろいろとやり方はあると思うけど……」


 莉緒が巨大魚がいる反対方向へと手を向けると、船から離れた海上へと魔力を練り上げ、真下の海中へと魔法を放つ。ほぼ音もせず海中へと発射されたのはアイスニードルかな。


「んん? ……何をやったんだ?」


 アリナーだけが反応したのは、この中で唯一の魔法職だからだろうか。つられて他のメンバーが莉緒に視線を向けるが、当の莉緒は船べりまで行くと海面を見つめている。


「あ、ちゃんと当たった」


 どうやら仕留めた魚が浮いてきたらしい。


「そうか。釣ることを考えないなら、そうやって魚を獲るのもありだな」


 感心しながら呟いていると、莉緒が仕留めた獲物を魔法で浮かせて取り寄せていた。一メートルくらいの手ごろなサイズだ。

 同じく船べりへと身を乗り出して海面を観察する。『どうやって仕留めた』などと背後で騒がれているが、そっちは莉緒に任せよう。


 念のため周囲を見渡すが、遠くに小島っぽい影が見える以外に何もない。海上は問題なさそうだ。改めて海中に気配察知を精密に発動するとマップと連動させる。そこそこ魚はいるけど、群れているわけではないのでまばらだ。


 ……これはもしや、撒き餌をして魚を集めれば大漁になるんではなかろうか。大きい餌じゃなけりゃちょうどいいサイズの魚が集まるだろうし。念のためちょっと離れたところでやろうか。


 500メートルくらい離れたところで異空間ボックスを開き、細切れにした肉片を海へとばら撒く。すぐに小魚が集まってくるが、しばらくすると手ごろなサイズの魚も集まってきた。


 うむうむ。やっぱりでかい餌じゃなけりゃ巨大魚は寄ってこないみたいだな。


 莉緒と同じようにアイスニードルを離れたところで発動させると、マップと連動して照準を付ける。魔力制御は莉緒より劣るが、こうやって魔法以外のスキルと連動させればいろんなことが器用にできるのだ。


「よし、発射」


 二十個ほどのアイスニードルが、集まってきた魚へと発射される。ほどよく海面へと集められた魚なので外すこともない。中には沈んでいく魚もいたが、持ち上げてすべての魚を異空間ボックスへと回収した。


 一仕事終えた後に振り返ると、アリナーだけがまじまじと目を見開いて、さっきまで俺が漁をしていたあたりに目を凝らしていた。そしてその視線がゆっくりと俺に向けられる。


「シュウさんの仕業ですか……?」


「あ、バレちゃった?」


 さすが魔法職である。こっそりやったつもりだけど、わざわざ護衛の仕事中にやることでもなかったかもしれない。


「まあいいですけど」


 ちゃんと仕事さえしていれば文句を言われないのはありがたい。

 気が付けば漁師たちの奮闘も実を結んだのか、クレーンには八メートルくらいの巨大魚がぶら下げられており。


「獲ったどーーー!」


 漁師たちからは喝采の声が上がっていた。

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