第125話 エピローグ
「じゃあそろそろ海へ向かいますかー」
「おー!」
ここ商業国家アレスグーテでやることもなくなった。晴れて本来の目的であった海産物を目指して南下することにした。
「……?」
じーっと見つめていたら首を傾げられてしまった。なんでもないので気にしないでください。
「あ、そういえば」
「うん?」
ふと何かを思い出したのか声を上げた莉緒に相槌を打つ。
「神殿にいたお婆ちゃんいるじゃない」
「ああ」
「結婚式の時、『女神さまの祝福がすごかった』って言ってたけど、祝福って実際なんなんだろうね?」
「そういえばそんなこと言ってたな」
祝福をもらったらどうなるんだろうか。鑑定結果で苗字が変わるのはわかったけど、他にも効果があったりするんだろうか。
「てっきり苗字が変わるだけかと思ったけど」
「ちょっと気になるじゃない?」
「はは、そうだな。じゃあ最後にあの婆ちゃんに聞いてみるか」
「うん」
こうして俺たちはひとまず宿をチェックアウトして神殿に向かった。
「なんじゃい? 女神さまの祝福のことが知りたいと?」
神殿の中に入ると神官服を着た婆ちゃんに声を掛けられたので、さっそく聞いてみた。
「そうなんです」
「そんなことも知らなんだのか」
得意げに胸を張ると、女神さまのことをいろいろと教えてくれた。
どうも神殿はこの女神さまを信仰しているようで、このヘルメウス神殿では運命の女神フォルセナ様を祀っているそうな。
「女神さまは三姉妹いるでの。他には豊穣の女神フロンティア様と、太陽と月の女神フィルステイル様がおられるでの」
基本的に神殿で祀るのは一柱の女神さまのみとのことだ。
「へぇ、そうなんですね」
「この世界の神様って、その三姉妹の女神さましかいないんですか?」
ついでなので俺がこの世界に来る前に会った神様について聞いてみることにした。
「例えば白い髭と髪をしたお爺さんの神様とか」
「んん? そんな神様がいるとは聞いたことがないでの。三姉妹の女神さま以外にも眷属となる女神さまはいらっしゃるが……」
なんだって……。あの爺さんは神様としてこの世界では知られてないのか? 割と記憶もおぼろげになってきて顔は思い出せなくなっているが、この世界にきたときにスキルを選ばせてもらった神様がいたことはしっかりと覚えている。
「オホン。それにしても女神さまの祝福のことじゃったな」
考え込んでしまった俺に、婆ちゃんが本来聞きたかったことの続きを聞かせてくれる。
「祝福とは女神さまが光ることによって与えられるもののことを指すんじゃよ」
結婚の儀で祝福を授かることが多いらしいが、それ以外でも女神さまに祈りをささげると祝福してもらえることがあるとか。結婚の儀の時が多いというのは、苗字が変わるという現象を引き起こすためと言われているらしい。祝福には何か効果があるのは間違いないらしいが、それが目に見えてわかるかと言われるとそうではないとのこと。
「怪我が治ったり、身体能力が多少上がったりといった効果が出た者もいるようじゃが、どういう効果があったかわからんという者が大半じゃの」
「なるほど……。運がよければ何かあるかも、くらいに思っておいたほうがよさそうってことですね」
「そうじゃのぅ」
ぱっとわかるものでもないということだが、これはもしかしたら何かスキルが生えている可能性があるかもしれないぞ。この世界だと職業は鑑定できても、スキルはわからないからなぁ。
「わかりました。ありがとうございます」
「ああ、わからないことがあれば何でも聞いておくれ」
こうして俺たちは神殿を後にした。
「祝福ねぇ……。女神さまが光った時、莉緒には何か変化あった?」
街の南門に向かって歩きながら、莉緒に声を掛ける。
「え? うーん……。特に何もないと思うけど……」
「そうだよなぁ。俺も何かあったかって言われると実感は何もないし」
「そうねぇ。……師匠に鑑定してもらえればわかるかもしれないわね」
「あはは。今鑑定されても、祝福で増えたスキルかどうかはわからないけどね」
「確かにそうね。でも今持ってるスキルはわかるわよ」
「だよなぁ。ちょっと俺も鑑定スキルのレベルアップがんばってみるかなぁ」
とはいえ、どれくらい上げればいいかも未知数なんだよな。師匠の鑑定もスキルの種類はわかったけど、レベルまではわからなかったし。
「私も鑑定は使えるけど、名前しかわからないからね」
「名前だけでもわからないよりはいいからな」
俺の言葉に莉緒も大きく頷いている。滅多にないが、俺たちだって単独行動をすることもある。
なんにしろ今後はもっと鑑定スキルを使っていくようにしよう。
=====
名前:水本 莉緒
=====
「えーっと、確か南のグローセンハング帝国領までにあと二つ街があるんだっけか」
莉緒の鑑定結果に満足しつつ、次の目的地について話を振る。
「うん。乗合馬車で三日のところにアグレクトっていう街があったはず」
「なるほど。まずはそこだけど、どうする? 乗合馬車に乗っていくか?」
暗に野営用ハウスが使いづらくなるぞと伝えてみると、莉緒はそれを察したのか首を横に振る。
「せっかくベルドランさんたちに作ってもらった家具を使ういい機会じゃない」
「はは、確かにそうだな。よし、歩いて行くか」
「そうしましょ」
こうして俺たちは職人の街レイヴンを後にした。
これで第二部完結となります。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
少しでも面白いと感じられたのであればブックマーク、☆をつけていただけると大変励みになります。