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第124話 女神さまの祝福

 夢を見ていた。

 これは夢なんだと夢の中でわかるあれだ。

 何しろ自分自身をドローンのごとく空中から見下ろしているこの状況は、夢でないとあり得ないだろう。


『それにしても懐かしいな……』


 そこは学校の教室だった。

 放課後なのか生徒たちがカバンを持ってぱらぱらと教室を出ていく。

 俺はというと教室の隅で教科書をカバンに詰め込んでいた。いつもだとある程度クラスメイトがいなくなってから教室を出て、一人で家路につくのだ。


 試しに自分へと近づこうとしたが動けない。きっと夢なんだから見ているしかできないんだろう。さっきも声を発したつもりだったけど、耳へは自分の言葉が入ってこなかった。

 しかしなぜこんな状況になっているのかよくわからない。さっきまで神殿で莉緒と二人で結婚式を挙げていたと思うんだけど。


 しばらくすると教科書をカバンに詰め終えた俺が、教室を出て階段を降り、昇降口まで出てきた。靴を履き替えると、昇降口の前にいた一人の生徒へと声を掛けている。


「ごめん、待った?」


「ううん。大丈夫よ」


『……えっ?』


 そこにいたのは莉緒だった。少しぽっちゃりとしていて、異世界に召喚される前の体型のままに見える。っていうか、俺って学校じゃボッチだった気がするんだけど、いつの間に女の子と喋れるようになってんの? しかもよりにもよって相手が莉緒って。


 混乱しつつも二人を観察していると、莉緒から指を絡め合いながら手をつないでいる。びくりと反応した自分が莉緒へと顔を向けるが、莉緒から満面の笑顔が返ってくるとふいと顔を赤くして逸らしている。


『はは……』


 思わず乾いた笑いが漏れるけど、なんだかちょっと安心した。異世界に召喚された俺は、日本にいる自分の魂をコピーされたものだと聞いた。だから召喚されない俺は今まで通りボッチのまま、何も変わらず生き続けるんだろうと漠然と思っていた。


 だけどそうでもないらしい。

 いや、今見てる光景が日本にいる自分などという保証なんてないんだけど、そう思ったっていいじゃないか。


 莉緒の話にぎこちなく返事をしつつ下校する自分たちを見ていると、徐々にこの世界から引きはがされていく感覚に襲われる。この夢の時間の終わりが近づいているんだろう。

 だけど、こっちの自分も幸せそうにしていることがわかっただけでも満足だ。そう思ったところでまたもや視界が真っ白に塗りつぶされた。




「うむうむ。これで二人は晴れて夫婦となった」


 気が付くと神殿へと戻ってきていた。女神像の輝きも鳴りを潜め、通常通りの神殿の様子になっている。周囲からの「おめでとう」の言葉や拍手も聞こえるが、あまり耳に入ってこない。


「柊?」


 真正面にいる莉緒が脇腹をつついてくる。


「え? あ、ああ。うん。……大丈夫」


 莉緒の頬へと手を差し伸べると、もう一度唇へと軽く口づける。


「あはは、もう、柊ったら」


「ひっひっひ、さっそく見せつけてくれるではないか。これだけ女神様からの祝福がすごかったことは滅多にないからの。お前さんたちの未来は保証されたも同然じゃろう」


「そうなんですか」


「ああ、あれほど女神像が輝いたのを見たのは初めてじゃ。ほれ、そろそろ行かんかい。野次馬が待っておるぞ」


 やっぱり光ってたのは気のせいじゃなかったのか。だとしたらさっき見た夢も、夢じゃないかもしれないな。

 すがすがしい気持ちで後ろを振り返る。


「うわっ」


 思ったよりも人だかりになっていた。歓声と共にまたもや野次と祝いの言葉が飛んでくる。


「すごいわね……」


「うん。……とりあえず行こうか」


 莉緒へと腕を差し出すと、そこに手を絡めてくる。来た時と同様に、ゆっくりと歩いて神殿の外へと向かう。


「シュウ様、リオ様、おめでとうございます」


「フルールさん! ありがとうございます」


「うふふ。お二人がこうして幸せそうにしているのを見ると、わたしも幸せになれた気がします」


「あはは、二人ともすごかったね。おめでとう。ボクからも祝福を送らせてもらうよ」


 次に声を掛けてきたのは、冒険者ギルドのギルドマスターだ。職業柄仕事が忙しいと思うけど、わざわざ来てくれたのか。


「ギルドマスターもありがとうございます」


「なかなかいいモノが見れたよ。こちらこそありがとう」


「おにいちゃん、おねえちゃん、おめでとー!」


 その隣ではベルドラン工房のクレイくんが大きく手を振っている。母親のサリアナさんがぺこりと挨拶をしてくれた。


「お二人もありがとうございます」


 はは……、なんだかんだ言って、誘ってもないのに来てくれる人がいるんだな。

 少し視線をずらせば『天狼の牙』の皆さんがちらりと見えた。軽く手を振って「おめでとう」との言葉をもらう。


「わふぅ!」


 三つに分かれた尻尾を振り回しながら、ニルも俺たちを祝福してくれている。


「わぷっ、だからやめろって!」


 顔じゅうをべろべろと舐めまわされるけど、本気で嫌というわけじゃない。それがわかってるからこそ、やめろと言ってもニルはすぐ止めないんだろうけど。


 うん。この世界の人間も悪くないな。もちろん利己的な人間が多いのは確かで、初対面の人物は信用すべきじゃないのは間違いないけど。だけど捨てたもんでもないらしい。

 俺は今日、そのことを強く実感した。

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― 新着の感想 ―
>これだけ女神様からの祝福がすごかったことは滅多にないからの。 >ああ、あれほど女神像が輝いたのを見たのは初めてじゃ。 「滅多にない」のに「初めて」?
[良い点] 幸せになれよ!!!
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