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第119話 ギルドマスターに遊んでもらおう

「は? えっ……?」


 いきなり断られるとは思ってなかったのか、職員がぽかんと口を開けている。


「いや、ギルドマスター直々のお願いだぞ!?」


 だから何だというんだ。他人の予定を無視してというのはいただけない。


「と言われても」


 本当は予定なんてないに等しいが、なんとなく上から目線で『今から』と言われてちょっとイラっとしたのも事実だ。こうしている間にも他の冒険者に依頼を取られて減っていっている。


「何か依頼を見繕ってからでいいですか?」


「いやいや……っ!?」


 尚も言い募ろうとした職員が急に言葉を詰まらせる。

 どうやら不満に思ったニルが睨みつけていたようだ。どうどう、ちょっと落ち着こうか。

 首周りをもふもふしてやるとニルも落ち着いたようである。


「ちっ、わかったよ。あとでカウンターに来てくれよ」


 ようやくしゃべれるようになった職員が、苦々しい表情を残して去っていった。


「この間会ったギルドマスターはそんなに感じの悪い人とは思わなかったんだけどね」


「だなぁ。あの職員だけなのかな」


「だといいんだけど……。とりあえず依頼を探しましょ」


 改めて依頼ボードへ向かい合うと、やっぱりというか依頼票がさっき見た時より減っている。さすがに職員にああ言った手前、何も依頼を選ばないという選択肢はない。適当に討伐依頼を選ぶと、手間を省くためにもさっきの職員のところに向かった。




「時間取ってもらって悪いな」


 現在と言えば、ギルドマスターと共になぜかギルドの訓練場を訪れていた。

 不満そうな職員に連れられて執務室に顔を出すと、ギルドマスターに職員が睨まれていたのはご愛敬か。どうも俺たちを探していたようだけど、執務室まで来てほしかったわけではなかったらしい。「今すぐ来い」というのは職員の早とちりだったようだ。

 その後にギルドマスターが発した言葉には首を傾げざるを得なかったけど。


「その従魔と模擬戦をやってみたいんだがいいか?」


「はい?」


 思わずニルと顔を見合わせながらも、特に拒否する理由もないのでそのままギルドの訓練場まで来たというわけだ。

 あ、例の職員は通常業務に戻っていったのでこの場にはいない。


「じゃあさっそく始めようぜ」


 軽装備に大剣を担いだギルドマスターはやる気満々だ。訓練用の木剣ではなく真剣を持ちだしているギルドマスターに、ギャラリーも何が始まるんだと集まってくる。

 耳を傾けていると、ギルドマスターは元Aランクの冒険者だったらしい。単体でCランクと言われるシルバーウルフ相手に対して、わざわざ模擬戦をしたいというくらいだ。きっとニルの正体も知っているんだろう。


「ギルドマスターが遊んでくれるってさ。よかったな」


 ニルの頭をポンポンと撫でながら声を掛けると、三つに分かれた尻尾が嬉しそうにぶんぶん振られる。


「やりすぎないようにね」


 莉緒は釘を刺しているけど、ニルもそこまでバカじゃないだろう。ちゃんと手加減はしてくれるはずだ。


「わふぅ」


 一人と一匹が向かい合う場から離れ、俺たちもギャラリーへと混ざる。

 準備ができたからか、開始の合図もないままにギルドマスターがニルへと飛びかかった。


 最初こそギャラリーから歓声が上がっていたが、徐々にざわめきに変わっていく。文字通りギルドマスターが遊ばれているとわかるからだ。


「しかしこれはひどい」


「うん。さすがに尻尾であしらわれるのは……。柊がニルに、『遊んでくれる』なんて言うから……」


「えっ? 俺のせいなの?」


 思わず莉緒に顔を向けると、苦笑いが返ってきた。

 本当に遊んでしまえるほどに実力差があるとは思ってなかったよ……。


「「「おおおっ!?」」」


 大きくため息をついたところで周りから歓声が上がる。ニルたちへと視線を戻すと、ギルドマスターが空高く吹き飛んでいるところだった。

 空中で何とか体勢を整えると、かろうじて足から着地する。


「くっ……、ここまで、遊ばれるとは、思わなかった……」


 大剣を支えにして息を整えているが、この模擬戦もそろそろ終わりかな。ギルドマスターも限界が近いかもしれない。

 ニルさんや、「もう終わり?」みたいな顔しない。ギルドマスターが可哀そうだろ。


「もう降参だ。さすがだな……」


 大剣を鞘に仕舞い両手を上げると、終わったことを察したニルが俺たちのところへやってきた。微妙に俺たちの周囲のギャラリーと距離を取られるがそれも仕方がない。


「まったく……、レアな魔物を手なずけたもんだな。どうやったんだ?」


 盛大にニルをもふっていると、ギルドマスターもやってきた。どうやったと言われても正直わからん。


「あげたご飯が相当美味かったんですかね?」


 きっとグレイトドラゴンは美味かったに違いない。食いつきはすごくよかったからなぁ。あの森にはいない魔物だし、特別美味く感じたのかもしれない。


「なるほど。テイムの時にはよく聞く話ではあるが、相当美味いもんじゃねぇとダメなんだろうな」


 うんうんと何やら納得しているが、詳しくツッコまれないんであればそれでよし。


「しかし従魔まであの強さとなると、フランセスの言葉にも……」


「……何の話です?」


「ん? あぁ、なんでもねーよ」


 ブツブツと呟きながら没頭するギルドマスターにツッコミを入れるも、はぐらかされてしまった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 種族隠してるのに衆人の前で模擬戦とか馬鹿なのかな?
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