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第113話 スマートフォン

 スマートフォンと聞いてちょっとだけ思考が止まってしまった。スマートフォンっていうとあれだよな。いろんなアプリがあって、メールしたり電話したりできるやつだよな。こんな異世界にもそんな便利な魔道具があったのか。


「さぁどなたか入札される方はいませんか!?」


 司会の言葉が響いているがそれどころではない。


 しかしちょっと待てよ。スマートフォンという名前がついてるだけで、まったく別の魔道具かもしれないよな。ああ見えて実は鍋を乗せたら加熱ができるとかだったりして――


「百万」


 気が付けば誰かがスマートフォンに入札する声が聞こえて我に返る。


「……柊、あれって私たちがよく知ってるスマホだよね」


 直後に掛かった莉緒からの言葉に、やっぱりそう考えるのが自然かと思いなおす。

 視力を強化してオークションに出されたスマホを凝視するが、確かに見た目はそっくりだ。反対側だからか音量や電源ボタンは見えないが、充電するためのUSBポートとかイヤホンジャックらしきものがあるのはわかった。

 ってか司会の人も解析不可って言ってたじゃねぇか。何が鍋を乗せたら加熱ができそうだよ。俺って動揺しすぎか。


「……みたいだね」


「なんでスマホがこの世界にあるんだろう」


「それはわからないけど、俺たちが召喚されたときは手荷物は持ってこれてないよな」


「――百十万」


 莉緒と話をしている間にも、二回目の入札があった。さすがに詳細不明のブツだけあってか、入札のスピードは芳しくない。


「百十万まで出ました! 他にいらっしゃいませんか!」


「百二十万!」


 司会から入札を促す言葉が出たとき、思わず叫んでしまっていた。莉緒からも特に文句が出たりはしない。なんとなく地球のものを手元に置いておきたい衝動に駆られただけなんだけどな。


「出ました百二十万!」


「さすがにもう電源は入らないわよね」


「だと思うけど……」


 今回俺を含めた九人が召喚されたけど、俺たち以外にも召喚された人間がいないとも限らない。さすがに清水たちがスマホを持ち込んでいて、それがこの国にまで流れてきたとは思えないし、きっと他に召喚された『先輩』がいるんだろう。いや、それしか考えられない。


「他にいらっしゃいませんか? …………ではこの『すまーとふぉん』は百二十万フロンでの落札となります!」


 無事に落札となったからか周囲から拍手が巻き起こる。とはいえ入札数が少なかったからか、そこまで盛大な拍手というわけでもない。

 しかしまぁ落札は落札だ。初めてのオークションで落札できたことに、俺はちょっとした満足感を覚えていた。




「オークションはいかがでしたか?」


 初日が大盛況……かどうかは比較できないのでわからないが、無事に終わったところでフルールさんに感想を尋ねられた。


「初めて参加しましたけど、けっこう面白かったです」


「うーん……。かわいいアクセサリとかもあったけど、普通のお店でも買えそうだって思ったら入札しようと思えなくて」


「あー、すげーわかる。普通に売ってんじゃね? って思っちゃうとなかなか」


「あはは」


 スマホを落札はしたけど、それでも百二十万フロンだ。所持金を考えれば誤差みたいな金額だけど、なぜか手が出なかった。


「とりあえず落札した商品を受け取りにいきましょうか」


「はい」


 会場から人がほとんど出て行ったあたりで席を立つ。途中で人の流れとは違う方向へと通路を曲がり、商品の受け取り場所へとやってきた。というか商品を出品するのに納品しに来た部屋だった。


 納品時と異なり簡易カウンターができていた。スタッフが何人か並んでおり、その前でやり取りしている人たちがちらほらといる。たぶん他の商品を落札した人だろう。


 ほどなくして自分たちの番が回ってくる。百二十万フロンを支払えば終わりだ。受け取ったスマートフォンをしげしげと眺めてみるけど、元の世界でよく見たスマートフォンと同じように見える。


「やっぱり電源は入らないか」


「さすがに充電はできないわよね……」


 電源ボタンを長押ししてみてもうんともすんとも言わない。完全に電池切れのようである。むしろ電池が残っているほうがすごいとも言えるが。


「あの、……お二人はそれが何かご存じなのですか?」


 しばらくスマートフォンをいじっていると、フルールさんがおずおずと声を掛けてきた。


「あ、すみません。なぜ落札されたのかちょっとは気になっていたんですが……」


 フルールさんの言葉に莉緒と顔を見合わせる。俺たちがアークライト王国に別世界から召喚された人間だとは伝えていない。そんな世界の道具なんてどう伝えればいいのやら。

 特に秘密にしてるわけでもないといえばないんだけど、説明するのが面倒だ。


「あー、ちょっと俺たちが知ってる物に似てたので懐かしいなと思って落札したんですけどね」


「えっ? ……それじゃあ」


「まだ確証はないですけど、もしかするかもしれません」


 続く莉緒の言葉にフルールさんの目が見開かれる。


「そ、それってすごいことじゃないですか!?」


 なんでしょう、その反応。ちょっと驚きすぎやしませんかね。俺たちからすればただのスマホだし、ありふれた物なんだけどな。


「だって、第二魔術研究所ですら解き明かせなかったものをご存じなのですよね!」


 そんなに大したことなのかと思っていた俺たちに、フルールさんから驚きの原因が伝えられるのだった。

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