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第107話 盗賊の捕縛

 街道を進んでいると、道を塞ぐようにして二人の男が立っているのが遠くに見えてきた。左側は街道傍まで森が迫っており、反対側は岩場になっていて絶好の襲撃ポイントだ。


 視力を強化しているので、一キロくらい離れているけどよく見える。俺とニルは、馬車がギリギリ見える、街道をかなり外れた場所を北上している。


「止まってくれ!」


 聴力も強化すると、街道に立ち塞がっていた男が叫ぶ声が聞こえてきた。街道わきに潜んでいる三人ずつ二組の場所を通り過ぎたあたりだ。俺とニルはさらにその後方に位置している。


 すれ違える広さはあるが、緊急事態発生という可能性もあるため完全無視というわけにもいかずにアリッサさんは立ち止まる。


「どうかしたのか?」


 馬車を止めると、先頭を進んでいたアリッサさんが代表して男に話しかけている。

 ……っと、どうやら後ろに潜んでいるやつらに動きがあるな。ちょっとした魔力の動きが感じられる。あ、莉緒も気づいたのかな。フォースフィールド張ったか。


 こうして後ろから見てると全体の動きがよくわかるな。


「仲間が怪我しちまってな……。ちょっと手伝ってくれると助かるんだが」


 なるほど。そうして油断して様子を見に近づいたところに、後ろから不意打ちを入れるってわけなのかな。


「こっちだ」


 手招きをしつつこちらに背を向けて、街道の左側の森へと向かう男二人。こっちはあんたたちを警戒してませんよとでも言いたげだが、他に潜む気配が感じられる時点で怪しさ満点だ。残り十二人全員が怪我人とでも言うなら別だが、見えない四隅にいる時点でダメだ。


 というか依頼人の了承も得ずに、護衛対象から離れてのこのことついていくわけないだろう。


 アリッサさんに教えてもらったことを思い出しながら心の中でツッコむけど、相手はそういった護衛の常識も知らないんだろうか。


「おい、こっちだ! 早く来てくれよ。一刻を争うんだ!」


 しびれを切らした相手が振り返って告げるが、アリッサさんはちょうどフルールさんにお伺いを立てているところだ。

 だけどしびれを切らしたのはこの男たちだけではなかったようだ。後方の森と岩場に隠れていた場所から、矢と魔法が飛んできた。


「ちょっ、まだ早ぇだろ!?」


 それを見た男たちが慌てて腰にぶら下げた剣を抜き放って迫ってくる。

 こいつら全然連携がなってないぞ……。まぁでも、向こうから襲い掛かってきたのは明白だし、こっちからも出るとしますかね。


「じゃあニル、そろそろ行くか。ニルは向こう側ね」


「わふぅ!」


 俺たちが飛び出すと同時に、飛んできた矢と魔法が莉緒のフォースフィールドに弾かれる。


「なにっ!?」


「ど、どうなってんだ!」


 浮足立った正面の相手に向かって、アリッサさんたちが馬を降りた状態で迫る。俺たちも後方から矢や魔法を撃ち込んでいたやつらの元へとたどり着くと、気づかれない間に後ろから手刀を叩き込んだ。

 ニルも街道の向こう側にいた相手をぶっ飛ばしている。ギャグマンガみたいに宙を飛ぶ人間に合掌しつつ、俺たちもみんなに合流した。


「そこに隠れてるやつらも出て来いよ。いるのはわかってるんだ!」


 危なげもなく男二人を倒したアリッサさんが、前方に向かって声を張り上げる。……が、なかなか出てこようとしない。街道の左右にいるから、相手が先に出て行けば自分は助かるとでも思ってるんだろうか。


「出てこないなら魔法を打ち込むぞ」


 向こうから見えやすいように、頭上に直径一メートルくらいの火の玉を浮かべて岩場へ照準を向ける。隣でも莉緒が頭上に氷の槍を十数本浮かべて森へ向けている。


「……出てこないな」


 ぽつりとアリッサさんが呟くけど、言葉通りに相手に動きがない。というかアリッサさんたち三人とも、俺たちに注目していて相手を見てないんだけど大丈夫なのか。


「向こうからこっちの魔法見えてないのかな」


 頭上の火の玉の大きさを二倍ほどにすると、さらに見えやすいように上空へ移動させる。莉緒も同じように氷の槍を増やすと頭上に掲げた。


「待て、待ってくれ!」


 慌てて飛び出してくる男たち。気配の数通り森から二人、岩陰から四人が姿を現した。あまり整っているとは言い難い、前衛向けの装備をした男たちだ。

 うめき声をあげて街道で倒れている人数を合わせると、確かに全員で十四人になる。


「あなたたちは全員盗賊なのですか?」


「……くそっ、聞いてた話と違うじゃねぇか」


 馬車を降りていたフルールさんの問いかけに答える人物はいないが、聞いていた話ってなんだ。

 盗賊ともなれば捕まれば犯罪奴隷に落とされてしまうのがオチだ。返り討ちにされて殺されても文句は言えない立場なので、わざわざ自分で認める人間はいないのだろう。


「私たちを襲ったことに違いはありませんので、どちらでもいいですが……。聞いていた話と違うというのはどういうことですか?」


「けっ、オークションに出品する商品を、初心者護衛をつけて移送するって噂を聞いただけさ」


「噂?」


「なのになんだよ! その従魔といい、あんたらの魔法といい、反則じゃねぇか!」


 逆切れされても困るんだが。

 なんにしろ、捕まえた盗賊は街の衛兵に引き渡せばいいんだっけか。犯罪奴隷として売ったお金が、いくらか報奨金としてもらえるとアリッサさんが言っていた。


「もうすぐ日も暮れますし、とりあえず全員連れて出発しますか」


「……全員ですか?」


 ぐるりと周囲を見回すフルールさん。倒れているやつも含めて全部で十四人だ。


「大丈夫ですよ」


 土魔法で檻でも作れば問題ないだろう。

 というわけで十四人が収容可能な格子付きの檻を土魔法でさっと作ったところ、(わめ)いていた盗賊たちが静かになった。

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