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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

待避線跡

僕は、今年採用されたばかりの、通勤電車の運転士。


僕は、大の鉄道ファンでもある。

僕の好きなジャンルは、線路である。特に、駅の構内にある線路の配置図を見るのが好き。

そんな僕が、運転士になるだいぶ前から気になっていた駅があった。


その駅は、片面ホーム2面で、2線の駅。

つまり、上りホーム1本とそれに沿う線路が1本。下りホーム1本とそれに沿う線路が1本という、各駅停車の電車が停車する駅としては、最もポピュラーな構造の駅。

また、快速電車や特急列車の通過待ちをする駅でもない、つまり待避線のない駅であった。


しかし鉄道線路ファンである僕は、その上りホームの構造が妙に気になっていた。線路がある側と反対側にも、おかしな空き地があったのである。その空き地は、ホームに沿うように細長く続いており、僕はピンときた。

『待避線跡に違いない!』


ただ、この駅の歴史沿革をいくら調べても、かつて待避線があったという記述を見つけ出すことができなかった。あるいは、計画だけ立てて、土地を確保していたが幻に消えたかもしれない。しかし、計画にもなかった。


普通の鉄道ファンなら、そこであきらめるに違いない。

しかし、僕は幼い時からの線路ファン、筋金入りの線路マニアである。

『この駅の上りホームには、かつて待避線があったに違いない!!!』

と信じ、ひたすらその資料を探しまくったり、人に聞いたりした。

鉄道会社の上司や幹部たちにも、会うたびに

「あの駅の上りホームには、昔、待避線がありましたよね?」

と僕は尋ねていた。

僕のあまりにも執拗な問いかけに、やがて社内では僕のことを

<待避線狂い>

と揶揄して呼ぶようになっていた。


それから数年、経った。

僕は、運転士として電車を走らせながら、その駅の上りホームを毎日、見つめていた。

上り電車を運転するたびに、その駅には実は待避線があるが、何かの事情で人の目から隠されているのでは?という考えに取りつかれることがあった。


そんなある日の昼下がり、僕は、いつものように上りの回送電車を運転していた。

その駅の上りホームが視界に入ったが、僕は、目を疑った。

「待避線が…、ある!?」

スピードを落とし、前を見ると、なんと?本線の信号機が赤で、待避線の信号機が青であった。

僕は、狂喜した。

『やはり、待避線があったんだ。なぜ今日、出現したのか知らないが、やはり隠されていたんだ』

僕は、一旦停止させていた電車に、加速をかけた。

電車は、その駅の上りホームの待避線にすべるように入っていった。


<○○駅で、事故、発生。上り回送電車が脱線して、駅舎に激突。運転士1名が、死亡>

30分後、そのような速報テロップが、テレビに流れた。


やがて現場検証が行われたが、皆いちように首をかしげた。

電車のスピードは、その時、20キロメートル毎時しか出ておらず、脱線するにしてはあまりに低速だったのだ。しかも、直前で一時停車したことも、目撃証言から判明した。

電車の車輪や車軸にも脱線した跡は全く認められず、レールも傷一つ付いていなかった。

そして、激突されたはずの駅舎にも、傷がゼロであった。

さらに、電車のどこにも傷が見当たらず、運転士ただ一人だけが絶命していた。しかもおかしなことに、彼の体のどこにも外傷がなかった。彼は、にっこりと微笑んで亡くなっていた。


数時間後、電車がクレーンで吊り上げられた。

「おい、なんだ、これは?」

作業員が、声を上げた。

電車が地面の一部にのめり込んでいて、その掘られた土の中にきれいに並んだ枕木があった。

そう、この駅の上りホームには、かつて待避線があったことが分かったのである。鉄道会社は、合併を3度繰り返していてその間に資料が失われていたのであった。


その駅は、鉄道線路ファンたちの間で、一躍ブームになった。

鉄道会社も、観光キャンペーンを行い、毎日盛況となった。

しかし、あの待避線マニアな運転士の顔と名前を思い出す者は、誰もいなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても楽しく拝読しました♪ 少ない文字数でもきちんとした設定があって、凄いなぁと思いました。 待避線マニアの運転士さんが幸せそうな最後で良かったです。 人知れず、今の駅を見守ってくれていそ…
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