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ざまぁ展開を待ち望んでいたけど仲間が優しすぎた件。

作者: ゆ♨

こんなざまぁがあってもいいじゃない。


 ついにこの時が来た。

 俺にも復讐の神様が微笑んだのだ。


「これであいつらを見返すことができる……!」


 幼馴染4人で結成されたパーティーで、戦闘力皆無のこの能力のせいで長らく雑用兼荷物持ちとしての地位をキープしてきた俺だったが、もうそんな日々とはおさらばだ。


『トラッシュボックス』


 人は俺の能力をそう呼ぶ。……というか、俺が土下座して頼み込んでやっとこの名前で定着させてもらった。

 だって能力名が『どこでもゴミ箱』じゃあまりにも可哀想じゃないか。俺が。


 まあ実際に能力を一言で説明をしてみろと言われれば『どこにでもゴミ箱を出せる能力』と答えるしかないのが痛いところだった。


 なんせそれまでは『人がゴミとして認識した物をその場に開けた異空間に捨てることができる』能力だと思っていたのだから。


 しかし、それは大きな間違いだったのだ。


「まさか『トラッシュボックス』にこんな隠された力があったとは夢にも思わなかったぜ……」


 俺は手元で輝く黄金の剣を見つめながら、部屋でひとり呟いた。


 柄に宝石が散りばめられた豪奢な剣。握るだけで溢れ出るほどの魔力を感じるし、ただのお飾りというわけではなさそうだ。


 こんな大層な代物、当然俺の所有物ではない。だが、決して盗品というわけでもない。


 俺はただ、あの異空間からゴミとして捨てられていたこいつを拾ってきただけなのだ。


「それは偶然の出来事だった――」


 ……自室で一人回想に浸るというのも恥ずかしいものがあるが、この際どうでもいい。

 なんてったって今日から俺は勇者にだって英雄にだってなれるのだから。

 それじゃあ仕切り直して。


 それは偶然の出来事だった。


 俺がいつものように、いらなくなった物を捨てようと異空間を広げていたら、酒に酔っていたせいで足を滑らせ、俺ごと異空間に入り込んでしまったのだ!


 ……所有者がゴミとして認識した物しか入れないはずの異空間に。


 どうやら俺は深層心理で自分のことをゴミだと思っていたらしい。まさか自分を捨てることになるとは。

 いやここは問題ではないんだ。……問題意識はもってるけど。

 それよりも眼前に広がる空間の方が大問題だった。


「なんか足場がないみたいで落ち着かないなぁ……」


 異空間。

 いつもは、底なし沼みたいな真っ黒い空間、くらいの認識しかなかった『ゴミ捨て場』。


 実際こうして入ってみると、イメージどおり真っ黒い空間というのは変わらなかったが、俺の他にその中を浮遊する物体がいくつもあるのが目に入る。


 それは紙くずだったり、破れた服だったり、食べ残しの骨だったり……。


 俺や仲間がこれまで異空間に捨ててきたゴミたちが、こうして異空間の中をフワフワ漂っていたのだ。


「へぇ、ゴミ捨て場の中ってこんなになってるのか~」


 酒に酔っていた俺は、異空間の中を呑気に泳いでいた。黒い海の中を彷徨っているようで少し怖かったが、呼吸もできるし、なによりワクワクしていたのもあって特に気にせず気の向くまま。


 時おり進路を遮るゴミを弾きながら、あてもなく進む。


 そして、漂うゴミの中でそれを見つけた時、異変に気付いた。


「ん? こんなもの捨てたっけな?」


 それは古い盾だった。

 特に何の特徴もない、冒険者というよりは軍隊が使うような素朴なつくりの盾。全く見覚えがない。


 ここは俺の能力によって生み出された異空間のはず。

 なら、俺が身に覚えのない物が捨ててあるのは不自然だ。

 紙くずとかならまだしも、こんな盾を捨てるとなれば、必ず俺の記憶に残っているはずなのに。


 どうもおかしい。


 俺は辺りを見渡す。

 そもそもこんなに大量にごみが捨ててあること自体が妙なのだ。


 俺の周りを包む異空間には、星が散った夜空のように無数にゴミが点在しているように見える。

 この能力を使ったのは一度や二度じゃないけど、それにしたってこの量は多すぎる。


「ここには、俺の知らない物まで捨てらている……」


 そう確信するには十分だった。

 俺は好奇心の赴くままに、再び異空間を泳ぎ始める。

 もしかしたら、この異空間にはとんでもない物が捨てらているかもしれない。まあ、ゴミとして捨てるような物だし、過度な期待は禁物だが。


 例えばほら、今俺の目の前に漂ってるような金ピカの剣なんて誰も捨てるわけ――


「――って、うぇぇえええぇぇぇ!!??」


 ……というのが事の顛末だった。


 地味な部屋で異彩を放つそれに触れる。

 詳しいことはわからないが、俺にとってはお宝にしか見えないこの剣も、どこかの誰かにとってはゴミだったということらしい。どんな貴族だ!


 だが、要らないというのならありがたく頂戴しよう。

 幸いなことに異空間への行き来は意外と楽で、ゴミ漁り、もとい宝探しにはいつ何時でも向かうことができる。


 異空間は限りなく広いため今回みたく目当ての物を見つけられるかどうかはわからないが、何度か潜っていれば更なるお宝に巡り会えるだろう。


 まあ、こうして俺は最強冒険者への道を一歩踏み出したわけで――


◆◆◆◆


 ――あとは、俺を今までコケにしてきた奴らを見返すだけだ。


「おいなんだよクリフト。お前が俺たちに飯を奢ろうなんて珍しいじゃねえか」


 いかつい鎧に身を包んだ背丈の高い男が俺にもたれかかる。


「いや、日頃世話になってるからさ。そのお礼だよ」


「そうかそうか! まあ確かに日頃世話してやってるからな! ハッハッハッ!」


 そう言って男はバンバンと俺の背中を叩いてきた。

 この鬱陶しく絡んでくる男の名はルシウス。俺のパーティー仲間にして、リーダーを務める男だ。


 ブロンドなびく爽やかイケメン。しかも上級レベルの剣技が扱えるソードマスターでもある。

 つまり、俺の嫌いな要素を全てかき集めて固めたような人間だ。


「も〜ルシウスったらまたそんなこと言って〜! まあ言ってることは正しいから何も言えないけど〜!」


 で、ルシウスの向かいに座って、俺を慰めるどころか積極的に笑っているのがアイシャ。

 ポニーテールにキリリとした目元の女騎士で、そこから溢れ出る強気な態度がどうも好きになれない。そして胸が小さい。


「2人とも笑うのはひどいですよ。クリフトがこうして私たちをねぎらってくれるというのですから、ここはお言葉に甘えましょう。……もっとも大したもてなしは期待できなさそうですが」


「いや、セレスが1番ひどいこと言ってるから〜!」


 アイシャが今度は腹を抱えて笑う。俺も苦笑いで頬が引きつった。


 今俺の心に直接攻撃を食らわせてきたのは、パーティー唯一の魔法職で、常に冷静沈着、ついでに心も(俺にだけ)冷え切っているクールビューティー少女のセレスだ。


 今日も美麗な容姿から放たれる氷の刃の切れ味は凄まじい。

 俺の注文した料理を眺めながら、不快そうに顔を歪めている。


 ね、念のためもう一度言っておくけどこいつも俺の仲間である。嘘じゃないよ?

 だが、セレスはパーティーの中で最も上昇志向が強く、無能な俺を毛嫌いしているのも事実だった。


「それでクリフト。万年金欠で甲斐性なしのあなたが私たちに食事を振る舞うなんて、どういう風の吹き回しですか? 正直、気味が悪いのですが」


 そのセレスが毒舌ついでに、長い銀色の髪を払いながら俺に問うてくる。


「いやいや、本当にただの俺の奢りだからさ! 気にせず食べてくれよ!」


「そういうことでしたら。ルシウス、アイシャ。それではいただきましょうか」


「だな」「そだね〜!」


 そう言って3人は同時にナイフとフォークを取る。

 息の合った動作。まるで血の繋がった家族のようだった。


 もちろんそこに俺は含まれていない。


 俺は3人が楽しそうに食事をする様子を延々と見ていた。

 4人で囲んでいるテーブルのはずなのに、言いようのない疎外感が俺を襲う。


 昔は――子供の頃はみんなで笑い合っていたように思う。


 いや、より正しく言えば、笑っている彼らを見て俺も笑っていた。


 ルシウスが『冒険』と称して俺たちを連れ回しては高笑いをし、

 アイシャがちょっとした出来事には不釣り合いなほどに満面の笑みを浮かべ、

 セレスが少しツボのずれた親父ギャグで静かにクスリと微笑み――


 そんな彼らを見て、俺は笑っていた。心の底から。


 冒険者になってもそれは変わらなかった。

 辛いことや悲しいこともあったけど、最後はいつも笑っていたような気がする。


 彼らは笑う。昔のように笑い続ける。

 けれど、いつからか俺だけは笑わなくなっていた。


 笑い合う彼らを見ていても、喜び以外の感情で埋め尽くされるようになった。

 それは嫉妬であり、羨望であり、憎悪であり――。


 だが、これでいい。

 そうでなくては――復讐は達成できないのだから。


 せいぜい3人で仲良くやっていろ。

 俺は覚醒したこの能力でお前らには到底届かないような高みに立って思う存分見下してやる。


「――おい、クリフト。お前全然食ってないじゃねえか」


 俺が心の内で復讐の炎をたぎらせていると、隣に座るルシウスが怪訝そうに話しかけてきた。

 丁度いい頃合いか。


「みんな、ちょっと俺の話を聞いてくれないか?」


 俺の復讐への道筋はこうだ。


 まず、俺がこのパーティーに必要ない人間だということを3人に再確認させる。

 そして、彼らの手によって俺をパーティーから追放させる。


 その後は……まあ、適当にサクサクと冒険を進めて、ある程度したら俺の強くなった姿を見せつけてから。

 最後に1言、ありったけの嘲笑を込めて


『ざまぁ』


 と言ってやるのだ。


 それで俺の復讐は完遂する。


「話って何よ〜? ま、どうせクリフトのことだから、またしょーもない話なんだろーけど」


「アイシャに同意します。ですが、もしかしたら暇つぶし程度にはなるかもしれません」


 向かい側に座るアイシャとエレノアが、食事が始まってから初めて俺の方を向く。


「で、話ってなんだよ」


「あ、ああ。その……みんなは俺のことどう思ってるのかな〜って……」


「「「どう思ってる、って?」」」


 俺の問いかけに3人同時に首を傾げる。

 こんなところまで仲良しとは。


 ていうか、改めて俺の評価を聞くって意外と緊張するな……。


「いや、だから、なんていうか、このパーティーでの俺の役目っていうかさ……」


 別に期待しているわけじゃない。

 だが、怖くないと言ったら嘘になる。

 おそらくこの店を出る時には、俺は1人だろう。

 その展開を望んでいるとはいえ、それが少し不安でもあった。


 だけど、ここで言わなければ!


「このパーティーに俺はッ! 俺の能力は本当に必要なのかッ!? ……ってことが、聞き、たい……です」


 勇気を出したものの、後半は俺でも聞き取れないようなか細い音になってしまった。なぜ俺はそこで敬語になる……。


 だが、質問の意図さえ伝われば十分だ。

 俺は3人の反応を伺う。


 俺の突然の問いかけがよほど不思議だったのか、3人はしばらく目をぱちくりさせていたが、


「必要かどうかって、そりゃあ……なぁ?」


 しばらくしてルシウスが他の2人に目配せするように呟く。


「それは、ねぇ?」

「はあ、そうですね……」


「「「必要ないな(よ)(です)」」」


 その時、後頭部を殴りつけたような衝撃が俺を襲った。

 痛みはない。血も出ない。

 だけど、彼らの言葉は今までの冒険で受けてきたどんな傷よりも深く鋭く俺を抉った。


「はは……そう、だよな……」


 予想していたこととはいえ、ここまでショックを受けるとは。

 もしも心の準備が出来ていなかったらどうなっていたことか。


 でもこれで、俺の願いは成就する。


「だってよぉ、唯一の能力が『ゴミを捨てられる能力』だなんて笑っちまうよな!?」


「だよねだよねー! クエストの時なんて戦闘になったら身を隠すくらいしかできないし!」


「この前は確か、逃げようとして真っ先にモンスターに狙われてましたね」


「「「アハハハハハッ!!!」」」


 この日一番の盛り上がりを見せる3人。

 本当に、楽しそうに笑うんだな、お前らは。

 俺はそれが悔しくて、情けなくて、テーブルの下で拳を強く握りしめた。


「だったらさ……。俺なんていらないならさ……」


 俺は笑い合う3人から、せめてその笑顔だけでも引き剥がしてやろうと、できるだけ冷淡な声音で呟いた。


「このパーティーから俺を追放しちまえばいいんじゃないか?」


 ピタリ、と。


 俺の思惑通り、彼らの笑い声が一斉に、残響も残さず、止んだ。

 周囲の喧騒が急速に遠ざかる。

 俺たちだけが、それこそ異空間に飛ばされたように一瞬にして静寂に包まれた。


 さて、このあとにくる言葉はなんだろうか。


 『そうだな、じゃあ好きにしろ』『最初からそうすれば良かった』『さっさとこの場から失せろ役立たず』『せいぜい1人で頑張るんだな』……


 どれでもいいか。待ち受ける結末に大した違いはないだろうから。


「クリフト――」


 静寂を不意に破るルシウスの声。

 心の準備は出来ていないが、元より俺には彼らの言葉を受け止めることしかできない。

 俺は意を決してルシウスと目を合わせて――


「――お前、熱でもあるのか?」


「………………へ?」


 彼が続けた言葉に、固まった。


 え? いま、なんて言ったんだこいつは?


 俺が言葉の意味を理解する前に今度はアイシャが声をあげる。


「ほらぁー! だから言ったじゃん、『トラッシュボックス』使い過ぎたらクリフトの魔力が消耗しちゃうって! なのにルシウスったら使い勝手が良いからって『あの能力なら大丈夫だろ』とかテキトーなこと言って!!」


 なんだ、いったい何が起こってる……?


「そもそもクリフトがこのタイミングで私たちを集めたのが気がかりだったのです。きっと私たちに体調不良を悟らせまいと、逆に気丈に振る舞っていたのだと推測します」


 いや、その推測間違ってます。

 セレスの落ち着き払った声音に釣られるようにして、俺も徐々に平静を取り戻す。


 だがしかし、それでも今俺の目の前で起こっている事態を把握することは困難だった。

 俺が呆然と彼らのやり取りを見つめる中、ルシウスが焦ったように頭をかく。


「おいおい2人して俺を責めるなって! だってしょうがないだろ、異空間を出すだけの地味な能力だから魔力消費も大したことないと思ってたんだから! というかむしろアイシャとセレスのほうが積極的に使ってただろうが!」


「うぐ、そ、それは……」


「それを言われると立つ背がありません……」


「あ、あのっ! ちょ、ちょっといいですかね……!?」


 堪らずここで話に割り込む俺。

 すると、3人は一斉にこちらを向いた。


 俺は皆に注目されていることと、やはりまだ状況を掴みきれていないことに混乱しながらも口を開く。

 

「どうして俺が自らの追放を提案したら、体調不良ってことになるんですかい……?」


 動揺しすぎて口調が変になってしまった。


「そんなの決まってるだろ」


 すると、なにをバカなことを、とでも言いたげな表情でルシウスが言う。


「俺たちの――俺たちだけのパーティーを抜けたいだなんて、言い出しっぺのお前が言うはずないだろ?」


 視界が眩しいほどに開けた気がした。

 陰鬱としていた思考は澄み渡り、握りしめていた拳も解ける。


 そうだった。


 俺が彼らを冒険に誘ったのだ。

 ルシウスと、アイシャと、セレスと――冒険がしたくて。

 彼らと一緒にいつまでも笑い合っていたくて。


 それが始まりだったんだ――。

 

「で、でも……俺はパーティーに必要ないって……お前らが……」


 俺が震えながら発した細い声をアイシャが陽気に拾い上げる。


「そりゃそうでしょ! だってゴミを捨てられるだけの能力なんて戦闘じゃ使い物にならないし! でもさクリフト……」


 そしてアイシャは花が咲いたような満面の笑みを向ける。


「アンタはこのパーティーに必要でしょ」


 すると、それまで黙っていたセレスもそれに続く。


「アイシャの言うとおりです。私はこの4人だから頑張れる。辛いことだって乗り越えられる」


 それからセレスは口元をたおやかに緩ませて言継いだ。


「それに貴方は力がないなりにやるべきことはキチンとこなし、私たちの冒険を裏から支えてきたじゃないですか。不必要であるわけがないです。……とはいえ戦闘では少々、いえ、だいぶ足手まといですが」


 末尾に少しの毒を添えて。


「アハハッ! セレスったら言い過ぎ〜!」


「セレスは嘘がつけねえからな! ハッハッハッ!」


 アイシャとルシウスがどっ、と爆笑する。釣られるようにしてセレスも微笑をたたえる。

 酒場の喧騒すら飲み込むほどの嬌声。


 3人が、笑っている。


 でも――不思議と煩わしさは感じなかった。


「俺が冒険者を続けていられるのは、クリフト――お前のおかげなんだぜ」


「は? え、お、俺の……?」


 不意にルシウスが言い放った言葉に、とうとう俺は戸惑いを隠せなくなる。

 そんな俺を見て、ルシウスは含み笑いを浮かべながらも鷹揚に頷く。


「俺が目指すのは魔王を倒す勇者だ。だが、ただ力が強いだけじゃ真の勇者にはなれない。そのことをお前から教わったんだよ」


 俺なんかから教わることなんて何一つないだろう……?

 だってお前は俺が束になっても敵わないくらい強くてカッコいい男なんだから。


「俺がお前の立場だったら、パーティーを抜けるどころか冒険に出ることすらなかっただろうさ。すぐ死んじまうからな。でもお前は、戦闘になれば逃げはするけど、冒険から逃げることはなかった。いつも俺たちといっしょに冒険してくれた。そういう意味じゃ、お前は誰よりも強い」


「そんな……ことは……」


 急に喉が詰まったように声が出なくなる。

 視界はとうにボヤけて焦点も上手く合わせられない。

 ルシウスは俺を真正面から強く見据えて言い放った。


「俺はお前よりも強くなりたい。だから俺は今もこうして勇者を目指していられるんだ」

 

 目を瞑って下を向く。溢れる感情を必死に押さえつけて。


 何か言わなくては――。


 そう思って顔を上げるど、今度はルシウスの方が頭を下げていた。辛うじて見える目元は悔やむように歪んでいる。


「そして、仲間のことを思いやれないやつは勇者を目指す資格すらない……」


 そう言って更に深く頭を下げると、


「すまなかった、クリフト。お前の気持ちに気づけなくて。お前を笑い者にしてやろうなんて気持ちはなかったんだ。つい調子に乗っちまって……」


 はっきりと聞こえる声音で謝った。

 そうか。ルシウスのやつ、やっぱり俺の気持ちに気付いていたのか。

 気付いていなかったのは俺だけだったんだな。


「アタシも幼馴染だからって何も考えずに好き勝手言い過ぎてたかも……。ごめんね、クリフト」


「1番に言い過ぎていたのは私です。心を許せる仲だからといって、それに甘えて自らの鬱憤や不満のはけ口にしていたのかも知れません。心より謝罪します……」


 アイシャとセレスも申し訳なさそうに顔を伏せる。

 俺は彼女たちが話終わる頃にはもう、涙で前が見えなくなっていた。


 俺は馬鹿だ。大馬鹿だ。

 自分のことばかり考えて、勝手に塞ぎ込んで、あまつさえ復讐だなんて……。


 俺は考えるよりも先に口が動いていた。

 もうこらえる必要はなかったから。


「俺の方こそごめん……! 俺の事どう思ってるだとか追放だとか変なこと言って……」


 そして嗚咽をこらえながら、今度は自分の意志で、しっかりと、彼らに思いを伝えた。


「こんな俺だけど、これからも一緒に冒険してくれるか……?」


「当たり前だろ!」

「アタシたちがいないとダメダメだもんね!」

「まだまだ働いてもらわないと困ります」


 三者三様、違う言葉が返ってきても、それは1つの思いとなって俺の心に届いた。


「ありがとう、みんな……」


 涙を拭った視界には、いつも通り3人の笑顔が映る。

 それを見て、俺も微笑んだ。


 もう迷いはしない。

 俺はこれからもこいつらと一緒に笑い合って生きていく。

 俺は誰にも聞こえないくらいの声量で呟いた。


「復讐を決意して数刻でこの体たらく、か」


 ほんと、()()()ねえや。


「今日は食って飲んで騒ぎまくるぞ! なんてったってクリフトの奢りだからな!」


「もールシウスったらすぐそうやって調子にのる〜。でも賛成〜!」


「すみません店員さん、このメニューの上から下まで全部ください」 

 

 さっきまでの暗い雰囲気が嘘のようだ。

 昔と何も変わらない。これからもずっと笑い合って。

 そうしていたい。


 だから――。


 みんなの笑顔のためにこの力を使うんだ。

 そう決意するまでに逡巡は生まれなかった。


「あのさみんな、実はもう1つ話があるんだ――」


 俺たちの冒険は終わらない。

最後まで読んできただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり短編だからか便利な奴隷がいなくなりそうになったから謝ってるふりをしているようにしか見えないわこれ。
[一言] 多分これはもう少し引き伸ばして見たら、もっと感動出来そうな気がする。
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